ベルソムラ®は相互作用の影響を受けやすい基質に分類されますか

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ベルソムラ®️は相互作用の影響を受けやすい基質に分類されますか

☑️はじめに

ベルソムラ®️添付文書およびインタビューフォームを読むと、強い阻害薬とは併用禁忌、中程度の阻害薬とは併用注意(減量を考慮)であることが記載されています。

「CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等) 併用する際には1日1回10mgへの減量を考慮する」(添付文書)

「外国人健康成人を対象としたジルチアゼム(CYP3A を中等度に阻害する薬剤)との薬物相互作用試験で(中略)中等度のCYP3A阻害剤併用時には10 mgへの減量を考慮することとした。」(IF)

出典:

強い阻害薬、中程度の阻害薬とは何を指すのでしょう。IFの同じ箇所では「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(案)」が引用されています。

強い阻害薬の定義…………相互作用を受けやすい基質薬のAUCを5倍以上に上昇させる
          (ケトコナゾールでは10倍以上の上昇が報告されている)
中程度の阻害薬の定義……相互作用を受けやすい基質薬のAUCを2~5倍に上昇させる

医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(案)

出典: www.pmda.go.jp

強い阻害薬との併用では、驚くことにAUC10倍以上の報告もあるようです。

ベルソムラ®️は主としてCYP3A4で代謝されます。ケトコナゾールと併用した場合、同程度にAUCが上昇するのでしょうか?

結論から言うと否です。何故ならベルソムラ®️はCYP3A4代謝寄与率が高くない、言い換えれば、相互作用を受けやすい基質ではないからです。

さくら先輩、ベルソムラ®️はどれくらい相互作用の影響を受けやすい基質ですか?

ゆきさん、いい質問ね。調べ方を一緒に見ていこう。

プロローグ

👩‍🎓ベルソムラ®は主としてCYP3A4で酸化され、グルクロン酸抱合を受け排泄されます。

👩‍🎓尿中未変化体排泄率も1%以下、腎機能低下時のAUC上昇率も1.2倍と誤差範囲。腎排泄の寄与は小さいです。

👩‍🎓CYP3A4の代謝寄与率は大きいように思われますが、実はそうではないことがデータから予想されます。
👩‍🎓それを一緒に見て行きましょう。

出典: twitter.com

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☑️インタビューフォームから併用に関する情報を確認する

ベルソムラ®は阻害薬の併用でどの程度AUCが上昇するのでしょうか。先ずはインタビューフォームから臨床データを得ました。

ケトコナゾールの併用でAUC上昇率は2.8倍です。典型的な強い阻害薬との併用で、この数値です。

ジルチアゼムの併用でAUC上昇率は2.0倍です。典型的な中程度の阻害薬との併用で、この数値です。

AUC上昇率は点推定値ですが、信頼区間は広く見積もっても1/2~2倍の範囲に収まると予想されます。AUC上昇率は明らかに高度ではないと分かります。

ベルソムラ®インタビューフォーム

出典:

☑️ベルソムラ®インタビューフォームの記載事項を確認する

健康成人(10 例)を対象に、本剤(4mg単回)と CYP3A を強く阻害するケトコナゾール(400 mg 1日1回経口反復)11日間反復投与の2 日目に併用した際、スボレキサントの Cmax 及び AUC0-∞は23%及び179%増加した。

外国人健康成人を対象としたジルチアゼム(CYP3Aを中等度に阻害する薬剤)との薬物相互作用試験で、ジルチアゼム(240mg1日1回)反復投与時に本剤(20mg)を単回投与した際のスボレキサントのCmax及び AUCは、それぞれ22%及び105%上昇した。

ベルソムラ®インタビューフォーム

出典:

☑️試験情報の詳細についてPubMedで確認する

ベルソムラ®と阻害薬との併用試験について、PubMedで論文を見つけました。そちらも紹介しておきます。条件設定の理由などが確認できます。

Effect of CYP3A Inhibition and Induction on the Pharmacokinetics of Suvorexant: Two Phase I, Open-Label, Fixed-Sequence Trials in Healthy Subjects

出典: www-ncbi-nlm-nih-gov.translate.goog

☑️CR-IR法を用いてベルソムラ®️のCYP3A4代謝寄与率CRを求めてみる

次に、ベルソムラ®がどの程度相互作用の影響を受けやすい基質なのか調べてみましょう。

相互作用を定量的に予測する、CR-IR法と呼ばれる手法を使います。次式が成り立ちます。

AUC上昇率=1/(1-CR・IR)
CR : 基質の代謝寄与率、IR:阻害薬の阻害率

ケトコナゾールのIRは文献値から1.0

2.8=1/(1-CR)  ∴CR=0.64

ジルチアゼムのIRは文献値から0.80
2.0=1/(1-0.8CR)  ∴CR=0.63

ベルソムラ®のCYP3A4代謝寄与率CRは0.63-0.64程度と分かりました。

これはPISCSの分類から中程度に影響を受けやすい基質と言えます。

この結果からベルソムラ®️にはCYP3Aによる酸化以外の代謝経路の存在する事が示唆されます。

「クリアランス理論に基づいた医薬品情報の評価と提供に関する研究」

大野能之

出典: www.jstage.jst.go.jp

☑️まとめ

ベルソムラ®️は相互作用の影響を中程度に受けやすい基質であることを見て来ました。

この理由で、強い阻害薬と併用しても、影響を受けやすい基質の場合ほどAUC上昇率は顕著ではありません。

一般に相互作用の影響をどの程度受けやすい基質であるかは、代謝寄与率で分類することが出来ます。

ベルソムラ®️の代謝寄与率CRは未知でしたが、既知のケトコナゾール、及びジルチアゼムの代謝阻害率IRと併用時AUC上昇率から導き出すことが出来ました。

中程度の寄与率から、明らかにされていない代謝経路の存在も示唆されます。

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最終更新日2021年2月1日

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