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薬剤性下痢症でメトホルミンの投与量は標準化eGFRから判断してよいですか
☑️はじめに
慢性的な下痢が続いており、服用中の薬剤に下痢と関連するものはあるだろうかと医師より照会を受けました。
慢性下痢症は鑑別疾患も多く、薬剤性下痢症は始めの段階で除外すべき疾患です。このため薬剤師にコンサルが来たと思われました。
患者から聞き取りした内容では、3日に1回の下痢が1年続き、体重が10kg減少。少量の便が午前中続くため、日常生活にも支障があったそうです。
さくら先輩、薬剤性のものでしょうか?
どうかな。休薬出来る薬なら試す価値はあるね。どうなるか見て行こう。
プロローグ
Rpメトホルミン 1000mg/日
👵我慢してたけど下痢が数ヶ月続いてね…👨⚕️慢性下痢症。薬剤性の可能性あるかな?
👩🎓メトホルミンは下痢の頻度は高いです。腎排泄なので投与量が多めの可能性あります。eGFR30-45では750mg/日までが目安です。
☎️成る程。メトホルミン500mg/日に減量でビオフェルミン追加して下さい。
数日後…
👨⚕️📞その後如何ですか?
👵📞下痢がぴたっと止まりましたよ。ありがとうね。
👩🎓今回はメトホルミンが原因だった可能性が高いですね。慢性下痢症は鑑別が多い疾患です。今回はまず除外すべき薬剤性で当たりをひきましたが、各自鑑別の流れを調べておいて下さいね。
出典: twitter.com
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☑️冒頭症例のその後
症例の薬歴を確認すると目を引いたのはメトホルミンでした。
メトホルミンは臨床試験UKPDS 34, UKPDS 80で大血管疾患リスク低減効果が証明され、安価な薬剤です。英国の臨床ガイドラインNICEでも糖尿病治療の第一選択とされます。
ですが、注意として薬剤性下痢症の頻度の高いことが知られています。腎排泄型のため、腎機能に応じて減量する必要もあります。
メトホルミンの心血管イベント予防効果と 使用における注意点
☑️介入と結果
患者はメトホルミンを10年余にわたり500mg/日、1年前から1,000mg/日服用していました。
体重と血清クレアチニンは不明でしたが、女性で85歳と言う年齢を考えると、個別eGFR<45mL/minである可能性が高いと思われました。
国内の添付文書ではeGFR30以下は禁忌、30-45では1日最高用量の目安を750mgとしています。
医師にはメトホルミンの減量とビオフェルミン®の追加を処方提案しました。ビオフェルミン®が追加となり、メトホルミンは500mg/日に減量となりました。
数日後に患者に電話で確認したところ、下痢は蛇口を閉めるように止まったとのことです。
☑️糖尿病と下痢に関する疫学
1型及び2型糖尿病患者における下痢の有病率を調査した報告がありましたので紹介します。
無作為に抽出した285名の1型及び2型糖尿病患者を対象としたアンケート調査において、糖尿病患者の下痢の発生は8%で、糖尿病を有しない対照群8%と同じでした。
また、糖尿病患者を(1)インスリン依存性糖尿病患者(IDDM)(2)SU剤(3)メトホルミン(4)SU剤とメトホルミン(5)食事療法に分けたところ、下痢の発症はメトホルミン投与群、およびメトホルミン+SU剤併用群ではともに20%と、メトホルミン非投与群の6%より有意に多く見られました。
メトホルミン投与群の患者には、IDDMに多く見られた糖尿病性神経障害による下痢はなく、メトホルミン投与を中止したすべての患者において、下痢は2〜5日以内に消失しました。
Diarrhea and metformin in a diabetic clinic
☑️メトホルミン誘発性遅発下痢症の症例報告
メトホルミンによる下痢は投与初期や増量時のものが有名ですが、遅発性に発症する慢性下痢症についても症例報告がありました。
メトホルミンを5年間服用していた2型糖尿病の80歳男性に、遅発性慢性重症無痛性下痢を呈した症例を報告します。
5年間メトホルミンを服用していた80歳男性。複数の検査および画像検査を受けましたが,基礎疾患を認めませんでした。
詳細な薬物検査の後、メトホルミンの中止を試みたところ、症状は即座に消失しました。
本症例は、たとえ長年メトホルミンに耐えられていた患者であっても、新たに発症した下痢の原因としてメトホルミンを考慮することの重要性を強調し、その中止により不必要な検査に伴う患者の不便や不快感を防ぐことができる可能性があることを示すものです。
Metformin as a cause of late-onset chronic diarrhea
☑メトホルミン誘発性下痢症の病態生理は不明
メトホルミンによる下痢の病態生理は不明です。
考えられる機序としては、腸管運動の亢進、回腸での胆汁酸塩の再吸収の低下による吸収不良 、グルカゴン様ペプチド-1を含む腸管ペプチドホルモンレベルの変化があります。
メトホルミンによる下痢が、なぜ治療開始時ではなく、治療後期に現れるのかも不明です。
