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腎機能低下患者で活性型ビタミンD3製剤と酸化マグネシウムの併用はミルク・アルカリ症候群を引き起こす
☑️はじめに
高Ca血症と代謝性アルカローシス、急性腎障害の3徴が生じる病態は、ミルク・アルカリ症候群と呼ばれます。
古典的なミルク・アルカリ症候群は、シッピー療法を受けた胃潰瘍患者に散見されました。
時を経てH2遮断薬やPPIが治療の主流になると、シッピー療法は過去のものになりました。
ミルク・アルカリ症候群も一旦忘れさられたのです。
しかし現在の日本において、骨粗鬆症の治療に用いる活性型ビタミンD3製剤の普及により、この病態が再び注目を集めています。
さくら先輩、ミルク・アルカリ症候群って何ですか?
過去の病態と思えば、さにあらず。一緒に見て行こう!
プロローグ
👨⚕️アルファカルシドール、乳カル服用中の方に、他医院よりカマグが処方され、急激な腎機能低下を経験した事があります。
👨⚕️ミルク・アルカリ症候群と呼ばれる病態であることを後に知りました。
👨⚕️カマグはありふれた緩下剤ですが、使いどころを間違えるとクスリがたちまちリスクに早変わりします。
出典: twitter.com
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☑️シッピー療法と古典的ミルク・アルカリ症候群
1910年初頭、胃潰瘍に対して牛乳とMg製剤とを一緒に飲むという治療が行われていました。
Mg製剤の胃酸を中和する作用に加えて、牛乳により粘膜を保護して栄養をつけるという理論から、バートラム・シッピーにより考案された治療法です。
しかしその治療法を受けた患者さんの中で、高Ca血症による嘔吐や意識障害を発症する場合が散見されるようになりました。
シッピー療法後に、高Ca血症と代謝性アルカローシス、急性腎障害の3徴が生じる病態は、ミルク・アルカリ症候群と呼ばれました。
Milk-Alkali Syndrome
☑️想定されるミルク・アルカリ症候群の発症機序
Mgが過剰に体内に入ると、Ca副甲状腺感知受容体(CaSR)が刺激されます。
結果、副甲状腺副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が低下し、腎臓からのHCO3-の再吸収が増えて、代謝性アルカローシスとなります。
代謝性アルカローシスにより遠位尿細管でのCa吸収が増加し、高Ca血症になります。
高Ca血症は腎輸入細動脈を収縮させて糸球体濾過量を低下させます。
さらに高Ca血症によるNa排泄の増加と多尿で循環血液量の低下が生じ、急性腎障害を引き起こします。
このような機序によって、ミルク・アルカリ症候群が生じると考えられています。
ミルク・アルカリ症候群を覚えていますか?
☑️ミルク・アルカリ症候群は過去のものではない
H2遮断薬やPPIの登場により、シッピー療法は過去のものになりました。
しかし、ミルク・アルカリ症候群は過去の疾患ではありません。
米国で高Ca血症で入院した患者を対象とした研究では、症例の12%がミルク・アルカリ症候群によるものでした。
副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍に次いで3番目に多い原因です。国際的には、この状態の頻度は炭酸Caの摂取量に依存します。
以前は、症候群の病因が消化性潰瘍疾患を治療するためのミルクと吸収性アルカリの消費であった場合、男性でより多くの症例が報告されました。
現在、炭酸Ca製品の消費量が増加しているため、ほとんどの症例は閉経後の女性です。
Milk-Alkali Syndrome
☑️日本では活性型ビタミンD3製剤の使用が欧米に比べて多く高Ca血症の原因になっている
骨粗鬆症の治療として、日本では高齢者に作用の強い活性型ビタミンD3製剤が繁用されています。
海外では高用量でも安全な天然型ビタミンDの使用が多いのと対照的です。
活性型ビタミンD3製剤は腸管におけるCa吸収や、腎臓でのCa再吸収を促進して血中Ca値を上昇させます。
高齢者では腎機能が低下している場合が多いです。
腎Ca濃度の維持調節機能が低下しているため、人為的に介入すると高Ca血症を起こすリスクがあります。
この状態で便秘に酸化Mgが追加処方されると、ミルク・アルカリ症候群を惹起する可能性があります。
現代のミルク・アルカリ症候群について
☑️見出し活性型ビタミンD3製剤、酸化マグネシウム製剤服用によりミルク・アルカリ症候群の症例報告
文献検索で国内のカルシウム・アルカリ症候群の症例報告を見つけましたので、紹介します。
常用量で発症した珍しい症例です。
【要旨】
常用量の活性型ビタミンD3製剤、酸化マグネシウム製剤服用によりミルクアルカリ症候群をきたした1例を経験した。症例は92歳の女性。
意識障害を主訴に来院し、血液検査で高カルシウム血症、代謝性アルカローシス、腎機能障害を認めた。副甲状腺機能亢進症および悪性腫瘍は認めず、上記3徴からミルクアルカリ症候群と診断した。補液およびフロセミド投与により軽快した。
自験例のように、高齢者では骨粗鬆症に対して活性型ビタミン D3製剤や便秘症に対して酸化マグネシウム製剤を服用している患者、慢性腎臓病患者が多数存在する。
高齢者の診療においては、内服薬の確認を含めた背景因子の把握に努め、血液検査で上記3徴を認めた場合はミルクアルカリ症候群を念頭に置く必要がある。
常用量の活性型ビタミンD3製剤、酸化マグネシウム製剤服用によりミルクアルカリ症候群をきたした1例
☑️まとめ
ミルク・アルカリ症候群は、高カルシウム血症、代謝性アルカローシス、腎機能障害を3徴とします。
古典的にはシッピー療法で生じましたが、日本では骨粗鬆症の活性型ビタミンD3製剤の普及により発症リスクがあります。
常用量の活性型ビタミンD3製剤と酸化マグネシウム製剤でミルク・アルカリ症候群をきたした高齢女性の症例があります。
高齢患者には多くの場合、骨粗鬆症予防目的にCa製剤や活性型ビタミンD3製剤、便秘症に酸化Mg製剤が処方されています。
また腎機能低下は骨粗鬆症治療において高Ca血症のリスクファクターですが、高齢者は多くの場合、腎機能が低下しています。
ですから、調剤においては他院での併用薬の確認、腎機能など背景因子の把握に努め、血液検査で高Ca血症、代謝性アルカローシス、腎機能障害を認めた場合、ミルク・アルカリ症候群を念頭に置く必要があります。
☑️参考文献
病態と薬剤からわかる水・電解質・酸塩基平衡 じほう 2019年
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最終更新日2021年10月19日
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