トリアゾラムはCYP3A4の相互作用により、クラリスロマイシン800mg/dayを含むピロリ菌除菌レジメンと併用は避けるべき。

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要点:トリアゾラムはCYP3A4の相互作用により、クラリスロマイシン800mg/dayを含むピロリ菌除菌レジメンと併用は避けるべきと考えられる。

トリアゾラム0.25mgは、添付文書上クラリスロマイシンと併用注意の記載がありますが、クラリスロマイシン800mg/dayを含むピロリ菌除菌療法中も安全に服用することは出来るでしょうか。

この薬剤併用の潜在的リスクを評価して行きます。マクロライドによる相互作用は発現までタイムラグがあります。阻害作用を発揮するのに代謝を受ける必要がないアゾール係の化合物と異なり、マクロライド系化合物は消化管と肝臓での代謝によって生じたニトロソ中間体がCYP3A4と結合する段階を経る為、タイムラグが生じるのだろうと考えられています。

文献的には服用を開始してから4-10日後に相互作用を生じた報告が多く見られます。クラリスロマイシンの併用でトリアゾラムのAUCが5.1倍に上昇した海外の症例報告がありますが、クラリスロマイシンの投与量は1000mg/dayでした1) 。ピロリ菌除菌レジメンとトリアゾラムの併用は、これらの条件に近い状況を作り出すように思われます。

次に理論面から考察して行きます。PISCSを適用すると、今回の相互作用は寄与率・阻害率とも高く、トリアゾラムのAUCが理論的に5.5倍上昇することが予想されます2,3,4,5)。

トリアゾラムのAUC増大の臨床的な意味ですが、イトラコナゾールとの併用を検討した臨床試験ではAUCが10-30倍に増大し、被験者の殆んどが数時間に渡る健忘と翌朝までの倦怠感、錯乱等を呈した事が報告されています6)。

PISCSの予測値には1/2-2倍の95%信頼区間がある為、クラリスロマイシンとの併用でもAUCが最大11倍程度増大するケースは想定され、同様の健康被害を生じさせる可能性があります。

以上、文献と推論から、今回検証している併用は、潜在的にリスクを有する併用であり、臨床的に有意な相互作用と判断すべきと考えます。併用は回避するのが望ましいでしょう。代替薬としては、PISCSの予測に基づきAUC上昇比1.3と変化量の少ないリルマザホン、或いは1.5のゾルピデムが妥当でしょうか。

ゾルピデムにはクラリスロマイシンの併用でもAUCを変化させなかった臨床研究の報告があります7)。また、いつまで代替するかですが、今回の相互作用はヘムとの共有結合に起因する不可逆阻害の為、クラリスロマイシン投与終了後も、酵素の入れ替わりが完了するまでの数日間は阻害効果が持続しています。

代謝に伴って基質が酵素に共有結合する不可逆的阻害薬は、一般にMBI(Mechanism Based Inhibitor)と呼ばれ、マクロライドの他、リトナビル、ベラパミル等が此に該当します。阻害効果が最大に達するまで、或いは消失するまでそれぞれ数日を要します。ピロリ菌除菌レジメン終了後も、余裕を持って1週間程度はトリアゾラムの服用を避けた方が無難でしょう。

参考文献
1)Inhibition of triazolam clearance by macrolide antimicrobial agents: in vitro correlates and dynamic consequences. PMID9757151
2)PISCS(Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)による評価。CYP3A4のトリアゾラムの経口クリアランスへの寄与率: CR(CYP3A4)=0.93、クラリスロマイシン500-1000mg/day反復投与のCYP3A4阻害率: IR(CYP3A4)=0.88、AUC変化率: R inhibition= 1/(1-CR・IR)=5.5 (95%CI: 2.25-11.0)
3)薬の相互作用としくみ 全面改訂版 日経BP
4)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践 じほう
5)General framework for the quantitative prediction of CYP3A4 mediated oral drug interaction based on the AUC increase by coadministration of standard drugs. PMID17655375
6)Oral triazolam is potentially hazardous to patients receiving systematic antimycotics ketoconazole or itraconazole. PMID7995001
7)Short term clarithromycin administration impairs clearance and enhances pharmacodynamics effects of trazodone but not of zolpidem. PMID19242403