Metformin as a cause of late-onset chronic diarrhea
☑️プロバイオティクスは非臨床試験のみ報告あり
動物実験で、ビオフェルミン®はメトホルミンの効果を損ねることなく下痢を改善したとする報告があります。
エビデンスレベルの無い介入ですが、安価で害のない薬剤ですので、試してもよいと考えました。
Bifidobacterium bifidum G9-1 ameliorates soft feces induced by metformin without affecting its antihyperglycemic action
☑️メトホルミンは腎排泄型の薬剤
メトホルミンは腎排泄型で、腎機能に応じた用量調整が必要な薬剤です。
過量のメトホルミンは下痢のみならず乳酸アシドーシスのリスクになり得る為、適切に減量する必要があります。
添付文書ではeGFR30未満で禁忌、それ以上では層別に1日最高投与量の目安を定めています。
☑投与設計には標準化eGFRでなく、個別eGFRまたは近似されるクレアチニンクリアランスを用いる
メトホルミンの添付文書では、体格を考慮しない標準化eGFRにより用法用量が規定されています。
しかしながら、同じ標準化eGFR60でも、体重が80kgとの男性と、体重が半分の40kgしかない女性で、適切な投与量が同じと言えるでしょうか。
体格の反映されない標準化eGFRではなく、体格を考慮した個別eGFR、またはCCrを用いるべきと考えます。
〇個別eGFR=標準化eGFR・患者体表面積/1.73
…体表面積が変数に含まれる。一般に臓器重量(クリアランスに相関)は体表面積に比例する。〇CCr=(140-年齢)・体重/血清クレアチニン・72 (女性の場合は0.85を乗じる)
…年齢・体重が変数に含まれる。腎機能は年齢に相関して低下する。分布容積は体重に比例する。
☑️個別eGFRに読み替える方法は妥当性が高いがコンセンサスがないので注意
個別eGFRに読み替える方法の妥当性は成書にも記されています。
新薬のSGLT2阻害薬の添付文書に示される腎機能は標準化eGFRになっています。
しかし固定用量の場合、標準化eGFRは体重が入っている推算CCrよりも劣ると考えられます。
(中略)腎排泄性のハイリスク薬ではCCrとGFRのわずかな差が重篤な副作用の原因になりかねません。
(中略)また固定用量の場合、添付文書上の腎機能がmL/min/1.73m2で表されていても、個別eGFR(mL/min)と見なし、標準的な体型でない場合の症例に用いる場合にも、個別eGFR(mL/min)で投与設計するしかありません。
(『腎機能に応じた投与戦略』P.73-74[医学書院、2016])
ただし、この読み替えはコンセンサスを得られていないことが指摘されていますので、注意が必要です。
固定用量(mg/日投与のように、体格を考慮せず一律の用量となっているもの)の場合、体格(身長・体重)を考慮した患者特有の腎機能である個別eGFR(mL/min)で示すべきで、メトホルミンの添付文書表記も、本来そうあるべきなのだ。
でも、そうはなっていない。その理由は米国のクレアチニン測定法の変更に由来する。そして、メトホルミンは腎排泄型で、乳酸アシドーシスという重篤な副作用を内包するハイリスク薬。ということで、先の引用に従い、メトホルミンの禁忌である「重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)のある患者」は、個別eGFRの 30mL/min未満と読み替えるわけだ(*3)。
*3:この「ハイリスク薬において、添付文書表記が標準化eGFRであっても個別eGFRとみなして投与する」という提案は、現時点では、コンセンサスを得られたものではない。『山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」』
☑️英文PDFの症例報告を読んでみよう
もう一例症例を掲載します。全文を紹介したいので、PDFをShaperとDeepLで、読んで見て下さい。
Case Report: Adverse drug reactions in unrecognized kidney failure
Can Fam Physician . 2004 Oct;50:1385-7.
PMID: 15526875 PMCID: PMC2214509
Shaper/DeepL
出典: dream-exp.net
☑️まとめ
メトホルミン服用患に遅発性の慢性下痢症が起きる場合があることを見て来ました。
高齢者は加齢とともに腎機能が低下している為、適切に減量していないと下痢の発症につながる場合があります。
処方設計をするには、体格を考慮した個別eGFR、またはそれに近似するクレアチニンクリアランスを使用することが重要です。
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最終更新日2021年2月8日
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