過多月経に抗プラスミン薬のトラネキサム酸は有効かつ安全ですか

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過多月経に抗プラスミン薬のトラネキサム酸は有効かつ安全ですか

☑️はじめに

鉄欠乏性貧血において、鉄剤を使用しているのにも関わらず、Hb値、フェリチン値の改善が乏しい場合があります。

これは鉄剤不応性鉄欠乏性貧血と呼ばれ、鉄剤補充後4-6週でHb<1g/dLの上昇しかないことで定義されます。

この場合、持続性の出血の存在、過多月経(月経時の出血≧80mLで定義)、鉄吸収不良を考慮しなければなりません。

今回は過多月経に伴う鉄剤不応性鉄欠乏性貧血に焦点を絞り、過多月経に対するトラネキサム酸のエビデンスを紹介します。

さくら先輩、わたしも知りたいです。

ゆきさん、一緒に見ていこう。

プロローグ

Rp. フェロミア50mg 28日分
  トランサミン2000mg 月経開始時から 5日分

👩貧血がなかなか改善しなくて、追加になりました。
👨‍⚕️💭貧血にトランサミン?

👩‍🎓これは過多月経に対する抗プラスミン薬。コクランで13のRCTをメタ分析しています。

NNT4で過多月経を改善。1回の経血量を40~50%減少させ、QOLも改善。血栓症を増加させる証拠もありませんでした。

👨‍⚕️画期的ですね。
👩‍🎓バイアスやサンプルサイズなど研究の質の問題はありますが、試す価値はありそうですね。

出典: twitter.com

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☑️鉄欠乏性貧血のマネジメント

鉄欠乏性貧血は小球性~正球性貧血ですので、平均赤血球容積(MCV)が診断に有用です。

また、鉄欠乏を確認するため、フェリチン値、鉄飽和度も有用です。

MCV<70fL、もしくはフェリチン値<20ng/mLだけで鉄欠乏性貧血と診断可能とする報告もあります。

鉄剤を補充し、1カ月ごとの血算、フェリチン値フォローを行います。Hbは1週から、フェリチンは1-2週から上昇します。

鉄剤補充に加えて、鉄欠乏の原因精査を必ず行う必要があります。

妊娠可能年齢の女性では悪性腫瘍の探索の必要性は低く、過多月経や不正性器出血があれば婦人科診察が勧められます。

「ホスピタリスとのための内科診療フローチャート」

出典:

☑️鉄剤不応性鉄欠乏性貧血について

鉄欠乏性貧血において、鉄剤を使用しているのにも関わらず、Hb値、フェリチン値の改善が乏しい場合があります。

これは鉄剤不応性鉄欠乏性貧血と呼ばれ、鉄剤補充後4-6週でHb<1g/dLの上昇しかないことで定義されます。

この場合、持続性の出血の存在、過多月経(月経時の出血≧80mLで定義)、鉄吸収不良を考慮しなければなりません。

「ホスピタリスとのための内科診療フローチャート」

出典:

☑️過多月経について

そもそも月経とは、通常約1か月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる、子宮内膜からの周期的出血のことを言います。

月経異常は➀無月経、②月経周期の異常、③月経血量の異常、④月経持続期間の異常、⑤機能性子宮出血、⑥月経困難症に分類されます。

月経血量の異常として、過多月経と過少月経があります。

過多月経は日本では合計140mL以上の経血、英国では80mL以上の経血と定義されます。有病率の推定値は4%から51%の範囲と考えられています。

過多月経の診断は困難です。

1周期の月経量を正確に測定することが難しく、また他の人の経血量と比較も出来ないからです。

パッドの交換頻度、凝血塊の有無、 過去の月経量との比較(増加傾向の有無)などと言った、主観的な指標では判断困難です。

しかしながら、80mL以上の経血があると60%の女性が貧血になると言う事実から、鉄欠乏性貧血の有無、具体的にはHb値, MCV, Fe, フェリチン等の客観的指標を用いるのは有用と考えられます。

過多月経(80mL以上の経血量)に関連する因子として、Warnerらはフェリチンレベル低値でオッズ比5.71[95%CI : 1.9-17.4]と報告しています。
(「女性医学ガイドブック 思春期・性成熟期編」より)

