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偽アルドステロン症を回避する為の甘草含量での規制に妥当性はありますか
☑️はじめに
甘草は諸薬を調和する働きがあるとされ、多くの漢方処方に配合されています。
その主薬効成分と考えられるグリチルリチンは種々の薬効を有し、一方で偽アルドステロン症などの副作用を引き起こすことも知られています。
このような副作用を回避するために、漢方処方の添付文書では、甘草の配合量に応じた注意が記載されています。
しかし、甘草からのグリチルリチンの抽出効率が、生薬の組み合わせの違いに関わらず一定であるかどうかは不明でした。
今回紹介する論文は、この安全性に関する規制の根拠を確認する目的で、処方頻度の高い25種類の漢方処方の抽出物について、グリチルリチンの含有量を測定したものです。
記事は以下の論文をもとに執筆しました。
論文
Comparison of glycyrrhizin content in 25 major kinds of Kampo extracts containing Glycyrrhizae Radix used clinically in Japan
Mitsuhiko Nose
J Nat Med . 2017 Oct;71(4):711-722. doi: 10.1007/s11418-017-1101-x. Epub 2017 Jun 12.
PMID: 28608269 PMCID: PMC5897458
CC-BY(4.0)
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☑️甘草について
甘草は諸薬を調和する働きがあるとされ、多くの漢方処方に配合されています。
「古典によれば、甘草を寒涼薬と配合すると清熱の働きが、温熱薬と配合すると補気の働きが、作用の峻烈な薬物と同用するとその峻烈な作用が抑制されて毒性は穏やかになり、穏やかな作用を持つ薬物と同用するとその薬効が増強されるなど、諸薬を調和する役割があるとされる。」
出典:漢方処方における「甘草」配合の意義に関する基礎的研究
この説の詳細は未解明ですが、主薬効成分と思われるグリチルリチンには抗炎症作用・抗アレルギー作用など種々の薬効が確認されています。
精製されたグリチルリチンは、日本では慢性肝炎治療薬として承認されています。
☑️偽アルドステロン症について
その一方、甘草を含む漢方薬やグリチルリチン製剤の過剰服用や長期服用により、偽アルドステロン症につながるとする複数の報告があります。
末梢浮腫や低カリウム血症、高血圧などを引き起します。
甘草を1日量で2.5g以上使用する製剤で発症リスクが高いとする報告があり、以前から注意喚起されて来ました。
甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査
甘草を含む製剤の添付文書には、甘草の含有量に応じた注意事項が記載されています。
しかしながら、甘草からのグリチルリチンの抽出効率が、漢方処方の生薬の組み合わせの違いに関わらず一定であるかどうかは不明でした。
☑️抽出液のグリチルリチン含量について
安全性規制の根拠を確認するために、甘草を配合した主要25種類の漢方煎じ液について、グリチルリチン含量を網羅的に測定した研究があります。
実験の結果、1日摂取量あたりのグリチルリチン含量は、小青竜湯を除き、概ね甘草の配合量に比例していることが分かりました。
また、小青竜湯の煎じ液に含まれる五味子(Schisandrae Fructus)はpHを低下させ、甘草からのグリチルリチンの抽出効果を大幅に低下させることが分かりました。
さらに、甘草からのグリチルリチン抽出効率は、抽出溶媒のpH値に依存することが分かりました。
25種類の漢方煎じ液中のグリチルリチンの抽出効率は一定ではありませんが、煎じ薬のpH値と大きな相関があることが分かりました。
さらに、25種類の漢方煎じ液中のグリチルリチン含量は、JADER(Japanese Adverse Drug Event Report)データベースから得られた、偽アルドステロン症発症データと相関していることが分かりました。
甘草を含有する漢方製剤の副作用を回避するためには、甘草含量よりもグリチルリチン含量の方が考慮すべき指標かも知れないと考えられました。
Comparison of glycyrrhizin content in 25 major kinds of Kampo extracts containing Glycyrrhizae Radix used clinically in Japan
Mitsuhiko Nose
J Nat Med . 2017 Oct;71(4):711-722. doi: 10.1007/s11418-017-1101-x. Epub 2017 Jun 12.
PMID: 28608269 PMCID: PMC5897458
CC-BY(4.0)
☑️論文を読んで考えたこと
偽アルドステロン症の発症頻度は概ね甘草含量に比例するものの、それだけでは説明のつかない漢方処方があります。
例えば抑肝散ですが、カリウム低下薬の併用や、抑肝散加陳皮半夏でなく抑肝散の使用などをリスク因子として同定しようとする報告もありました。
Liquorice-induced hypokalaemia in patients treated with Yokukansan preparations: identification of the risk factors in a retrospective cohort study
出典: bmjopen.bmj.com
今回のグリチルリチン抽出効率と言う視点は、議論の前提として押さえておくべき基礎的知見であり、価値のある研究と思いました。
ちなみに、抑肝散と抑肝散加陳皮半夏ではグリチルリチン含量に大差はないとの興味深い結果が得られています。
リスク因子の探索をする際に、甘草含量でなくグリチルリチン含量を採用すれば、より精度の高い解析が出来るように思われます。
☑️まとめ
甘草を含む製剤の添付文書には、甘草の含有量に応じた注意事項が記載されています。
しかしながら、甘草からのグリチルリチンの抽出効率が、漢方処方の生薬の組み合わせの違いに関わらず一定であるかどうかは不明でした。
25種類の漢方煎じ液中のグリチルリチンの抽出効率を調査した報告から、小青竜湯を除き、概ね甘草の配合量に比例していることがわかりました。
また抽出率は煎じ薬のpH値と大きな相関があることが分かりました。
さらに、グリチルリチン含量は、JADERデータベースから得られた偽アルドステロン症発症データと相関していることが分かりました。
この報告の結論は、副作用を回避するためには、甘草含量よりもグリチルリチン含量の方が考慮すべき指標かも知れないとしています。
甘草含量量と副作用頻度が一致しない現象を説明する際の有力な知見になるのではないかと思われました。
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最終更新日2022年5月21日
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