デノスマブは骨粗鬆症患者の感染リスクを高めますか

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デノスマブは骨粗鬆症患者の感染リスクを高めますか

☑️はじめに

骨粗鬆症は、骨折のリスクにつながる骨の脆弱性が進行する疾患です。

デノスマブは骨粗鬆症治療に用いられ、RANKLに結合して骨の脆弱性を低減させます。

3年の臨床試験で、閉経後女性の骨折リスクを有意に減少させたことが示されました。

RANKL-RANK-OPG経路は免疫と骨代謝の恒常性に関与し、デノスマブはこの経路を阻害して骨量減少を防ぎます。

しかし、感染症を始めとした長期使用による有害事象のリスクが懸念されます。

デノスマブと感染リスクの関連性についての報告は一貫性がなく、これを評価するためのコホート研究が台湾で計画されました。

PMDAの報告書ではデノスマブの易感染性は否定されていましたけれど…

この論文は易感染性との関連を証明した初めての論文だよ。わくわくするね!

プロローグ

💻「…健康な高齢男性、閉経後女性、及び低骨密度の閉経後女性を対象とした試験では、デノスマブ投与により、末梢血免疫細胞サブセットプロファイル及び免疫グロプリン産生に対して臨床的に問題となる作用は認められなかった。」

デノスマブ 臨床に関する総括評価(PMDA資料)

出典: www.pmda.go.jp

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☑️骨粗鬆症について

骨粗鬆症は、骨折のリスクにつながる骨の脆弱性が進行する疾患です。

完全ヒト型モノクローナル抗体であるデノスマブは、RANKリガンド(RANKL)に高い特異性で結合し、破骨細胞(OC)の数と活性を低下させます。

3年間の無作為化FREEDOM臨床試験と、有効性と安全性を評価するための7年間の延長試験において、デノスマブは骨粗鬆症を有する閉経後女性の股関節骨折、椎体骨折、非椎体骨折の発生率を減少させる有意な有効性を示しました(1)。

