サリチル酸を併用する場合のバルプロ酸の薬物動態の変化について

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サリチル酸を併用する場合のバルプロ酸の薬物動態の変化について

☑️はじめに

バルプロ酸はサリチル酸との相互作用が知られています。

遊離型濃度が上昇し、代謝が阻害されるとバルプロ酸の添付文書に記載されています。

症例報告を検索すると、総濃度の上昇が2倍以内なのに遊離型濃度は数倍に増加の例がありました。

何が起きているのでしょう?

薬物動態学の知識を駆使して、この現象を解釈します。

プロローグ

👩‍⚕️バルプロ酸は、総濃度に対する遊離型分率に注意が必要。

👨‍⚕️?

👩‍⚕️TDMで測定するのは総濃度だけど、薬効や副作用と相関するのは遊離型バルプロ酸だよ。

👩‍⚕️例えばアスピリンと併用すると総濃度は不変なのに遊離型分率が上昇して中毒を起こす場合がある。

👨‍⚕️‼️

👩‍⚕️アスピリンとの相互作用は2段階になる。ひとつめは…

出典: twitter.com

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☑️薬物のPK特性から変動要因を決定する

薬物のPKの特徴づけと相互作用のある薬物併用における情報を組み合わせることにより、併用における血中濃度の変動を解釈できます。

順をまとめると以下のようになります。

1.個々の薬物の PK パラメータの特徴づけを⾏う
2.各PKパラメータの変動要因を明確にする(Table 1111〜2332)
3.併用時における各変動要因の変化について検討する

薬物の体内動態パラメータ値と特徴づけ 病態変化に伴う⾎中⾮結合形濃度の予測への応⽤

出典: www.maruzen-publishing.co.jp

☑️PKバルプロ酸のPKパラメータと特徴づけ

デパケン®️錠の添付文書とインタビューフォームからPKに関する情報を得ました。

*Ae=1%(肝代謝型)
*CLtot’=8mL/min/0.64(=B/P)=12.5mL/min
*CLH’=12.5×0.99=12.4mL/min
*EH’=12.4/1600=0.0078(消失能依存型)
*Vd’=12L/0.64(=B/P)=19L(分布容積:小)
*fuP=0.1(蛋白結合依存型)

以上のPKの特徴づけからバルプロ酸はTable1111に分類されます。

☑️薬物の変動要因を明らかにする

バルプロ酸の経口クリアランスは以下の式で表現されます。

総薬物のクリアランス:CLpo=fuB・CLintH/Fa
非結合型薬物のクリアランス:CLpof=CLintH/Fa

PKパラメータの変動要因とそれらの病態の変化に伴う動き Table1111

出典: www.maruzen-publishing.co.jp

☑️代謝阻害を伴う置換反応

サリチル酸とバルプロ酸の相互作用は2段階になっています。

1)蛋白結合置換
2)β酸化の阻害

(代謝阻害を伴う置換反応)

バルプロ酸の総濃度は、クリアランスの変動がfuB↑とCLintH↓で相殺され、わずかに増加する程度です。

一方非結合型濃度は、クリアランスがCLintH↓の影響で低下し、数倍に増加します。

低Albの患者にアスピリン325mg/日の併用で、バルプロ酸の総濃度は1.77倍、非結合型濃度は8倍になった症例報告があります。

Displacement Accompanied by Metabolic Inhibition

出典: ajp.psychiatryonline.org

☑️エーザイによるバファリンA330との併用情報

メーカーサイトにはバファリンA330の併用について、以下の情報がありました。

バルプロ酸ナトリウム

1) サリチル酸は血漿蛋白(アルブミン)結合をバルプロ酸と競合することで、バルプロ酸の血漿中非結合型濃度が上昇すること、および肝代謝阻害によりバルプロ酸中毒が発現することがあります。アスピリンの長期投与時は注意し、血中バルプロ酸濃度のモニターを行ってください。

2) てんかんを有する小児及び成人で、アスピリンとバルプロ酸の併用時では遊離型のバルプロ酸の血中濃度が平均49%(31%~66%)上昇し、遊離バルプロ酸クリアランスが28%減少したとの報告があります。

【バファリン・A330】 薬物相互作用(併用禁忌・併用注意など)について教えて下さい。

出典: faq-medical.eisai.jp

☑️注意しながら併用するべき組み合わせ

3) アスピリンとの併用により振戦及び嗜眠、運動失調等が発現したバルプロ酸中毒の3例が報告されています。

症例ではサリチル酸が中止され回復しています。

Goulden, K. J. et al.:Neurology, 37, 1392(1987) BF-0133

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️低用量アスピリンでも注意が必要

バルプロ酸とアスピリンの相互作用ですが、高用量だけでなく低用量アスピリンとの相互作用も報告されています。

原因不明のバルプロ酸中毒があれば、総濃度だけでなく遊離型濃度の測定が有用かも知れません。

Valproic Acid Toxicity Associated With Low Dose of Aspirin and Low Total Valproic Acid Levels

– November 2009
– Journal of Clinical Psychopharmacology 29(5):509-11

出典: www.researchgate.net

☑️まとめ

バルプロ酸の治療域は40~120μg/mLです。

また服用量は一般的には定常状態の平均血漿濃度80~100μg/mL、蛋白結合が飽和する50μg/mLまでは90%以上がアルブミンと結合しています。

しかし、バルプロ酸はアスピリンとの相互作用が知られています。
1)蛋白結合置換 (fuB↑:非結合分率の増加)
2)β酸化の阻害 (CLintH↓:肝固有クリアランスの低下)

PKの特徴づけからバルプロ酸はTable1111に分類され、経口クリアランスは以下の式で表現されます。

総薬物のクリアランス:CLpo=fuB・CLintH/Fa (変動が相殺されます)
非結合型薬物のクリアランス:CLpof=CLintH/Fa (変動が相殺されません)

これにより、総濃度では僅かな上昇に見えても、薬効を担う非結合型濃度の割合が顕著に上昇している場合があります。

測定時には結果の解釈に注意してください。

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最終更新日2021年9月8日

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