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食道静脈瘤と非選択的β遮断薬による1次予防のエビデンス
☑️はじめに
消化器科から非選択的β遮断薬が処方されて不思議に思ったことはないでしょうか。
これは食道静脈瘤の破裂の1次予防を目的とした処方です。
適応外ですが、日本消化器学会の肝硬変診療ガイドラインではエビデンスレベルAで推奨されています。
さくら先輩、初めて見ました。
ゆきさん、エビデンスについて概観してみましょう。
プロローグ
👨⚕️食道静脈瘤の1次予防にカルベジロール、ナドロール、プロプラノロールを使う理由はなんですか?
👩🎓β遮断作用が非選択的だからです。
👩🎓β1受容体阻害作用による心拍出量の減少とβ2受容体阻害作用、α交感神経作用による腹部内蔵血管の収縮、門脈血流量の減少が、門脈圧低下をもたらすと考えられます。
👨⚕️成る程、あえて非選択的β遮断薬を用いるのですね。
出典: twitter.com
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☑️食道胃静脈瘤について
肝硬変患者では門脈圧が亢進していることから、肝臓以外に門脈血が流出する側副血行路が発達します。とくに胃と食道の接合部や肛門周囲の血流が発達して、前者は食道胃静脈瘤、後者は痔核を形成するようになります。
食道胃静脈瘤とは食道胃粘膜の下にある静脈の壁が膨れて血管が瘤のようになった状態を言います。瘤が破裂しない限り、瘤があるだけでは症状はないものの、血管内の圧力が上昇した場合や、食道胃粘膜にびらんや潰瘍を伴う場合には、これらの血管や瘤が破裂して大量出血、吐血する恐れがあります。
そのため、予防的な内視鏡治療や経静脈的インターベンションを中心とした治療が展開されます。薬物療法が選択される場合もあります。
ここがキモ! いまはこうする肝疾患vs.薬物療法
☑️食道静脈瘤のマネジメント
肝硬変患者の40-60%で、胃食道静脈瘤が認められます。
出血リスクは年間12%です。静脈瘤の大きさ、形態、肝硬変の重症度が出血リスクに関与します。
スクリーニングとして、2-3年毎に内視鏡フォロー。毎年5-10%で静脈瘤が出現します。
<5mmの小型静脈瘤は1-2年毎に内視鏡フォロー。>5mmの大型静脈瘤でβ遮断薬を導入。専門科コンサルします。
ホスピタリストのための内科診療フローチャート
☑️薬物療法の根拠
肝静脈圧較差(HVPG)が12mmHgを越すと食道静脈瘤破裂がみられますが、これを12mmHg以下に、あるいは基礎値の80%未満に低下させると、静脈瘤破裂を長期間阻止できます。
従来、肝硬変では肝内血管抵抗が高値に固定されていると考えられていましたが、単離潅流肝実験において血管拡張薬が肝内血管抵抗値を30%低下させることが判明し、薬物治療に根拠を与えることになりました。
内視鏡的静脈瘤結紮朮(EVL)や内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)と同等であったとする一方、EVLに劣るとする報告もありましたが、1992年のメタアナリシス1)では、出血のリスクのある静脈瘤の患者ではβ遮断薬が第一選択であると結論づけています。
また2005年のメタアナリシス2)では、出血リスクの高い食道静脈瘤患者(予防例)において、EVLはβブロッカーに対し、有意に出血や重篤な合併症を抑えたが、死亡率に有意差はなかったと報告されています。
肝硬変合併症の診断・治療
☑️引用文献1
「肝硬変における初回出血の予防:非外科的治療に関する無作為化試験のメタアナリシス」の要旨を掲載します。
DEEPLを使用して翻訳しました。
目的
肝硬変と食道胃静脈瘤を有する患者の初回出血の予防と死亡率の低下に対するβ遮断薬と内視鏡的硬化療法の有効性を評価すること。
データソース
MEDLINE(1980年~1990年),発表された論文やレビューの参考文献リスト,会議の抄録リストを用いて,関連する研究を選択した。
研究の選択
β遮断薬または硬化療法と非作用性治療を比較した無作為化試験。β遮断薬に関する9件の無作為化臨床試験と硬化療法に関する19件の臨床試験がレビューされました。β遮断薬については7試験、硬化療法については15試験がフルペーパーとして発表された。
データ抽出
治療群と対照群の出血および死亡の粗率は,intention-to-treatの原則に従って,3人の独立したオブザーバーが各試験から抽出した。発表された論文の質を体系的に評価し、スコア化した。
データの統合
異質性の統計的評価および結果のプールには,Mantel-Haenszel-Peto法を用いた。実質的な異質性は認められず,β遮断薬の試験では出血の発生率が有意に減少した(プールしたオッズ比,0.54;95%CI,0.39〜0.74)。
特に,大・中規模の静脈瘤を有する患者や,静脈瘤と12mmHg以上の肝静脈圧較差を有する患者では,出血の発生率が減少したが,死亡率の減少傾向しか認められなかった。
硬化療法の試験では、出血(プールされたオッズ比、0.6;CI、0.49~0.74)と死亡率(プールされたオッズ比、0.76;CI、0.61~0.94)の両方に対する治療効果の方向性が非常に異なっていた。
