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α-グルコシダーゼ阻害薬は肝硬変患者の長期転帰を改善しますか
☑️はじめに
肝硬変は、肝疾患の中で重要な位置を占めています。
繰り返される肝組織の損傷、炎症、線維化により特徴づけられます。
世界的に広まり、多くの人々が影響を受け、死亡者も多い疾患です。
ところで、肝硬変は血糖値の恒常性維持にも影響を及ぼす為、糖尿病や耐糖能異常を併発することが一般的です。
α-グルコシダーゼ阻害薬は抗糖尿病薬のひとつですが、食後の高血糖をコントロールするのに役立ち、肝硬変患者に適している可能性があります。
また、肝臓に負担をかけず、安全性が示されている薬剤です。
しかし、肝硬変の転帰に関する長期的な研究はこれまでありませんでした。
そこで、糖尿病を有する肝硬変患者への、α-グルコシダーゼ阻害薬の影響を評価するため、大規模なコホート研究が台湾で実施されました。
α‐グルコシダーゼ阻害薬…もはや役割を終えた薬と思っていました。こんなポテンシャルがあるなんて。
実感だけど、知るほどに分からないことが増えて行くね。知識をアップデートして行くことが大事だよ。
奥村友紀さんによるα-グルコシダーゼ阻害薬と肝硬変
プロローグ
👦小雪姐、日本のガイドラインではどうなっているの?
👧ええと、日本消化器病学会の肝硬変診療ガイドライン2015では…💻「…現時点で肝硬変の食後高血糖対策として推奨されている薬物は、インスリンとα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)であり、夜間、早朝の低血糖対策には就寝時の軽食摂取が有効と考えられる。」
👦2020年版ではα-グルコシダーゼ阻害薬への言及はないみたいだけど。
👧うん、でもこの論文が出たのはガイドラインが策定されたより後の2022年だから。
👦あ。
出典: www.jmedj.co.jp
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☑️肝硬変の疫学
肝硬変は、慢性肝疾患の後期段階に現れる病像です。
繰り返される損傷、壊死性炎症、線維性隔壁に囲まれた結節の再生、実質の消滅、肝血管構造の歪みによって特徴づけられます。
B型またはC型肝炎ウイルス感染、飲酒、非アルコール性脂肪性肝疾患は、単独または相乗的に肝硬変を引き起こす可能性があります。
世界中で約16億9000万人が肝硬変であり、2019年には約147万人が肝硬変で死亡しました。
過去のB型肝炎ウイルス(HBV)の流行により、台湾では肝硬変は珍しくなく、肝硬変患者数は約784万人(このうち23.7%近くがHBV感染に起因)に上ります。
Liver disease and diabetes: association, pathophysiology, and management
Hala Ahmadieh, et al.
Diabetes Res Clin Pract . 2014 Apr;104(1):53-62.
☑️肝硬変と糖尿病
肝硬変は、門脈-全身シャントと相まって、肝インスリン取り込みと分解を減少させます。
その結果、全身の高インスリン血症およびインスリン抵抗性をもたらす可能性があります。
さらに、肝硬変ではグルコースの代謝恒常性が損なわれています。
そのため、肝硬変患者の約60%~80%は耐糖能異常を有し、30%は糖尿病を有しています。
糖尿病は肝硬変の臨床経過と死亡リスクを悪化させる可能性があります。
したがって、肝硬変患者における適切な血糖コントロールは必須です。
しかし、肝硬変患者では栄養状態が最適でないことや薬物代謝が変化するため、糖尿病の適切な管理や抗糖尿病薬の選択は複雑です。
Diabetes mellitus in patients with cirrhosis: clinical implications and management
Laure Elkrief, et al.
Liver Int . 2016 Jul;36(7):936-48.
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬と肝硬変
α-グルコシダーゼ阻害薬の特徴
α-グルコシダーゼ阻害薬は、小腸の刷子縁に存在するα-グルコシダーゼに作用する薬です。
この酵素を可逆的かつ競合的に阻害し、小腸上部での二糖類や多糖類の消化を遅延させ、グルコースの吸収を遅延させ、食後血糖値を低下させます。
α-グルコシダーゼ阻害薬にはヘモグロビンA1Cを約0.8%、食後グルコースを約41.4mg/dl低下させる効果があります。
肝硬変は主に食後高血糖と関連しているため、α-グルコシダーゼ阻害薬は肝硬変患者の糖尿病治療に適している可能性があります。
肝硬変に適す可能性がある
さらに、α-グルコシダーゼ阻害薬は肝硬変患者において肝代謝を受けず、肝機能を変化させることもありません。
アルコール性肝硬変、非アルコール性肝硬変、インスリン注射を受けている肝硬変患者において、α-グルコシダーゼ阻害薬が安全で有効であることが研究で証明されています。
あるランダム化試験では、肝硬変で軽度の肝性脳症を有する患者において、アカルボースが血中アンモニア濃度を低下させ、認知機能を改善することが示されました。
しかし、これらはいずれも小規模で短期間の研究です。
Consensus Statement on Dose Modifications of Antidiabetic Agents in Patients with Hepatic Impairment
Kalyan Kumar Gangopadhyay, et al.
