EPA/DHA製剤はスタチンに上乗せするとCVDリスク低減に有効ですか

Print Friendly, PDF & Email

この記事を読むのに必要な時間は約 14 分です。



EPA/DHA製剤はスタチンに上乗せするとCVDリスク低減に有効ですか

☑️はじめに

オメガ3脂肪酸の心血管疾患(CVD)予防については、多くの基礎研究や、疫学研究からほぼ確立された認識です。

しかしながら、介入試験でのエビデンスはネガティブ・データの歴史です。特にスタチンが一般化した現在、スタチンの効果を凌駕するエビデンスを示すことは困難となっています。

2009年のJELIS試験、2019年のREDUCE-IT試験は、ポジティブデータを残した数少ないEPA製剤の臨床試験ですが、試験デザインや対照薬の設定で、批判される側面もありました。

2020年のSTRENGTH試験はREDUCE-ITに準じた高用量のEPA/DHA製剤を使用した試験でしたが、一転して心血管イベントの発生に差がない結果でした。

2020年のコクランレビューでは、確実性の高いエビデンスとして、EPAやDHAを増量しても総死亡数および心血管イベント数に対する効果は、ほぼまたは全く認められず、確実性が中等度のエビデンスとして、心血管死、脳卒中、不整脈にも差がほぼまたはまったく認められない可能性が高いと結論しています。

急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)ではスタチンに高純度EPA製剤を併用するのは考慮してもよいとされます(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)。

エビデンスは更新されていくよ。一緒に確かめよう。

プロローグ

本邦では、n-3系多価不飽和脂肪酸はエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に分類され、摂取量が多くなれば心血管事故が減少するとの報告がある…

脂質低下療法に関する無作為化大規模臨床試験のメタ解析では、心臓死と総死亡の両イベントを低下させるのはn-3多価不飽和脂肪酸とスタチンのみであることが示されているが、いずれの試験も2000年代の試験である。

REDUCE-IT試験が報告され、現在、本邦を含め世界中で進行している大規模臨床試験の結果によっては推奨度が変更される余地がある。

急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)

出典: www.j-circ.or.jp

運営者から、クローズドコミュニティに対する思いをお伝えしています。

クローズドコミュニティが今後の主流になるたったひとつの理由

記事の続きは会員ログイン後、またはブラウザのまま視聴できるラジオでどうぞ。


Googleアイコンをクリックすると無料登録/ログイン出来ます。会員規約にご同意の上、14日間の無料トライアルをお試し下さい。

☑️疫学

脂肪の多い魚またはオメガ3脂肪酸の食事摂取は、大規模なコホート研究における心血管イベントの発生率の低下と関連しています。

オメガ3脂肪酸の循環濃度と心血管リスクとの間に反比例の関係があることを示す疫学研究により、その潜在的な価値が裏付けられました。

しかしながら、いくつかの大規模な臨床試験では、低用量のオメガ3脂肪酸の投与による心血管系の利点を実証できませんでした。

にもかかわらず、低用量のオメガ-3脂肪酸の市販薬の使用は広く行き渡っています。

Stephen J. Nicholls,et al.

Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial

JAMA. 2020 Dec 8; 324(22): 2268–2280.

出典: www.ncbi.nlm.nih.gov

☑️EPA製剤のポジティブ・データ

2つの大規模な臨床試験により、EPAのみの精製製剤の潜在的な利点が示唆されています。

両試験の追加解析により、治療中の血漿中EPA濃度と心血管イベント発生率の間に逆相関があることが示唆されました。

☑JELIS試験(2009)

JELIS試験はPROBE法、すなわち評価者のみ盲検化された試験デザイン。

日本人の高コレステロール血症患者18, 645人に、スタチンと併用でEPA1.8g/日を中央値4.6年間投与しました。

スタチン単独と比較して、主要冠動脈イベントが相対リスクで29%減少させました(2.8% vs 3.5%;HR, 0.81[95% CI, 0.69-0.95])。

JELIS試験には、いくつかの制限があります。

まず、現在の標準治療で実施されたとは言えません。平均LDL-C値が180mg/dLの患者が登録されましたが、非常に低用量のスタチン(プラバスタチン10mgまたはシンバスタチン5mg)で治療されました。

また複合エンドポイントに選択的再灌流が含められ、治療者の主観が入り込む余地があります。

Mitsuhiro Yokoyama, et al.
Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Randomized clinical trial involving primary and secondary prevention of cardiovascular events with EPA in hypercholesterolemia
Nihon Ronen Igakkai Zasshi . 2009 Jan;46(1):22-5.

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️REDUCE-IT試験(2019)

REDUCE-IT試験では、スタチン治療を受けている空腹時トリグリセリド値が135~499mg/dL(中央値216mg/dL)の患者8179人を対象に、4g/日のEPAを鉱油と比較して4.9年間投与しました。

心血管イベントが相対リスクで25%減少しました(17.2% vs 22.0%;HR, 0.75 [95% CI, 0.68-0.83] )。

その一方、鉱油投与群ではCRPが30%以上増加したことから、科学界や米国食品医薬品局(FDA)による公聴会では、鉱油が中立的な比較対象であるかどうか懸念が示されました。

Bhatt DL, et al. for the REDUCE-IT Investigators:
Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia.
N Engl J Med. 2019; 380: 11-22.

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️STRENGTH試験(2020)

STRENGTHは心血管リスクが中等度から高度の人を対象とし、1日4gのEPA/ドコサヘキサエン酸(DHA)混合製剤投与群と中立的な比較対象であるコーン油を投与した対照群の間で、心血管イベントの発生に差はありませんでした。

Stephen J. Nicholls,et al.
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial
JAMA. 2020 Dec 8; 324(22): 2268–2280.

