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インチュニブはクラリスと安全に併用出来るでしょうか?PISCSで予測しました。
☑️はじめに
インチュニブ(成分名グアンファシン)服用中の児童にクラリス(成分名クラリスロマイシン)が処方された
インチュニブ錠1mgを服用中の児童(10歳、体重34kg)に、クラリス錠200mg 2錠 分2 朝夕食後 4日分が処方されました。
併用注意の記載があるため、新人のあなたは処方医に疑義照会したところ、処方通りとの回答を得ました。
併用によりグアンファシンの効果が増強されて過度の降圧が起こる事はないのでしょうか。
インタビューフォームにも併用に関する詳しい情報がありません。
そこで、既知の知見を統合することで、未知であるAUCの上昇度合いの推定を試みます。
ふふーん、PISCSの出番だね!
プロローグ
👩🎓新薬は情報が少なく、相互作用の強度(AUC変化率などで表現される)も未知である場合が多くあります。
👩🎓大野らのPISCSは、寄与率と阻害率の2つのパラメータだけでAUC変化率を予測する手法です。
👩🎓これを理解すれば、未知の組み合わせでも併用リスクを定量的に判断可能です。
👩🎓なお、読んで頂くのは単なるPISCS紹介に留まることなく、小ワザを組み合わせた内容です。
👩🎓大野先生にもいいねされた記事、請うご期待。
出典: twitter.com
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☑️インチュニブとクラリスは併用注意
薬物代謝酵素を介した相互作用がある
グアンファシンは、CYP3A4で代謝されることが添付文書に書かれています。
グアンファシンを服用するのは学童期のお子さんなので、クラリスロマイシンの処方機会も多いと思います。
CYP3A4阻害作用を有するクラリスロマイシンを併用することで、グアンファシンのAUCはどの程度上昇するでしょうか。
併用によりグアンファシンの効果が増強されて過度の降圧が起こる事はないのでしょうか。
インタビューフォームにも併用に関する詳しい情報がないため、既知の知見を統合することで、AUCの上昇度合いの推定を試みます。
PISCSを応用して併用時のAUC上昇率を推定する
ここでCYPによる相互作用を定量的予測するPISCS(Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)を紹介します。
CYP の阻害による薬物動態変化の程度をどのように評価するか?
大野らは CYP を介する相互作用に関して,in vitro データではなく典型的な薬物相互作用のin vivo の臨床試験の報告から CYP 分子種の基質薬のクリアランスへの寄与率“CR”と阻害薬の阻害率“IR”を算出することにより,阻害薬の併用による他の多くの基質薬の血中濃度の変化の程度を予測する方法を報告している.これは該当する CYP 分子種の基質薬の CR,阻害薬の IR を求めることによって,臨床報告のない組み合わせでも,阻害による薬物相互作用による基質薬の血中濃度 AUC の変化を以下の式で予測するものである.
AUC inhibitor/AUC control=1/(1-CR・IR)
出典: www.jsphcs.jp
PISCSのデータからクラリスロマイシンのCYP3A4に対する阻害率(IR)は0.88、一方ケトコナゾールのIRは>0.9と考えられます。
類薬のイトラコナゾールのIRは0.95であるので、これを流用してみます。
基質のAUC上昇率=1/(1-CR・IR)
グアンファシンのCYP3A4寄与率(CR)は、ケトコナゾールでAUC3倍とのデータから、0.70程度と推定されます。
この場合、クラリスロマイシンによるAUC上昇率は2.6倍と推定されます。
PISCSの精度から、80%の確率で点推定値の67~150%の範囲内にあると考えられます。
クラリスロマイシンの用量を補正出来ないか考察する
ただし、データの基となっているクラリスロマイシンの海外用量は、成人で1000mg/dayと日本の2.5倍です。
それを考慮すると今回の症例ではAUC上昇率はそこまで高くなかったかも知れません。
クラリスロマイシン(CAM)のCYP3A4阻害作用はMBIかつ用量依存的である事が示唆されています。
CAM400mg/day、800mg/day 1週間の投与により、内因性コルチゾールのクリアランスは各々30%、60%低下したと言う報告があります。
Dose-dependent inhibition of CYP3A activity by clarithromycin during Helicobactre pylori eradication therapy assessed by changes in plasma lansoprazole levels and partial cortisol clearance to 6β-hydroxycortisol
Clin Pharmacol Ther. 72. 33-43 (2002)
CLtot=Dose/AUCと言う関係式から、AUCは各々1.43倍、2.5倍に上昇したと推定されます。
結局の所、併用によるAUC上昇率はどの程度と予想されるか
これらを勘案すると、今回のクラリスロマイシン併用によるグアンファシンのAUC上昇は1.5倍程度だったのではないかと推定されます。
☑️まとめ
ここまで見てきたように、グアンファシンとクラリスロマイシンと言う、併用に関する臨床データの無い薬剤を取り扱い、PISCSを応用することでAUC上昇率を推定しました。
グアンファシンは、クラリスロマイシンと併用した場合、AUC上昇率1.5倍と推定されます。
添付文書の用量は、体重34~38kgでは開始用量1mg、維持用量2mg、最高用量4mgと記載されています。
1.5倍は許容出来る範囲と処方医は判断されたのではないかと推察しました。
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☑️推薦図書
「これからの薬物相互作用マネジメント―臨床を変えるPISCSの基本と実践」
PISCSの運用に使える実用書です。薬局に一冊備えておきたい本。
|
「医療現場のための薬物相互作用リテラシー」
薬物相互作用の基礎知識、ピットフォール、定量的にマネジメントする手法が解説されています。
PISCSの理論的背景にも紙幅をさいて書かれています。
薬物相互作用を勉強したい方にお勧めです。特にPISCSを更に深く知りたい方は、類書には無い内容ですので、ぜひ本書を手に取って下さい。
薬物相互作用のマネジメントは、薬剤師の職能そのものと思いますので、ぜひPISCSを技の1つに加えましょう。
定量的な予測が加われれば、あなたの疑義照会や処方提案も受け入れられやすくなると思います。
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☑️関連記事
PISCSの運用の基礎知識について書いた記事です。ぜひご一読下さい。
PISCSで薬物相互作用をAUC変化率として定量的に評価する。
☑️参考文献
1)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践 監:鈴木洋史 編:大野能之 樋坂章博 じほう 2014年2月
2)医療現場のための薬物相互作用リテラシー 編:大野能之 南山堂 2019年
3)”Dose-dependent inhibition of CYP3A activity by clarithromycin during Helicobactre pylori eradication therapy assessed by changes in plasma lansoprazole levels and partial cortisol clearance to 6β-hydroxycortisol”Clin Pharmacol Ther. 72. 33-43 (2002)
最終更新日2020年07月19日
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