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クラリスロマイシン併用で、カルバマゼピンAUCは何倍になりますか
☑️はじめに
小学4年生の男の子にクラリスロマイシンが処方になりました。マイコプラズマとのことです。
前にこの抗生物質を飲んだ時、眠くなったけれど、そんな副作用ありますか、とお母さん。
お薬手帳を確認すると、てんかんでカルバマゼピンを服用していることが分かりました。
この2剤はCYP3A4の相互作用があるため、併用注意とされています。カルバマゼピンのAUCが上昇し、眠気を増強したのかも知れません。
文献検索しましたが、クラリスロマイシンの併用の強度を扱ったものは見つかりませんでした。
CR-IR法を習ったばかりのあなたは、相互作用の強度を確認しようとポスターを開きました。
しかし、誘導薬としては書かれているものの、基質薬としてのカルバマゼピンは記載されていません。
併用によりカルバマゼピンのAUCはどの程度上昇するのでしょう。本当に眠気を増強するほどの強度なのでしょうか。
今回の記事は、CR-IR法を用いて、阻害率が分からないカルバマゼピンのAUC上昇率を予測する方法について解説します。
プロローグ
Rp.クラリスロマイシン
👩👦マイコプラズマです。前に飲んだ時に眠くなったけど、抗生物質にそんな副作用がありますか。📖カルバマゼピン✨
👨⚕️💭CYP3A4の相互作用、強度は?👩🎓PISCSのポスターには基質薬としてのカルバマゼピンの記載はありません。しかしエリスロマイシン、グレープフルーツのIR、及び併用時AUC上昇率の文献値から、カルバマゼピンのCR0.36と推定できます。クラリスロマイシン併用時のAUC上昇率は1.47倍と予測されます。
👩🎓個人差がありますが、クラリスロマイシン併用でカルバマゼピンのクリアランスが低下し、AUCが上昇します。カルバマゼンピンによる眠気が増強される可能性があります。
👩🎓アジスロマイシンはCYP3A4の相互作用が弱く、マイコプラズマ治療の代替薬として提案できると思います。
👨⚕️📞かくかく然々です。
☎️なるほど、ではアジスロマイシンでお願いします。出典: twitter.com
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☑️CR-IR法のポスターを確認したが…
カルバマゼピンはIC(Increse in clearnse:誘導薬によるクリアランスの増加)0.9と記載されています。
この薬には、自己誘導(Auto-induction)と呼ばれるCYP3A4の酵素誘導が生じることが知られています。
酵素誘導の起きていない場合、または酵素誘導が完了している場合、クリアランスは一定と考えられます。
そのような条件での阻害剤の併用によるAUC変化(=経口クリアランスの変化)は予測可能と考えました。
カルバマゼピンの基質薬としてのパラメータであるCR(Contribution ratio:寄与率)は、ポスターに記載はありませんでしたので、予測を試みることにします。
薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2015
☑️エリスロマイシンのIRと文献値のAUC上昇率から予測する
カルバマゼピンを単回投与した場合、エリスロマイシン(500mg×3回/日,10日間)併用の有無で、カルバマゼピンの体内動態がどう変化したか評価しています。
併用によるAUC上昇率は1.3倍でした。
エリスロマイシンの阻害率IRはポスター橙色で0.7以上。
カルバマゼピンの寄与率CRは0.36と予測されます。
Inhibition by erythromycin of the conversion of carbamazepine to its active 10,11-epoxide metabolite
☑️グレープフルーツのIRと文献値のAUC上昇率から予測する
てんかん患者におけるGFの影響をクロスオーバー法で評価しています。
グレープフルーツ摂取によるカルバマゼピンのAUC上昇率は1.4倍でした。
グレープフルーツの阻害率IRはポスター赤色で0.8以上。
カルバマゼピンの寄与率CRは0.36と予測されます。
Effect of grapefruit juice on carbamazepine bioavailability in patients with epilepsy
☑️文献の概要
【目的】
てんかん患者におけるカルバマゼピンのバイオアベイラビリティに及ぼすグレープフルーツジュースの影響を検討すること。
【方法】
本試験は2相からなる無作為クロスオーバー試験である。過去3〜4週間、カルバマゼピン200mgを1日3回投与されていたてんかん患者10名が参加した。朝8時にカルバマゼピン200mgと一緒にグレープフルーツジュースまたは水300mLが投与された。この2日間はカルバマゼピンの投与が継続された。いずれの場合も、0〜8時間の異なる時間間隔で血液サンプルが採取された。カルバマゼピンの濃度は逆相HPLC法により推定された。
【結果】