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️再現コホート研究による見解

デンマーク・コペンハーゲン大学の土井、Nordestgaardらが、REDUCE ITとSTRENGTHの2試験を再現(mimic)するコホート研究を実施したところ、結果の差の一部は対照群に投与された鉱油の影響で説明できる可能性が示されました。

著者らは、REDUCE-ITとSTRENGTHの結果の違いの一部は、対照群に使われたオイルの脂質プロファイルとCRPに及ぼす影響の違いで説明可能と結論しています。

REDUCE-ITで認められた25%のリスク抑制のうち、研究で検討した脂質プロファイルとCRPの寄与は、ほぼ半分の12%であり、残り13%はEPAが有する他の薬理作用や、対照群に使われた鉱油による悪影響の可能性があると指摘しています。

鉱油の悪影響としては、スタチンの吸収抑制や消化管からの鉱油の吸収による有害作用などが考えられるといいます。

A possible explanation for the contrasting results of REDUCE-IT vs. STRENGTH: cohort study mimicking trial designs

出典: academic.oup.com

☑️TGはバイオマーカーに過ぎないとする見解

血漿トリグリセライド(TG)は心血管リスクのバイオマーカーであり、心血管リスクに関連しています。

しかしエビデンスに基づくLDL-C低下療法と併用する場合、現在のTG低下療法がそのような患者に有効であるという証拠はありません。

REDUCE-IT試験およびJELIS試験においてイコサペント酸エチルが有用であった事実が示すのは、心血管イベントの減少が、EPA濃度と相関する多面的作用によるものらしい、とのことです。

Mechanistic Insights from REDUCE-IT STRENGTHen the Case Against Triglyceride Lowering as a Strategy for Cardiovascular Disease Risk Reduction
Am J Med . 2021 Sep;134(9):1085-1090. doi: 10.1016/j.amjmed.2021.03.014. Epub 2021 Apr 17.

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

☑️コクランレビュー(2020)

2020年のコクランレビューでは、EPA製剤のエビデンスについて次のようにまとめられています。

*EPAやDHAを増量しても総死亡数および心血管イベント数に対する効果は、ほぼまたは全く認められず(確実性の高いエビデンス)、心血管死、脳卒中、不整脈にも差がほぼまたはまったく認められない可能性が高い(確実性が中等度のエビデンス)。

*ただし、EPAおよびDHAの増量は、冠動脈死および冠動脈イベントのリスクをわずかに低下させる可能性がある(確実性の低いエビデンス)。1人に冠動脈イベントが発生するのを防ぐために、167人がEPAおよびDHAの摂取量を増やす必要があり、冠動脈疾患によって1人が死亡するのを防ぐために、334人がEPAおよびDHAの摂取量を増やす必要がある。

*EPAおよびDHAを摂取することによってトリグリセリド値が約15%低下するが、肥満や他の脂質には影響を与えない(確実性の高いエビデンス)。

心血管疾患の一次予防と二次予防のためのオメガ3脂肪酸
Version published: 29 February 2020

出典: www.cochrane.org

☑️まとめ

EPA/DHA製剤のエビデンスを概観しました。

歴史的にネガティブデータが多い薬剤です。

数少ないポジティブデータにJELIS研究とREDUCE IT研究がありますが、デザインや対照の設定で疑問が残ります。

2020年に発表されたコクランレビューを見ても、TG値は下げるが総死亡や心血管イベントにはほぼ影響しないと考えるのが妥当ではないでしょうか。

☑️会員のススメ

今回の記事はいかがでしたでしょうか?気に入って下さったら、会員登録をお勧めします。会員限定の記事が閲覧出来るようになります。月々の購読料は、喫茶店で勉強する時に飲むコーヒー一杯の値段で提供しています。人生で一番価値のある資源は時間です。効率的に学習しましょう!値段以上の価値を提供する自信があります。

クリック会員について

会員になりませんか?

最終更新日2022年7月30日

☑️コラム

職場の悩みはありませんか?

わたしも最初の職場がどうしても合わず、1年足らずで退職。今の職場は上司や同僚に恵まれ、毎日楽しく働いています。

あなたが現状に悩んでいるのであれば、専門家に相談してみてはいかがでしょうか?

転職を考える場合、現在の環境から離れることを一番に考えてしまいがちですが、転職先には現在の職場にない問題があります。

わたしはラッキーでしたが、転職後の方が辛い思いをしてしまった、と言う話も耳にします。

自分に適した職場を見つけるためには、頼れるスタッフに協力してもらうことが重要です。

回り道のように見えますが、転職を成功させるための最短の近道と思います。

あなたも1歩踏み出してみてはいかがでしょうか?

迷っているならまずは登録してみましょう。

スポンサーリンク
完全無料!1分間の簡単登録
あります!今よりアナタが輝く職場
薬剤師の求人ならエムスリーキャリア

☑️推薦図書

クスリとリスクと薬剤師

スポンサーリンク

スポンサーリンク


☑️応援・拡散のお願い

応援・ファンレターお待ちしています。

応援はこちらから

OFUSE QRコード

わたしのサイトが参考になったと思って下さったあなた、バナークリックをお願いします。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村

自分だけ知ってるのはもったいないと思って下さったあなた、SNSボタンでシェアをお願いします。

サイトQRコード

Copyright©️2017 PHARMYUKI™️ All rights reserved