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クロピトグレルとレパグリニドは安全に併用出来ますか?
☑️はじめに
70歳男性のAさんは、かかりつけ医院で糖尿病の治療を受けていました。
ところが脳梗塞で基幹病院に入院。幸い後遺症もなく、先月無事退院。
今回から再びかかりつけ医院に通院することになりました。
お薬手帳で基幹病院の退院時処方を確認すると、脳梗塞の再発予防にプラビックス®(クロピトグレル)が開始されていました。
また入院前からシュアポスト®(レパグリニド)を服用されていましたが、スターシス®(ナテグリニド)に変更されていました。
今回、かかりつけ医院からの処方箋を確認すると、クロピトグレルが引き続き処方されていましたが、糖尿病薬はシュアポスト®に戻っていました。
臨床疑問が生じます。
入院中のナテグリニドへの変更は、ただ単に院内採用品かどうかの問題だったのでしょうか。それとも何か特別な意図があったのでしょうか。
Aさんの処方箋は、このまま調剤していいのでしょうか。
プロローグ
👴脳梗塞で入院してた。やっとクリニックに戻れたよ。はい、お薬手帳。
📝プラビックス
シュアポスト📖退院時処方
プラビックス
スターシス✨👨⚕️薬が違うけど、採用の関係かな?以前から飲んでたシュアポストですね。
👩⚕️ちょっと待った❗疑義照会の準備をして。
👨⚕️え?
出典: twitter.com
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記事の続きをどうぞ。
☑️クロピトグレルはハイリスク患者の脳梗塞再発予防に用いられる
まず、クロピトグレルのエビデンスを確認しておきましょう。
クロピドグレル(75 mg/日 分1)の効果は、約2万例のアテローム血栓症(虚血性脳卒中,急性冠症候群、末梢動脈疾患)を対象としたCAPRIE試験で検討され、アスピリンを上回る効果(相対リスク低下 8.7%)が示されています。
特にハイリスク例(脂質異常症合併、糖尿病合併、冠動脈バイパス術の既往など)で効果が高いとされます。
アスピリンとの使い分けには、Essen Stroke Risk Scoreが参考になります。3点以上でクロピドグレルが推奨されます。
FAQ 脳梗塞再発予防のための抗血小板薬使い分け
どうやら糖尿病の既往のあるAさんに、低用量アスピリンではなくクロピトグレルが選択された事には科学的根拠があるようです。
☑️CYP2C8を介した相互作用がある
プラビックス®/クロピトグレル錠75mg「SANIK」の添付文書には、「本剤のグルクロン酸抱合体はCYP2C8を阻害する」と記載されています。
また併用注意としてCYP2C8の基質となる薬剤(レパグリニド)が記載されています。
レパグリニドの血中濃度が増加し、血糖降下作用が増強するおそれがある、と言うのが理由です。
どのくらいの増強効果があるのでしょうか。それを検証した臨床研究が、添付文書にも記載されていました。
プラビックス®/クロピトグレル錠75mg「SANIK」添付文書
☑️レパグリニドのAUCが4倍になる
プラビックス®/クロピトグレル錠75mg「SANIK」添付文書には海外データが記載されていました。
健康成人にクロピトグレル硫酸塩(1日1回3日間、クロピトグレルとして1日目300mg、2~3日目75㎎)を投与し、1日目と3日目にレパグリニド(0.25㎎)を併用した結果、レパグリニドのCmax及びAUCはレパグリニドを単独投与したときと比較して1日目は2.5及び5.1倍、3日目は2.0及び3.9倍に増加した。また、T1/2は1.4及び1.2倍であった。
Tornio, A. et al. : Clin. Pharmacol. Ther., 96(4), 498, 2014
☑️CR-IR法による予測
実測値に引き続き、次は理論値を検討してみましょう。
薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019を参照します。
レパグリニドは赤字でCR=0.8、クロピトグレルも赤字でIR=0.8です。
従ってAUC上昇は2.8倍と予測され、実測値は概ね1.4倍から5.6倍にある可能性が95%と考えられます。
薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019
出典: ptweb.jp
☑️閑話休題 クロピトグレルはCYP2C19の相互作用にも注意
寄り道になりますが、クロピトグレルはCYP2C8の他にも注意が必要な薬剤があります。
クロピトグレルはCYP2C19で代謝され、活性体となり薬効を示すため、FDAではCYP2C19阻害薬(オメプラゾール、エソメプラゾール、ケトコナゾール、フルボキサミンなど)との併用は薬効が減弱するため避けるべきと勧告している。禁忌となっていないわが国でも、これら相互作用には十分注意して対処するべきである。
薬局薬剤師の専門性ファーストガイド
DAPTではPPIが併用されるため、遭遇する頻度の高い薬物薬物相互作用(DDI)です。
ステントの再狭窄が起こった場合は、オメプラゾールやエソメプラゾールによるクロピトグレルの作用減弱を想定し、CYP2C19の相互作用のないPPIへ変更を提案しても良いかも知れません。
本題に戻りましょう。
☑️併用により承認用量を越えるケースがある
相互作用の影響は、大雑把に考えて、レパグリニドを最大で一度に5錠飲んだような効果と予測されます
レパグリニドの承認用量の上限は1mg/回です。
0.25mg/回で服用した場合、相互作用の影響でこれを越えるケースが予測されます。
併用による低血糖リスクは無いのでしょうか。
レパグリニドとクロピドグレル併用による遷延性低血糖
出典: www.imic.or.jp
レパグリニド1.5mg/日とクロピトグレル75mg/日の併用で、低血糖を起こしたと言う症例報告があります。
☑️カナダでは併用禁忌指定されている
低血糖リスクを重視し、両剤の併用を禁忌指定している国もあるようです。
抗血小板薬のクロピトグレルによるCYP2C8阻害様式はMBIであり、代謝によって産生するUGTがCYP2C8と共有結合するために起きることが知られている。
CYP2C8で代謝されるレパグリニドの血中濃度が上昇して低血糖を生じるリスクが高いため、カナダでは併用禁忌となっている。
薬局薬剤師の専門性ファーストガイド
どうやら併用は避けた方がよい相互作用のようです。
☑️まとめ
退院時処方のナテグリニドは相互作用を回避するため、意図のある処方だったと考えられます。
この場合、クロピトグレルを低用量アスピリンに変更するのは糖尿病の既往があるAさんには好ましくありません。
かかりつけ医に情報提供し、既に服用しているナテグリニドへの処方変更を提案するのが良策ではないでしょうか。
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最終更新日2021年4月17日
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