Indian J Endocrinol Metab .2017 Mar-Apr;21(2):341-354.
☑️エビデンス
そこで、糖尿病と肝硬変を有する患者におけるα-グルコシダーゼ阻害薬の肝臓関連の長期転帰を検討するために、全国規模のコホート研究が実施されました。
邦題は「糖尿病を有する肝硬変患者におけるα-グルコシダーゼ阻害薬の肝関連長期転帰」です。
【背景】
肝硬変患者における糖尿病の適切な管理は困難である。
糖尿病と肝硬変を有する患者におけるα-グルコシダーゼ阻害薬の肝臓関連の長期転帰を検討するために研究が実施された。
【方法】
台湾のNational Health Insurance Research Database(NHIRD)を利用した。
2000年1月1日から2017年12月31日の間に代償性肝硬変を有する2型糖尿病コホートから、傾向スコアマッチさせたα-グルコシダーゼ阻害薬使用者と非使用者を募集し、2018年12月31日まで追跡した。
ロバスト標準誤差・サンドイッチ標準誤差推定値を用いたCox比例ハザードモデルを用いて、α-グルコシダーゼ阻害薬使用者と非使用者の主要アウトカムのリスクを評価した。
【結果】
追跡期間中の死亡発生率は、α-グルコシダーゼ阻害薬使用者と非使用者でそれぞれ1,000患者年あたり65.56対96.06であった。
多変量調整モデルでは、α-グルコシダーゼ阻害薬使用者は、
・全死亡…………(aHR 0.63、95%CI 0.56-0.71)
・肝細胞癌………(aHR 0.55、95%CI 0.46-0.67)
・非代償性肝硬変(aHR 0.74、95%CI 0.63-0.87)
・肝性脳症………(aHR 0.72、95%CI 0.60-0.87)
・肝不全…………(aHR 0.74、95%CI 0.62-0.88)のリスクが減少した。
α-グルコシダーゼ阻害薬の累積投与期間が364日以上の患者では、これらの転帰のリスクが非使用者よりも有意に低かった。
【結論】
α-グルコシダーゼ阻害薬の使用は、糖尿病を有する代償性肝硬変患者における死亡率、肝細胞癌、非代償性肝硬変および肝不全のリスクの低下と関連していた。
α-グルコシダーゼ阻害薬は代償性肝硬変患者の糖尿病管理に有用である可能性がある。
この結果を検証するためには、大規模な前向き研究が必要である。
【キーワード】
全死亡,代償性肝硬変,肝性脳症,肝不全,肝細胞癌
Liver-related long-term outcomes of alpha-glucosidase inhibitors in patients with diabetes and liver cirrhosis
Fu-Shun Yen, et al.
Front Pharmacol. 2022; 13: 1049094.
☑️討議
この研究は、代償性肝硬変を持つ患者において、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用が、非代償性肝硬変、肝性脳症、肝不全、肝細胞がん、および全死因死亡と比較して有意に低いリスクと関連していることを示しました。
さらに、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用期間が長いほど、これらのリスクが低くなる傾向があることが明らかになりました。
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬は肝性脳症と関連
Gentileらは、非アルコール性肝硬変患者においてアカルボースが安全で有効であることを示す優れた研究を複数行っています。
これらの研究では、アカルボースが血中アンモニア濃度を低下させ、肝性脳症を改善することも示されました。
今回紹介した研究でも同様に、α-グルコシダーゼ阻害薬を使用している患者は非使用者よりも肝性脳症のリスクが低いことが示されました。
また、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用者は肝硬変のリスクが低いこと、使用期間が長いほど肝性脳症と肝硬変のリスクが低いことも示されました。
Effect of treatment with acarbose and insulin in patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus associated with non-alcoholic liver cirrhosis
S Gentile, et al.
Diabetes Obes Metab . 2001 Feb;3(1):33-40.
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬の仮説
これらの説明として、α-グルコシダーゼ阻害薬の次のような仮説が考えられます。
・腸内の蛋白分解菌の増殖を抑え、糖分解菌の増殖を刺激し、血中アンモニア濃度を低下させる。
・小腸での二糖類や多糖類の代謝を遅延させ、これらの未消化糖質を下部腸に移行させ、腸の蠕動運動を亢進させる。この緩下作用は細菌の過剰増殖を減少させ、腸内のアンモニア濃度を低下させる可能性がある。
・腸管GLP-1放出を増加させる可能性がある。GLP-1は一酸化窒素の産生と門脈圧を変化させ、肝硬変のリスクに影響を与える可能性がある。
・体重、収縮期血圧、門脈圧を減少させる可能性がある。
・食後高血糖を改善し、酸化ストレスを減少させ、全身性炎症を軽減し、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1とフィブリノーゲン濃度を低下させ、凝固活性化を抑制する可能性があり、肝硬変性悪化リスクを軽減する可能性がある。
On the potential of acarbose to reduce cardiovascular disease
Eberhard Standl, et al.
