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アトモキセチンはCYP2D6で代謝されるが日本人の14%は低代謝活性
☑️はじめに
ある時、アトモキセチン(ストラテラ®️)が開始になった患者さんがありました。
Age>18でしたが、18歳未満のスケジュールで漸増と思われました。
体重45kgで、20mgより開始し、その後1日35mgとし、更に1日60mgまで増量(した後、1日60~80mgで維持する)。
増量は2週間の間隔をあけて行い、いずれの投与量においても1日2回に分けて経口投与します。
1日量は80mgを超えないようにします。
順調に増量していましたが、開始後3週を過ぎた頃からぼーっとした印象、5週を過ぎた頃から体重減少・焦燥感等で20mg/日、10mg/日と減量も忍容性が得られず廃薬となりました。
何が問題だったのでしょうか?
キーワードは遺伝子多型です。
わたしたちと一緒に見て行きましょう。
プロローグ
🐗アトモキセチン増量中に食用不振・焦燥感‼️減量するも継続拒否され廃薬。何でだ⁉️
👧CYP2D6で代謝されますが遺伝子多型あります🦋
👧欠損のPMは日本人では1%未満ですが、10*のミュータントホモは14%、これは通常型のEMの活性の1/5しかありません🦋
👧用量設定はEMに合わせてありますから🦋
出典: twitter.com
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☑️ストラテラ®️添付文書を確認する
ストラテラ®️の添付文書には次のように記載されています。
1.18歳未満の患者:18歳未満の患者には、アトモキセチンとして1日0.5mg/kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、更に1日1.2mg/kgまで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgで維持する。但し、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日2回に分けて経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日量は1.8mg/kg又は120mgのいずれか少ない量を超えない。
ストラテラカプセル5mg/10mg/25mg/40mg 添付文書
増量は、添付文書に則ったものと確認できると思います。
☑️CYP2D6による代謝寄与率が高い薬剤
アトモキセチンはCYP2D6による代謝寄与率が高い薬剤です。
FDAのガイドラインでは「CYP2D6の感受性の高い基質」と表現されます。
またガイドラインでは阻害作用を受けやすい感受性の基質とは、CYP阻害薬と併用した場合にAUCが5倍以上に上昇する薬剤や、PMとEMのAUCに5倍以上の開きがある薬剤と定義しています。
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☑️阻害剤との併用により理論上AUC3~10倍に
CYP2D6を阻害する薬物と併用した場合、その影響をより定量的に評価する方法はあるのでしょうか?
パロキセチンやテルビナフィンは代謝阻害率の高い薬剤、すなわち「CYP2D6の強い阻害薬」です。
FDAによるCYP阻害強度の定義は、阻害を受ける薬剤のAUCに及ぼす影響の程度に応じて、「強い阻害薬」ではAUCを5倍以上に上昇させるものとしています。
パロキセチン併用によるアトモキセチンAUC上昇率は、大野らのCR-IR法から理論的に導き出すことが出来ます。
アトモキセチンのAUCは3~10倍の範囲になる可能性が95%と予測されます。
薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2015
☑️臨床試験でもAUC6.5倍の報告がある
また、文献でもパロキセチンとの併用でAUC6.5倍の報告あり、妥当性があると考えられます(PMID: 12412820)。
Effect of potent CYP2D6 inhibition by paroxetine on atomoxetine pharmacokinetics
J Clin Pharmacol. 2002 Nov;42(11):1219-27. doi: 10.1177/009127002762491307. PMID: 12412820
☑️遺伝子多型でもAUC5倍程度の開きがある
パロキセチンは服用数日でCYP2D6活性をEMからPM様に変えると添付文書に書かれています。
本剤がCYP2D6を阻害し、表現型がExtensive MetabolizerからPoor Metabolizer様へ変換することから、CYP2D6で代謝される薬剤との相互作用が考えられる。なお、この表現型の変換は休薬後約1週間で回復する。(引用注:阻害様式はMBIと考えられている。)
パキシル錠5mg/パキシル錠10mg/パキシル錠20m添付文書
このことを逆に言えば、遺伝子多型でも5倍程度のAUCの変動が予測されると言うことです。
CYP2D6は活性の異なる遺伝子多型を持ち、そのため体内動態に個人差が現れることが予測されます。
☑️日本人の6人に1人が活性低下している
薬物代謝酵素CYP2D6について、次の知見があります。
PMは白人7~10%に存在します。日本人1%以下で、2D6の個人差は少ないと考えれていました。
しかし、近年10*のミュータントホモは日本人の6人に1人存在することが分かり、代謝能の個人差は、臨床上無視出来ないと考えられるようになりました。
薬物代謝酵素CYP2D6について
出典: pharmaspur.com
CYP2D6活性と日本人での遺伝子多型の出現頻度は以下のようになります。
PM(欠損)3% 10*/10*(活性は通常の1/5)14% IM(減弱)35% EM(通常)48%
薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2015
☑️まとめ
アトモキセチン塩酸塩錠 添付文書には、次のように記されています。
1.CYP2D6阻害作用を有する薬剤投与中の患者又は遺伝的にCYP2D6の活性が欠損していることが判明している患者(Poor Metabolizer)では、本剤の血中濃度が上昇し、副作用が発現しやすい恐れがあるため、投与に際しては忍容性に問題がない場合にのみ増量するなど、患者の状態を注意深く観察し、慎重に投与する。
今回のケースでは、患者がCYP2D6の10*のミュータントホモ、もしくはPMだった可能性が考えられないでしょうか。
そのためAUCが5倍以上に上昇し、認容性が得られなかったのではないでしょうか。
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最終更新日2021年4月8日
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