グレープフルーツは水と比較して、カルバマゼピンの定常ピーク濃度(6.55 vs 9.20 microgram/mL)、トラフ濃度(4.51 vs 6.28 microgram/mL)および血漿中濃度時間曲線下面積(43.99 vs 61.95 micrograms/h/mL)を有意に増加させた。また、血漿中ピーク濃度到達時間については、有意な差は認められなかった。
【結論】
グレープフルーツジュースは、腸壁および肝臓のCYP3A4酵素を阻害することにより、カルバマゼピンのバイオアベイラビリティを増加させる。
Effect of grapefruit juice on carbamazepine bioavailability in patients with epilepsy
☑️小腸の代謝の寄与があっても、代謝は肝で起こると仮定したモデルで予測精度に大きな問題はない
論文の結論でも書かれているように、グレープフルーツによる相互作用は、腸の上皮細胞に発現しているCYP3A4の代謝の関与が知られています。
CR-IR法による予測精度に問題はないのでしょうか。CR-IR法を提唱している大野は次のように述べています。
小腸の寄与を考慮したモデルを用いて小腸抽出率(Eg)を無作為に変動させて算出したAUC上昇率に比べ、その寄与を考慮しないモデルではAUC 上昇率を過大評価する傾向が認められた。
しかし、Egを0.6以下に制限する、あるいは肝臓と小腸の阻害率に中程度の相関(r = 0.6)を持たせることにより、過大評価はほとんどなくなった。
以上より、小腸の代謝の寄与がある場合も、阻害は肝で起こると仮定したモデルで実用的には予測精度に大きな問題はないと考えられた。
クリアランス理論に基づいた医薬品情報の評価と提供に関する研究
大野能之 医療薬学 39(5) 257―270 (2013)
理論的背景はやや難解ですが、結論からCR-IR法の予測に一定の妥当性があると言えそうです。
☑️予想したカルバマゼピンCR0.36でクラリスロマイシンと併用薬AUC上昇率を考える
クラリスロマイシンの阻害率IRは0.88です。
併用によりカルバマゼピンAUCは1.47倍になると予測されます。
また、阻害率がグレープフルーツより大きいので、Cmaxも1.4倍以上になると予想されます。
この強度での相互作用は、カルバマゼピンの治療域を逸脱させる可能性がありそうです。
医療現場における 薬物相互作用 へのかかわり方ガイド 編集| 日本医療薬学会 医療薬学学術第一小委員会
出典: www.jsphcs.jp
☑️カルバマゼピンの至適濃度と中毒濃度について
抗てんかん薬として使用する場合、カルバマゼピンの至適血中濃度は4~12μg/mLとされます。
文献により値が多少異なり、4~10μg/mLとするものもあります。
中毒症状については、血清中濃度が一般に12μg/mL以上で出現します。
・8μg/mL以上で、頭痛、嘔気・嘔吐、眼振、傾眠、複視、運動失調、精神運動活性の減少・不安。
・20μg/mL以上で、痙攣発作の増加、水中毒。
ノルエピネフリンやセロトニンの再取り込み阻害、およびMAO阻害作用など中枢神経に作用して、濃度依存的に副作用が出現します。
カルバマゼピンの治療至適濃度と中毒濃度が近接していることが分かります。
上限付近でコントロールしていた場合、クラリスロマイシンの併用で治療域を容易に逸脱することが予想されます。
薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル じほう
TDMポケットガイド 薬局新聞社
☑️アジスロマイシンがCYP3A4の相互作用を回避できる
それでは代替薬はどうしたらよいでしょう。
相互作用へのかかわり方ガイドから、マクロライドの阻害率IRを確認します。
クラリスロマイシン(500-1000mg)で0.88、エリスロマイシン(1000-2000mg)で0.82、アジスロマイシン(250-500mg)で0.11でした。
JAID/JSC感染症治療ガイド2019を参照すると、小児のマイコプラズマ感染症の治療薬は3つとも第一選択として記載されています。
したがって、CYP3A4の相互作用の軽微なアジスロマイシンに変更すれば、カルバマゼピンと安全に併用できると考えられます。
医療現場における 薬物相互作用 へのかかわり方ガイド 編集| 日本医療薬学会 医療薬学学術第一小委員会
出典: www.jsphcs.jp
☑️まとめ
マクロライドとCYP3A4の相互作用に関する総説を最後に引用し、結語とします。
(エリスロマイシン)の経口投与後、カルバマゼピンの血清濃度の2〜4倍の増加が観察され、相互作用の程度はエリスロマイシンの用量に関連しています。
クラリスロマイシンとの相互作用に関する多くの症例報告も発表されています。
アジスロマイシンは、カルバマゼピンとの相互作用がないようです。
要約すると、エリスロマイシンまたはクラリスロマイシンの同時投与の場合、血清カルバマゼピン濃度を注意深く監視し、患者に毒性の兆候がないか観察する必要があります。
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最終更新日2022年3月19日
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