加齢に伴う骨粗鬆症が発症すると、患者はおそらく生涯にわたって治療が必要となります。

このため、患者は顎骨壊死などの薬物累積暴露による有害事象にさらされることになります。

抗骨粗鬆症治療の利点にもかかわらず、骨粗鬆症薬への長期曝露のリスクは、特に高齢者集団において評価される必要があります(2)。

☑️RANKLとデノスマブ

RANKL-RANK-OPG(オステオプロテジェリン)経路には、腫瘍壊死因子(TNF)とTNF受容体のスーパーファミリーが関与しています。

そして、これらのスーパーファミリーは多くの共通のシグナル伝達特性を有しています(3)。

RANKL-RANK-OPG経路は1990年代後半に初めて発見され、主に樹状細胞(DC)に対する作用を通して、免疫に重要であると考えられていました(4, 5)。

同時に、この経路は破骨細胞の制御を通じて骨の恒常性維持に重要であることも明らかにされました(6, 7)。

デノスマブ(旧AMG162)はRANKLに結合し阻害する有効な化合物です(8)。

オステオプロテジェリン(OPG)と同様、デノスマブはRANKLの受容体RANKに対する作用を阻害することにより骨量減少を抑制します。

☑️エビデンス

デノスマブと感染リスクの関係に関する報告は一貫していません。

関連する研究は、サンプルサイズが小さく、研究期間が短いために限られています。

さらに重要なことは、これらの研究では感染リスクが主要アウトカムではなかったことです。

そこで著者らは、デノスマブ長期投与後の骨粗鬆症患者における感染リスクを評価するために、集団ベースの全国コホート研究を実施しました。

邦題は、「骨粗鬆症患者におけるデノスマブ治療と感染リスク:全国規模の集団ベースコホート研究の傾向スコアマッチング解析」です。

【はじめに】

デノスマブは、骨粗鬆症の閉経後女性における股関節骨折、椎体骨折、および非椎体骨折の発生率を減少させる有効性を示す。

われわれは、デノスマブ長期投与後の骨粗鬆症患者における感染症リスクを評価するための集団ベースの全国コホート研究を提示する。

【方法】

台湾国民健康保険研究データベース(NHIRD)を用いて骨粗鬆症患者を同定した。

症例コホートはデノスマブ治療を受けた患者から構成された。傾向スコア(PS)マッチングを用いてデノスマブ非使用者を対照コホートに選択した。

研究期間は2011年8月~2017年12月であった。30,106組の症例と対照患者を対象とした。

【結果】

デノスマブ治療を受けた患者は、以下の感染症のリスクが高かった。

・肺炎及びインフルエンザ(aHR:1.33;95%CI:1.27-1.39)
・尿路感染症………………(aHR:1.36;95%CI:1.32-1.40)
・結核………………………(aHR:1.60;95%CI:1.36-1.87)
・真菌感染…………………(aHR:1.67;95%CI:1.46-1.90)
・カンジダ症………………(aHR:1.68;95%CI:1.47-1.93)
・帯状疱疹感染……………(aHR:1.27;95%CI:1.19-1.35)
・敗血症……………………(aHR:1.54;95%CI:1.43-1.66)
・死亡………………………(aHR:1.26;95%CI:1.20-1.32)

しかし、デノスマブの投与期間が長いほど、患者が感染症を発症するリスクは低かった。

【考察】

デノスマブ治療は、治療初期に高い感染リスクを伴う。

しかしながら、そのリスクは治療開始2年目以降に有意に減少する。

臨床医は、デノスマブ治療の初期段階において、骨粗鬆症患者の感染状態を注意深く観察すべきである。

【キーワード】

デノスマブ、免疫、RANKL阻害、T細胞、骨粗鬆症

Denosumab treatment and infection risks in patients with osteoporosis: propensity score matching analysis of a national-wide population-based cohort study
Shih-Ting Huang et al.
Front Endocrinol (Lausanne). 2023 May 19:14:1182753.

出典: www.ncbi.nlm.nih.gov

☑️結果の概観

デノスマブ治療を受けた患者30,160人を対象としたこの10年間の大規模観察研究では、主要アウトカムとして感染症リスクが調査されました。

糖尿病、慢性腎臓病、肥満、肝硬変、慢性肺疾患、心不全、骨折などの交絡因子で調整した後、多変量解析を行いました。

その結果、デノスマブ治療を受けた骨粗鬆症患者では、受けていない患者に比べて感染率が有意に高いことが明らかになりました。

さらに、患者の生存率を比較したところ、デノスマブ治療を受けた患者では対照群と比較して死亡リスクが1.26倍高いことが観察されました。

デノスマブ治療を受けた22,253例のメタアナリシスでは、対照群と比較して重篤な有害事象感染症(SAEI:severe adverse events infection)が1.21倍増加していました(9)。

著者らの所見は前述(aforementioned)の結果と一致しています。

☑️デノスマブは感染症リスクと有意に関連

今回の研究では、デノスマブコホートと対照コホートにおいて、肺炎やインフルエンザ、尿路感染症、結核、カンジダ症、真菌感染症(アスペルギルス症またはクリプトコッカス症)、帯状疱疹感染症、敗血症などの感染症の発生率が調査されました。

