タンパク結合率が変動しても、ピルシカイニドの遊離型濃度は影響されない

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タンパク結合率が変動しても、ピルシカイニドの遊離型濃度は影響されない

☑️はじめに

ピルシカイニドはアルブミンの他、α1-酸性糖たん白に結合します。

α1-酸性糖タンパクは炎症時に増えるので、たん白結合率が変わります。

この時、ピルシカイニドの体内動態に変化は起きるのでしょうか?

薬効が増強されたり減弱されたりすることはあるのでしょうか?

結論から言うと、ピルシカイニドの作用強度が変わることはありません。

PKの特徴づけから、たん白結合率が変化しても薬効を担う遊離型薬物濃度は不変と推定されるからです。

今回の記事では、たん白結合率が変動してもピルシカイニドの遊離型濃度は影響されないことを解説します。

さくら先輩、薬物動態は難しいそうです…

ゆきさん、大丈夫。難しい数式はないよ。一緒に見て行こう。

プロローグ

📖ピルシカイニドはα1-酸性糖たん白(AAG)に結合する

👧炎症時にAAGが増加すると効果は増強しますか?
👩否。薬効を担う遊離型濃度は不変だよ

Ae=0.9, CL=230mL/min, Vd=80L, fuB=0.65でTable2132

エタンブトールやメトホルミンと同じ特徴を持ちます。

👧初見です。もう少し説明お願いします
👩🆗まずは薬の特徴づけだけど…

出典: twitter.com

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記事の続きをどうぞ。

☑️薬物のPK特性から変動要因を決定する

薬物のPKの特徴づけと病態時における情報を組み合わせることにより、病態時における血中濃度の変動を解釈できます。

順をまとめると以下のようになります。

1.個々の薬物の PK パラメータの特徴づけを⾏う
2.各PKパラメータの変動要因を明確にする(Table 1111〜2332)
3.病態時における各変動要因の変化について検討する

サンリズム®(ピルシカイニド)を見て行きましょう。

薬物の体内動態パラメータ値と特徴づけ 病態変化に伴う⾎中⾮結合形濃度の予測への応⽤

出典: www.maruzen-publishing.co.jp

☑️個々の薬物の PK パラメータの特徴づけを⾏う

サンリズム®添付文書やインタビューフォーム等から、以下の情報を得ました。

①Ae=0.9     腎排泄型
②CL=230mL/min 消失能依存型
③Vd/F=80L    分布容積大
④fuB=0.65     血漿たん白結合非依存型

また
F 不明
B/P不明

サンリズム®添付文書/インタビューフォーム

出典:

☑️各PKパラメータの変動要因を明確にする(Table 1111〜2332)

サンリズム®は、緒方らの提唱する薬物の分類でTable2132に該当すると思われます。

経口投与時のクリアランスCLpo、CLpofは次式であらわされます。

CLpo=fuB・CLintR/Fa≒CLintR/Fa (たん白結合非依存性の場合、fuBの変化はないと見なすことが出来る)
CLpof=CLintR/Fa

PK パラメータの変動要因とそれらの病態の変化に伴う動き table2132

出典: www.maruzen-publishing.co.jp

☑️病態時における各変動要因の変化について検討する

炎症によりα1-酸性糖たん白が増加した場合に想定しうる変化は次のようになります。

・血漿たん白遊離分率の低下 fuB(=fuP)↓

これは遊離型ピルシカイニド経口クリアランスの変動要因ではありません。

従って、炎症を起こしてα1-酸性糖たん白が増加しても、ピルシカイニドの作用強度は変わらないと考えられます。

☑️文献を解釈する

「髙橋らは糖尿病性腎症のために維持透析を 行っている症例で発作性心房細動に対して投与されていたピルシカイニド(Ⅰ群抗不整脈薬)が 契機となり重篤な不整脈が発生した教訓的な症例を報告した.

(中略)本症例のように,さまざまな疾患を合併してストレス下にある症例では AAGとの結合によりピルシカイニドのクリアランスが減少して中毒域に達した可能性もあろう.」

出典: www.jstage.jst.go.jp

AAG(α1-酸性糖たん白)との結合は、あるいは総ピルシカイニドの経口クリアランスを減少させるかも知れません。

しかしながら、遊離型ピルシカイニドの経口クリアランスの変動要因は吸収率と腎固有クリアランスのみです。

中毒域に達した原因は透析に至る程の腎機能の低下、すなわち腎固有クリアランスの低下と考えるべきです。

☑️文献を解釈する

Effect of protein binding of pilsicainide on the pharmacokinetics
PMID: 15988120

出典: pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

総ピルシカイニドのみの検討です。

(総ピルシカイニドの経口)クリアランスは減少することが示唆と要旨に書かれています。

しかし、遊離型ピルシカイニドを測定していれば、遊離型ピルシカイニドの経口クリアランスは不変ではなかったでしょうか。

☑️まとめ

たん白結合率が変動してもピルシカイニドの遊離型濃度は影響されないことを見て来ました。

たん白結合したピルシカイニドが増えた結果、総濃度が高くなる場合があるかも知れませんが、薬効を担うのは遊離型ピルシカイニドです。

遊離型ピルシカイニドの経口クリアランスの変動要因は腎固有クリアランスと吸収率のみということを記憶していて下さい。

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最終更新日2021年9月4日

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