Cardiovasc Diabetol . 2014 Apr 16;13:81.
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬と肝障害は関連
α-グルコシダーゼ阻害薬による肝障害の症例報告は0.1%未満です。
ほとんどの臨床研究で、α-グルコシダーゼ阻害薬が肝障害と関連することはまれであることが示されています。
この理由として、少量(1%)のアカルボースしか吸収されず、肝臓で代謝されないことが考えられます。
さらに、今回の研究では、α-グルコシダーゼ阻害薬は肝不全のリスクを低下させる可能性があることが示されました。
これはおそらくα-グルコシダーゼ阻害薬の使用が肝性脳症および肝硬変のリスクの低下と関連しているためです。
その結果、本試験において肝性昏睡および肝不全関連合併症のリスクが軽減された可能性があります。
Risk of liver injury after α-glucosidase inhibitor therapy in advanced chronic kidney disease patients
Chih-Chin Kao, et al.
Sci Rep . 2016 Jan 11;6:18996.
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬と肝細胞癌リスクは関連
肝硬変は肝細胞癌の70~90%を占めています。
糖尿病も肝癌のリスクを2〜4倍に増加させる可能性があります。
この研究で、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用は肝細胞癌のリスクを45%低下させることが明らかになりました。
この所見は、インスリン抵抗性を減弱させ、血中インスリン濃度を低下させるα-グルコシダーゼ阻害薬の作用によるものであり、肝細胞癌リスクを低下させる可能性があると考えられます。
Diabetes and hepatocellular carcinoma: A pathophysiological link and pharmacological management
Mandeep Kumar Singh, et al.
Biomed Pharmacother . 2018 Oct;106:991-1002.
☑️α-グルコシダーゼ阻害薬と全死亡は関連
糖尿病は代償性肝硬変患者の死亡率を増加させますが、糖尿病と肝硬変を併存する患者のほとんどは、糖尿病合併症ではなく肝不全で死亡します。
本研究では、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用は全死亡リスクの低下[aHR 0.63(0.56-0.71)]と関連することが明らかになりました。
これはα-グルコシダーゼ阻害薬の使用により肝細胞癌、肝硬変の悪化、肝不全のリスクが低下するためと考えられます。
Pathogenesis of glucose intolerance and diabetes mellitus in cirrhosis
A S Petrides, et al.
Hepatology . 1994 Mar;19(3):616-27.
☑️研究の限界
本研究にはいくつかの限界があります。
第一の限界
NHIRDには、家族歴、患者の体重、身体活動、飲酒、喫煙など、調査結果に影響を及ぼす可能性のある完全な情報が含まれていません。
第二の限界
NHIRDには血糖値、ヘモグロビンA1C、肝機能、腎機能検査結果に関する情報が含まれていません。
したがって、肝硬変の重症度や糖尿病の治療状況を分類するためのChild-Pughクラススコアや末期肝疾患モデル(MELD)スコアを算出することはできませんでした。
しかし、糖尿病の重症度を評価するために、CCIスコアとDCSIスコア、インスリンと経口抗糖尿病薬の使用状況を評価しました。
臨床診断を用いて、参加者を代償性肝硬変と非代償性肝硬変に分類しています。
最小限の肝性脳症や軽度から中等度の腹水がある参加者の中には、外来患者請求で把握されていない可能性があり、その結果、非代償性肝硬変が過小評価され、研究結果に影響を及ぼす可能性があります。
著者らは、試験群と比較群のバランスをとり、比較可能性を高めるために、可能な限りの重要変数を含めるようにしています。
第三の限界
α-グルコシダーゼ阻害薬は食事中の炭水化物比率が高い患者において血糖降下により効果的であると思われ、台湾では米が主食です。
本研究の参加者は主に中国人であったので、本研究の結果は他の民族には当てはまらないかもしれません。
第四の限界
観察研究は常に測定されていない未知の交絡因子の影響を受けます。
研究の結果を検証するためには、前向き無作為化試験が必要です。
☑️研究の長所
しかし、臨床的に重要な知見もあります。
第一に、この研究は実世界における全国規模の集団ベースのコホート研究であり、18年間という長期にわたる追跡調査が行われたことです。
第二に、糖尿病と肝硬変を有する患者におけるα-グルコシダーゼ阻害薬使用の肝臓関連の転帰を包括的に評価するために、詳細な解析が行われたことです。
この解析では、出血を伴う食道静脈瘤、腹水、肝性脳症、代償性肝硬変、肝不全、肝細胞癌、死亡率が検討されました。
☑️まとめ
α-グルコシダーゼ阻害薬はマイルドな抗糖尿病薬であり、低血糖のリスクはなく、重大な副作用もありません。
今回紹介した研究で、α-グルコシダーゼ阻害薬は肝硬変患者において肝臓関連合併症のリスクが低いことが示されました。
α-グルコシダーゼ阻害薬は肝硬変患者の糖尿病治療に適した薬剤である可能性があります。
研究の結果は大規模な前向き研究による確認が必要です。
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最終更新日2023年11月25日
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