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オグサワ処方がオーグメンチンとサワシリンを併用する理由
呼吸器内科から、次のような処方箋が来ました。
オーグメンチンSR配合錠250 3錠
サワシリンカプセル250mg 3カプセル
分3出典: twitter.com
2種類の抗生物質、オーグメンチンとサワシリンが同時に処方されています。
これは、オグサワ処方と呼ばれ、「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」にも市中肺炎のエンピリックセラピー、すなわち起因菌や感受性が不明な段階で使用する治療薬として記載されています1)。
Ⅱ.肺炎(成人)
A)市中肺炎
1.Empiric therapy
a.細菌性肺炎(1)外来治療
細菌性肺炎では,Streptococcus pneumoniae,Haemophilus influenzae,Moraxella catarrhalis が主な原因微生物となる(II).これらは,基本的には高用量のペニシリン系薬の内服を中心として治療すべきである(AII).外来治療であれば,β―ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬を用いるのが一般的で,CVA/AMPCもしくはSBTPCを1回2錠,1日3~4回の内服治療が,有効性からも耐性菌抑制の観点からも推奨される(AII).
但し,現時点では,このような高用量処方が保険適応外のため,下記[例]のような処方も検討する.
―推奨される治療薬―
第一選択 ● CVA/AMPC経口(125mg/250mg)1回2錠・1日3~4回(添付文書最大4錠/日 )† ● SBTPC 経口(375mg)1回2錠・1日3~4回(添付文書最大3 錠/日 )†※CVA/AMPCおよびSBTPCについては,添付文書通りの投与法ではAMPCとしては最大1,000mg,ABPC としては最大750mgまでしか投与できないので,さらにAMPC経口薬の併用†も考慮する.
[例]CVA/AMPC経口(125mg/250mg)1回1錠・1日3回†+AMPC経口(250mg)1回1錠・1日3回†
†印は日本における保険適応外(感染症名,投与量,菌種を含む)を示す.
保険適応外で、敢えて2種類の抗生物質を使用していることが分かりました。ですが、耐性菌の件は、このガイドラインを読むだけでは十分には理解できず、補足が必要です。
わたしたちと、オグサワ処方について、学びませんか?
市中肺炎の治療方針と、オグサワ処方の意義が分かるようになります。
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☑️肺炎の治療薬について
市中感染の細菌性肺炎でカバーすべき菌は?
市中感染の細菌性肺炎の起因菌として肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが多い事は、「レジデントのための感染症診療マニュアル」や、「抗菌薬の考え方、使い方」に書かれている通りです。
エンピリックセラピーでは上述の3種類の細菌をカバーすればよいことになります。
エンピリックセラピーって何?
培養をすれば、起因となっている細菌の特定が出来たり、抗生物質に対する感受性も分かるのですが、結果が出るまで時間がかかります。治療はすぐに開始しなければいけません。
初期治療は、エンピリックセラピー(経験的治療)と称して、起因菌を予測し、それら全ての細菌と感受性をカバーした薬を処方することになります。
☑️オグサワ処方の意義
オーグメンチンとサワシリンの組み合わせがオグサワ処方、肺炎の外来治療にガイドラインでも推奨
オグサワ処方は、細菌性肺炎の外来で使用されます。日本感染症学会、日本化学療法学会の合同ガイドラインでも、細菌性肺炎の第一選択として言及されています1)。
オグサワを第一選択とする、薬理学的・微生物学的な理由について、見て行きましょう。
サワシリン、オーグメンチンの成分(一般名)
サワシリンはアモキシシリン(AMPC)と言うペニシリン系抗生物質で、オーグメンチンはアモキシシリンにクラブラン酸(CVA)が配合された抗生物質です。
クラブラン酸はβラクタマーゼ阻害剤で、モラクセラと耐性インフルエンザ菌対策
クラブラン酸は、ペニシリンを壊すβラクタマーゼと言う酵素を阻害する薬です。細菌の中には、βラクタマーゼをつくり、ペニシリンを無効にする菌がいるのです。
いわゆる耐性菌です。
βラクタマーゼ阻害剤と呼ばれるクラブラン酸を配合することで、ペニシリンを壊されないようにする必要があります。
肺炎の場合、インフルエンザ菌が、このタイプの耐性菌として問題になります。
補足すると、モラクセラもβラクタマーゼをつくるので、クラブラン酸が必要です。
ペニシリンを被らせる理由
ペニシリンを被らせるのは、理由が2つ考えられます。
①保険適応されるより高用量でペニシリンを使いたいので、2種類を組み合わせて処方した。
②オーグメンチンを倍量で使用すると、下痢の原因になるクラブラン酸の量が多くなりすぎるので、サワシリンを組み合わせて処方した。
何故ペニシリンを高用量で使用したいのでしょう?
ペニシリンを高用量にしたいのは耐性肺炎球菌対策
ペニシリンを高用量で使いたい理由は、ペニシリンが結合する細菌由来のたんぱく質が、変異を起こしていて、通常用量より多くしなければ結合しない場合があるからです。
いわゆる耐性菌です。
肺炎の場合は、肺炎球菌が、このタイプの耐性菌になります。
☑️まとめ
オグサワは、耐性肺炎球菌、耐性インフルエンザ菌、モラクセラまでをカバー
ここまで見てきたように、オグサワ処方は、ペニシリン耐性肺炎球菌、βラクタマーゼ産生インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスをカバーする処方です。
起因菌が分からない段階でも、細菌性肺炎の初期対応として妥当性があると考えます。
オグサワ処方が、市中感染した細菌性肺炎の第一選択に挙げられる理由が分かって頂けたと思います。
みなさんの業務の参考になりましたら、幸いです。
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最終更新日:2020年2月14日
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☑️参考文献
1)JAID/JSC感染症治療ガイド2019 / Jaid/Jsc感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員
2)レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木真
3)抗菌薬の考え方、使い方Ver.4 魔弾よ、ふたたび・・・ [ 岩田健太郎 ]
☑️推奨図書
薬局薬剤師としては、処方意図を理解し、患者さんに説明する責任がありますので、普段から病気と治療薬の知識をストックしていく必要があります。
お勧めの書籍を3冊紹介します。わたしも3冊とも持っています。
「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」
感染症に関しては、参考にした「JAID/JSC感染症治療ガイド2019」が、簡潔にして網羅的に書かれています。
辞書として白衣のポケットに入れて起きたい一冊です。
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「レジデントのための感染症診療マニュアル」
耐性菌等、より深く学習したい方には、青木眞先生の「レジデントのための感染症診療マニュアル」がお勧めです。
疑問があって頁をめくると、大抵答えが見つかります。
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「抗菌薬の考え方、使い方」
本を読んでいると眠たくなる方には、岩田健太郎先生の「抗菌薬の考え方、使い方」がお勧めです。
軽妙な語り口で、抗菌薬の網羅的な知識が身に付きます。オグサワと言う呼び方も、岩田先生のこの本で知りました。抗菌薬の事が右も左も分からなかったわたしを、大分救ってくれた本です。
勉強しよう、でも何から手をつけたらよいか分からない、という人にお勧めです。
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