過多月経/過少月経の診断と治療
田村 博史

出典: www.congre.co.jp

☑️過多月経に対する抗プラスミン薬のエビデンス:コクランレビュー

過多月経にはトラネキサム酸が用いられて来ましたが、有効性があるか、血栓症のリスクを増やさないかのエビデンスは長らく不明でした。

コクランからメタ分析のレビューが2018年に発表されましたので、その結果をここにまとめます。

治療必要数(NNT)4で過多月経を改善。1回の経血量を40~50%減少させ、QOLも改善。血栓症を増加させる明確な証拠もありませんでした。

過多月経に対する抗線溶薬(トラネキサム酸) 抗線溶薬と他の治療法を比較した13のランダム化比較試験 (RCT) のレビュー
・抗線溶薬(トラネキサム酸)は、1回の月経周期あたり経血量40〜50%減少させる。
・抗線溶薬治療は、他の過多月経治療法(LNG-IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム:ミレーナ®)以外)より優れていた。
・プラセボは10.9%に対し、トラネキサム酸は36.3%で過多月経が改善した。
・抗線溶薬の服用で血栓症などの副作用が増加するというエビデンスはなし。

問題点
・臨床研究のエビデンスの質が低い(研究方法、対象など)。
・多くの研究でトラネキサム酸3〜4g/日が使用されていた。    

日本では、トラネキサム酸 0.75-2g/日(性器出血に対する保険適応) この量で過多月経に有効かエビデンス少なく注意が必要

Antifibrinolytics for heavy menstrual bleeding (Review)
Bryant-Smith AC, Lethaby A, Farquhar C, Hickey M
Cochrane Database Syst Rev. 2018

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️原著の翻訳

PMCに収載されている論文の要旨をDeepLで翻訳しました。

「多量の月経出血に対する抗線溶薬」

背景:

月経時の大量出血(HMB)は、女性にとって重要な身体的・社会的問題である。

HMBの内服治療には、子宮内膜の血栓溶解酵素を阻害することで出血を抑える抗線溶薬が用いられる。歴史的に、HMBに抗線溶薬のトラネキサム酸(TXA)を使用すると、静脈血栓塞栓症のリスクが高まるのではないかという懸念があった。

これは、深部静脈血栓症(足の血管にできる血の塊)と肺塞栓症(肺の血管にできる血の塊)の包括的な用語である。

目的:

月経時の大量出血に対する治療としての抗線溶療薬の有効性と安全性を明らかにすること。

検索方法:

2017年11月にCochrane Gynaecology and Fertility (CGF) Group trials register,CENTRAL,MEDLINE,Embase,PsycINFOと2つの試験登録を,参考文献の確認と研究著者や当該分野の専門家への連絡と合わせて検索した。

選定基準:

HMBを発症した生殖年齢の女性を対象に、抗線溶療薬とプラセボ、無治療、その他の医療行為を比較した無作為化対照試験(RCT)を対象とした。

12件はTXAを使用し、1件はTXAのプロドラッグ(Kabi社)を使用しました。

データの収集と分析:

Cochraneが期待する標準的な方法論を用いた。主要評価項目は、月経血量(MBL)、HMBの改善、血栓塞栓症イベントとした。

主な結果:

13件のRCTを対象とした(1312名を解析)。

エビデンスの質は非常に低く、中程度であった。

主な限界は、バイアスのリスク(盲検化の欠如や研究方法の報告不足に関連する)、不正確さ、一貫性のなさであった。

・抗線溶療薬(TXAまたはKabi)対無治療またはプラセボ

抗線溶療薬は、プラセボと比較して、平均出血量の減少(MD -53.20 mL/サイクル、95% CI -62.70~-43.70、I² = 8%; 4件のRCT、参加者=565人、中等度のエビデンス)および改善率の向上(RR 3.34、95% CI 1.84~6.09、3件のRCTS、参加者=271人、中等度のエビデンス)と関連していた。

これは、無治療で11%の女性が改善した場合、抗線溶療薬を服用している女性の43%から63%が改善することを示唆している。

有害事象については、両群間に差があるという明確な証拠はなかった(RR 1.05、95%CI 0.93~1.18、1RCT、参加者=297人、低質エビデンス)。

この結果を報告した2つの研究では、血栓塞栓症のイベントが1件のみ発生した。

・TXAと黄体ホルモン剤の比較

Pictorial Blood Assessment Chart(PBAC)を用いて測定した平均出血量に両群間の差を示す明確な証拠はなかったが(MD -12.22ポイント/サイクル、95%CI -30.8~6.36、I² = 0%、3つのRCT、参加者=312人、非常に低い質の証拠)、TXAは改善の可能性が高いことと関連していた(RR 1.54、95%CI 1.31~1.80、I² = 32%、5つのRCT、参加者=422人、低い質の証拠)。

