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漢方製剤に含まれる甘草による偽アルドステロン症のリスク因子は何ですか
☑️はじめに
医療用漢方製剤の7割に甘草が含まれています。処方されている甘草の1日量は方剤により1gから8gまで様々です。
甘草1gには40mgのグリチルリチンが含まれ、抗アレルギー作用など種々の薬理作用を有していますが、鉱質コルチコイド作用に起因する偽アルドステロン症を発症する場合があります。
ナトリウム貯留とカリウム排泄促進が起こり、高血圧・末梢浮腫・低カリウム血症などを呈します。
どのようなメカニズムで起きるのでしょうか。偽アルドステロン症を発症させるリスク因子はあるのでしょうか。
本記事では2021年に発表されたレビューを中心に、漢方製剤に含まれる甘草による偽アルドステロン症のリスク因子について概観します。
論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)CC-BYで公開されています。
原作者のクレジット(氏名、タイトル等)を表示することを主な条件とし、改変はもちろん営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いCCライセンスです。
論文
Tetsuhiro Yoshino, Saori Shimada, et al. :Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review,
Front Nutr. 2021 Sep 17;8:719197.
PMID: 34604277 PMCID: PMC8484325
CC-BY(4.0)
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☑️偽アルドステロン症を発症させるメカニズム
グリチルリチンはグリチルレチン酸に2分子のグルクロン酸が結合した配糖体です。
腸内細菌による加水分解を受けてアグリコンとなります。加水分解物であるグリチルレチン酸、もしくはその代謝産物が、偽アルドステロン症の病態の中心と考えられています。
これらグリチルリチン代謝物は、遠位尿細管から皮質集合管上皮細胞内での11-β-ヒドロキシステロイド脱水酵素2(11-β-HSD2)を阻害します。
11-β-HSD2はコルチゾールを鉱質コルチコイド活性のないコルチゾンに変換する酵素です。酵素阻害されることで上皮細胞内のコルチゾール濃度が高まり、生体のアルドステロン濃度に関係なく鉱質コルチコイド受容体が活性化されるようになります。
その結果、ナトリウムと水の再吸収が亢進し、浮腫や高血圧、低レニン・低アルドステロン血症となります。またカリウム排泄も亢進され、ミオパシーや時に横紋筋融解症を発症させることがあります。
出典:月刊薬事 2022年2月臨時増刊号(Vol.64 No.3)
「救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方」
☑️甘草高用量
甘草の1日の服用量は、偽アルドステロン症のリスク因子です。
日本の医療用内服漢方薬147品目のうち、109品目(74%)が1日量1.0〜8.0gの甘草を含むエキスを含有しています。
添付文書では、甘草を1日2.5g以上含む漢方製剤はアルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症の患者を禁忌とし、甘草を1日2.5g以下含むものは、やはりこれらの関連疾患を副作用として挙げています。
甘草を高用量に含む漢方、または甘草を含む複数の漢方を服用すると、グリチルリチンの過剰摂取に繋がる可能性があります。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️高齢者
糖代謝のいくつかの過程は、加齢による影響を受けますが、甘草による偽アルドステロン症は高齢者に多く見られます。
また11-β-HSD2活性の低下が報告されているように、加齢による酵素活性の変化も高齢者のリスク因子です。
高齢者では血清コルチゾール濃度が上昇していますが、これは糖質コルチコイド受容体の発現密度の低下により、海馬の負のフィードバックが減少することと関連している可能性もあります。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️便秘
グリチルリチンは腸内細菌によりグリチルレチン酸に加水分解されて吸収されます。
また、胆汁排泄されたグリチルレチン酸硫酸抱合体も腸内細菌によって加水分解され、腸から一部吸収され、腸肝循環を示すようになります。
そして未吸収分のグリチルレチン酸と硫酸抱合体は糞便中に排泄されます。
グリチルリチンまたは甘草を同じ量だけ摂取しても、グリチルレチン酸の血中濃度に大きな個人差が認められました。
この変動は、加水分解されたグリチルリチンの量の差に起因すると考えられます。また、加水分解率はグリチルリチンの腸管内滞留時間にも依存します。
グリチルリチンが腸管内に滞留する時間が長いほど、細菌のβ-グルクロニダーゼによって加水分解され、結果として血清中のグリチルレチン酸の濃度が高くなります。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️低アルブミン血症
グリチルリチン代謝物は血液循環中では血清アルブミンと高度に結合しているため(99.9%以上)、糸球体濾過により尿中に排泄されません。
低アルブミン血症は血液循環中の代謝物の非結合型画分を増加させ、結果として11-β-HSD2が存在する細胞内への分布が促進されます。
したがって、低アルブミン血症は偽アルドステロン症のリスク因子であると考えられます。
実際、低アルブミン血症は、甘草を1日1.5g含む抑肝散を服用している患者の危険因子として確認されており、また他の症例集積でも同様のことが確認されています。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️直接高ビリルビン血症
MRP2は胆汁排泄に関与するABCトランスポーターです。
MRP2の機能不全によりグリチルレチン酸硫酸抱合体の胆汁排泄が抑制されると、抱合体は血液循環に移行します。
高ビリルビン尿症ラットにおいて、グリチルリチン代謝物が著しく蓄積されることが明らかにされています。
この現象はヒトではまだ議論の余地がありますが、いくつかの症例でMRP2機能障害の代替マーカーとなりうる高ビリルビン血症と低カリウム血症との合併が報告されています。
高ビリルビン血症を有する患者では低カリウム血症がより一般的であることがわかっています。
外来でよく見られる低アルブミン血症と比較すると、高直接ビリルビンは甘草による偽アルドステロン症のまれな危険因子であると考えられます。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️利尿薬
サイアザイド系、ループ利尿薬などの薬剤の併用は、偽アルドステロン症の表現型に影響を及ぼします。
例えば1.5gの甘草で調製したエキスである抑肝散で治療した患者では、カリウム喪失性利尿薬の併用により、低カリウム血症のリスクが増加しました。
ループ利尿薬はNa-K-2Cl共輸送体をブロックし、サイアザイドは遠位ネフロンにおけるNa-Cl輸送体をブロックします。
これらの利尿薬は末梢浮腫と高血圧を防ぐことができますが、集合管内流を増加させ、ナトリウムの再吸収を刺激するため、甘草含有製品を服用する患者ではカリウムの排泄が増加し、低カリウム血症が誘発されます。
Clinical Risk Factors of Licorice-Induced Pseudoaldosteronism Based on Glycyrrhizin-Metabolite Concentrations: A Narrative Review
☑️まとめ
グリチルリチンによる偽アルドステロン症のメカニズムとリスク因子を確認してきました。
グリチルリチンの代謝物が11-β-HSD2を阻害して生体のコルチゾール濃度が高くなるため、Naと水の再吸収が亢進し、K排泄が亢進されます。結果、偽アルドステロン症が発症します。
リスク因子としては、甘草高用量(添付文書上は2.5g/日以上)、高齢者、便秘、低アルブミン血症、高直接ビリルビン血症、ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬などがあげられます。
危険因子と使用状況を勘案すると、添付文書のとおりに使用しても本症の報告が多い場面を予測できます。こむら返りに対する芍薬甘草湯、認知症に対する抑肝散です。芍薬甘草湯は屯用、抑肝散は分1とすることで、大部分の副作用を回避できると思われます。
また、他医療機関より処方されている漢方製剤にも気を配り、甘草の重複にならないようにすることが重要と考えられます。
出典:月刊薬事 2022年2月臨時増刊号(Vol.64 No.3)「救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方」
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最終更新日2022年6月4日
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