デノスマブの投与は、骨粗鬆症患者の感染症リスクの上昇と有意に関連していました。

具体的には、結核感染リスクが1.60倍、真菌感染リスクが1.67倍、カンジダ症感染リスクが1.68倍、帯状疱疹感染リスクが1.27倍でした。

死亡率が感染リスクに対するデノスマブの効果と関連しているかどうかを調べるために、死亡率との競合リスク分析も行われました。

その結果、感染リスクに対するデノスマブの効果に関しては、骨粗鬆症患者において一貫した結果が観察されました。

著者らの知る限り、デノスマブによる治療を受けている患者の感染症リスクの高さについて報告したのは、この研究が初めてです。

☑️RANKLの役割

RANKまたはRANKL mRNAの発現が、骨芽細胞、骨細胞、骨間質とは別の免疫組織で検出されることを示唆する多くの証拠があります。

例えば、RANKの発現は肺のTリンパ球やB細胞を含む免疫細胞で同定されています(6, 7, 10, 11)。

RANKの発現は成熟した樹状細胞(DC)で優勢です。樹状細胞は破骨細胞やマクロファージと共通の系統を持つと考えられています(4, 5)。

主要組織適合複合体や抗原-T細胞受容体(TCR)相互作用を介したT細胞の活性化は、おそらく樹状細胞によって媒介されます(3)。

RANKLの発現はT細胞の機能に重要な役割を果たし、おそらくT細胞の活性化を促進しますが、これは樹状細胞への作用に依存しています。

その結果、相互免疫反応を引き起こすだけでなく、樹状細胞の生存も強化されます。

その後、T細胞が樹状細胞に関与することで、T細胞のサブセットの分化が誘導され、Th1、Th2、Th17細胞へと変化します(3)。

RANKLは骨代謝を阻害しますが、RANKLの阻害が全身の免疫反応をも減弱させるかどうかは不明です。

☑️デノスマブは細胞性免疫を減弱

免疫反応(上述)に関連するこの問題については、これまで一貫した結果は発表されていません。

以前の研究では、皮膚などの特定の組織では、RANKL-RANK相互作用が免疫抑制反応を超えて炎症反応の強度を変化させる可能性があると報告されています(12, 13)。

対照的に、RANKL経路の阻害と、RANKまたはRANKLの発現が完全にない場合の違いを調べた研究があります。

動物モデルで得られた知見によると、RANKLの阻害は骨密度を増加させることによって骨損失を減少させますが、炎症反応には影響を及ぼさないことが明らかになりました(14)。

我々の重要な発見は、デノスマブの使用が、結核、カンジダ症、帯状疱疹ウイルス、真菌感染症などの感染症リスクの上昇と有意に関連していることです。

この所見は、デノスマブ治療を受けている骨粗鬆症患者では、細胞性免疫反応が適度(modest)に減弱していることを示唆しています。

☑️デノスマブの感染症リスクは最初の2年間

さらに、デノスマブの累積投与量が感染リスクに及ぼす免疫抑制効果を、期間を分けて検討しました。

その結果、感染症リスクは、2年以内にデノスマブを最初の4回連続投与した後に有意に高くなりましたが、その後リスクは減少しました。

著者らの知る限り、これは骨粗鬆症患者における感染リスクとデノスマブの累積投与による免疫抑制の相互関係を明らかにした最初の研究です。

この知見は、これまでに確認されたことのない新規のものです。

☑️移植後の易感染リスクも同様の経過

デノスマブの感染リスクと一過性の免疫抑制効果を説明する理由をさらに解明する必要があります。

ある条件下では、免疫抑制を受けた新規臓器移植レシピエントにおいて、移植後に高い感染リスクが生じましたが、移植後の後期になるとそのリスクは徐々に低下しました。

例えば、以前の研究では、ヘルペスウイルス感染症の発症率は移植後1年で最も高い結果でしたが、その後のリスクは減少したと報告されていて、このことは移植後数ヵ月でT細胞免疫の急性障害が起こることを示唆しています(15)。

以上のことから、デノスマブの急性免疫抑制作用は、初期には発現しますが一過性に持続するという仮説が成り立ちます。今後、より詳細なエビデンスが必要です。

☑️研究の限界(1)

今回の研究の結果は、いくつかの固有の限界があるため、慎重に解釈されるべきです。

第一に、ライフスタイル、肥満度(または肥満)、個人行動(喫煙や飲酒など)に関する情報はNHIRDからは得られません。

例えば、COPDの変数は、交絡効果を減少させるために喫煙に置き換えました。

第二に、本研究のデータは入院患者データベースから取得したものであり、この研究では重症感染症のみを分析しました。

そのため、デノスマブのコホートにおける実際の感染症リスクは過小評価された可能性が高いと考えられます。

第三に、NHIRDにおける循環25(OH)D値(circulating 25(OH) D levels)や画像所見のような個々の検査データの欠如は、研究のもう1つの限界でしょう。

☑️研究の限界(2)

最後に、可能性のあるすべての疾患関連交絡因子をコントロールしようと最善を尽くした研究です。

それにもかかわらず、未知の交絡因子やコントロールされていない交絡因子がまだ多く存在し、何らかの固有のバイアスが研究結果に影響を及ぼしている可能性があります。

レトロスペクティブ研究は通常、ランダム化比較試験よりもエビデンスが低いものです。

このような欠点は、今後ランダム化比較試験を実施することで克服できるでしょう。

☑️まとめ

結論として、著者らの知見は、デノスマブの使用が投与開始後2年間の日和見感染症の高リスクと関連するという証拠を提供するものです。

この所見から、デノスマブ使用に伴う免疫抑制の影響は、RANKL阻害に起因すると考えられます。

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最終更新日2024年5月4日

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