試験の質と未治療群の出血率が、異質性の主な原因となっていた。
硬化療法の良好な結果は、対照群の出血率が高かった試験で得られており、これらの試験のいくつかは品質スコアが低かった。
結論
出血のリスクが高い静脈瘤を有する肝硬変患者の初回出血の予防には,β遮断薬が推奨される可能性がある。
硬化療法の有効性はまだ確定していない。出血リスクを予測する基準が改善されれば、高リスクの患者を対象としたさらなる試験が有用となるかもしれない。
Prevention of first bleeding in cirrhosis. A meta-analysis of randomized trials of nonsurgical treatment
☑️引用文献2
「メタアナリシス:食道静脈瘤出血の一次予防のための内視鏡的静脈瘤結紮術」の要旨を掲載します。
DEEPLを使用して翻訳しました。
背景
一次予防としての内視鏡的静脈瘤結紮術の治療効果は不明である。
目的
食道静脈瘤出血の一次予防のための内視鏡的静脈瘤結紮術とβ遮断薬の治療効果を比較した。また,生物学的に根拠のある介入効果の違いを明らかにする目的で,サブグループ解析を行った。
方法
食道静脈瘤出血の一次予防のための内視鏡的静脈瘤結紮術とβ遮断薬の治療効果を比較した無作為化比較試験を文献検索した。
スクリーニングされた955の論文のうち、596人の被験者(内視鏡的静脈瘤結紮術285人、β遮断薬311人)を含む8つの無作為化比較試験が分析された。
評価されたアウトカム指標は、初回消化管出血、初回静脈瘤出血、全死亡、出血関連死亡、重度の有害事象。
関連性の評価には相対リスクを用い、異質性と感度分析を行った。
結果
261名(91.6%)の患者で静脈瘤の閉塞が得られ、294名(94.5%)の患者で目標とするβ遮断薬治療が達成された(P = 0.19)。
内視鏡的静脈瘤結紮術は,β遮断薬と比較して,初回消化管出血の発生率を31%(RR, 0.69; 95% CI: 0.49-0.96; P = 0.03; NNTB = 15),初回静脈瘤出血の発生率を43%(RR, 0.57; 95% CI: 0.38-0.85; P = 0.0067; NNTB = 11),有意に減少させた。
全死亡および出血関連死亡には影響がなかった(それぞれRR, 1.03; 95% CI: 0.79-1.36; P = 0.81およびRR, 0.84; 95% CI: 0.44-1.61; P = 0.60)。
重度の有害事象は、内視鏡的静脈瘤結紮術がβ遮断薬と比較して有意に少なかった(RR, 0.34; 95% CI: 0.17-0.69; P = 0.0024; NNTB = 28)。
ピアレビュー誌に掲載された5つの試験と質の高い4つの試験の感度分析では、8つの試験すべての一次分析で得られた結果と同様の結果が得られ、結論の安定性が確認された。
内視鏡的静脈瘤結紮術による静脈瘤の閉塞後,83 例(29.1%)の患者で食道静脈瘤が再発した。
7名(28.1%)の患者が出血し、1名が死亡した。
サブグループ解析では、30%以下のアルコール性肝硬変患者、30%以上のChild Class C肝硬変患者、50%以上の大きな静脈瘤を有する患者を対象とした試験では、内視鏡的静脈瘤結紮術はβ遮断薬と比較して有意に有利であった。
結果
中等度から大きな静脈瘤を有し、出血していない肝硬変患者において、内視鏡的静脈瘤結紮術はβ遮断薬と比較して、出血エピソードと重篤な有害事象を有意に減少させたが、死亡率には影響を及ぼさなかった。
Meta-analysis: endoscopic variceal ligation for primary prophylaxis of oesophageal variceal bleeding
☑️食道静脈瘤予防目的の非選択的β遮断薬の投与量
推奨される投与量については以下のとおりです。
プロプラノロール(インデラル®) 開始用量20mg 2回/日 目標 耐えられる最大量まで、心拍数55回/分となるまで
ナドロール(ナディック®) 開始用量20-40mg 1回/日 目標 耐えられる最大量まで、心拍数55回/分となるまで
カルベジロール(アーチスト®) 開始用量6.25mg 1回/日 目標 耐えられる最大量まで、心拍数55回/分となるまで、もしくは12.5mg/日まで
Management of varices and variceal hemorrhage in cirrhosis
☑️まとめ
消化器科から処方される非選択的β遮断薬について概観しました。
これは食道静脈瘤の破裂の1次予防に処方されているものです。
適応外ですが、日本消化器学会の肝硬変診療ガイドラインではエビデンスレベルAで推奨されています。
処方頻度は少なくないと思われるので、知識の片隅においておきましょう。
肝硬変診療ガイドライン
出典: www.jsge.or.jp
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最終更新日2021年12月11日
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