これは、プロゲストーゲンで46%の女性が改善した場合、TXAでは61%から83%の女性が改善することを示唆する。

有害事象は、TXA群でより少なく見られた(RR 0.66、95%CI 0.46~0.94、I² = 28%、4つのRCT、参加者=349人、低質エビデンス)。なお、いずれの群でも血栓塞栓症は報告されなかった。

・TXAと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の比較

TXAは、平均出血量の減少(MD -73.00mL/サイクル、95%CI -123.35~-22.65、1RCT、参加者=49人、低質エビデンス)および改善の可能性の高さ(RR 1.43、95%CI 1.18~1.74、12 = 0%、2RCT、参加者=161人、低質エビデンス)と関連していた。

これは、NSAIDsで61%の女性が改善する場合、TXAでは71%から100%の女性が改善することを示唆している。

有害事象は珍しく、比較データはなかった。血栓塞栓症のイベントは報告されなかった。

・TXAとエタムシル酸塩の比較

TXAは平均出血量の減少(MD 100mL/サイクル、95%CI -141.82~-58.18、1RCT、参加者=53人、低質エビデンス)と関連していたが、改善率(RR 1.56、95%CI 0.95~2.55、1RCT、参加者=53人、非常に低質エビデンス)や有害事象による中止率(RR 0.78、95%CI 0.19~3.15、1RCT、参加者=53人、非常に低質エビデンス)で両群に差があるかどうかを判断するには十分なエビデンスがなかった。

・TXAと漢方薬(Safoof HabisおよびPunica granatum)の比較

TXAは、3ヵ月間の治療後の平均PBACスコアの低下と関連していた(MD -23.90 pts/サイクル、95% CI -31.92 to -15.88、I² = 0%、2つのRCT、参加者=121人、低質エビデンス)。

改善率に関するデータはなかった。TXAは、治療段階終了後3ヵ月後の平均PBACスコアの低下と関連していた(MD -10.40ポイント/サイクル、95% CI -19.20~-1.60、I²は該当せず、1件のRCT、参加者=84人、非常に低い品質の証拠)。

有害事象の発生率に両群間で差があるかどうかを判断するには十分な証拠がなかった(RR 2.25、95%CI 0.74~6.80、1RCT、参加者=94人、非常に低い質の証拠)。

血栓塞栓症のイベントは報告されなかった。

・TXAとレボノルゲストレル子宮内避妊システム(LIUS)の比較

TXAはLIUSよりもPBACスコアの中央値が高く(中央値の差125.5ポイント、1RCT、参加者=42人、非常に低い質のエビデンス)、改善の可能性が低い(RR 0.43、95%CI 0.24~0.77、1RCT、参加者=42人、非常に低い質のエビデンス)ことと関連していた。

これは、LIUSで85%の女性が改善する場合、TXAでは20%から65%の女性が改善することを示唆している。

有害事象の発生率に両群間で差があるかどうかを判断するには十分な証拠がなかった(RR 0.83、95%CI 0.25~2.80、1RCT、参加者=42人、非常に質の低い証拠)。

血栓塞栓症のイベントは報告されなかった。

著者の結論:

抗線溶療法(TXAなど)は、プラセボ、NSAIDs、経口黄体ホルモン剤、エタムシル酸塩、または漢方薬と比較して、HMBの治療に有効であると思われるが、LIUSよりも効果が低い可能性がある。

抗線溶血薬が有害事象のリスク増加と関連するかどうかを判断するには、ほとんどの比較対象のデータが少なすぎ、また、ほとんどの研究では特に血栓塞栓症が結果として含まれていなかった。

Antifibrinolytics for heavy menstrual bleeding (Review)
Bryant-Smith AC, Lethaby A, Farquhar C, Hickey M
Cochrane Database Syst Rev. 2018

出典: www.ncbi.nlm.nih.gov

☑️まとめ

鉄剤を服用していても改善しない、過多月経を伴う鉄欠乏性貧血のマネジメントについて見てきました。

抗プラスミン薬であるトラネキサム酸が有効で安全に使用できる可能性があります。

コクランレビューから組み入れ基準を満たす4人に1人の割合で経血量を半分に低下させ、QOLも改善させることが分かりました。

静脈血栓塞栓症(VTE)を増やす明確な証拠はありませんでしたが、エンドポイントにVTEが含まれない研究が多く、検出力不足でした。

総じてエビデンスの質は低~中程度であり、また海外用量に比して国内の承認用量が半分であることに注意が必要です。

出典: www.ncbi.nlm.nih.gov

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最終更新日2021年12月14日

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