マダニに噛まれ(刺され)た後、ミノサイクリンが処方される理由は、リケッチアに感染して発症する日本紅斑熱の治療のため。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)には無効。

マダニに噛まれた(刺された)場合の話

ミノサイクリン100mg 1回1錠 1日2回 7日分

大学病院の皮膚科からこんな処方箋が来ました。テトラサイクリンが選択されているのを考えると、特殊な感染症と思われます。

患者さんに聞くと、山野に入る機会があり、マダニに噛まれたらしいとの事でした。

マダニに噛まれた場合の抗生物質は、何を目的にしたものなのでしょうか。

今回の記事を読めば、マダニ咬傷に対する抗生物質の意味について理解出来るようになります。

1 マダニについて

1-1 病気を媒介するマダニがいる

日本国内では、キチマダニ(学名 Haemaphysalis flava)、フタトゲチマダニ(学名 H. longicornis)、ヤマトマダニ(学名 Ixodes ovatus) などがヒトへの嗜好性が強く、後述する細菌である日本紅斑熱リケッチアが検出されていますので、病気を媒介する事があります。

1-2 生息地、分布について

マダニ感染症の原因となる、代表的なフタトゲチマダニは、日本全国の山野に生息しています。

2 リケッチア症について

リケッチア症とは、細胞内でしか増殖できない偏性細胞内寄生細菌の一種・リケッチアを原因とする感染症です。

日本国内ではマダニが媒介する日本紅斑熱と、ツツガムシの幼虫が媒介するツツガムシ病が知られています。

2-1 日本紅斑熱について

日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチア(学名Rickettsia japonica )が起因菌になります。マダニに噛まれて感染が成立後、潜伏期 2~8日で発症します。

2-1-1 症状について

発熱、皮疹、倦怠感、頭痛、全身痛などの非特異的な症状で受診することが多いです。

日本紅斑熱の場合、皮疹は四肢優位となります。一方、ツツガムシ病は体幹優位となります。

2-1-2 季節・地域について

発生時期は4-10月。日本紅斑熱は冬を除き、年間を通して発生が続きます。

日本紅斑熱は、1984年に徳島県で初めての患者が報告され、その後西日本を中心に発生が見られるようになり、年々発生地域が拡大しています。

特に患者発生が多いのは、三重県、和歌山県、広島県、鹿児島県です。年平均10 名以上の患者が報告されています。

2-1-3 検査について

診断はペア血清の抗体検査で行います。1回目(急性期)から、約2週間後に2回目(回復期)のペア血清をとります。

IgMの有意な上昇(≧40倍)か、急性期と回復期のペア血清で、IgGが4倍以上の上昇を認める時に、確定診断とします。

2-1-4 死亡確率について

治療が遅れた患者などでは播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こし致死率が高くなります。

国立感染症研究所の2007~2016年の調査では、致死率は0.91%と報告されています。

2-1-5 人から人にうつることはない

日本紅斑熱のヒトーヒト感染は確認されていません。

2-1-6 治療(抗菌薬・抗生物質)について

治療の遅れが重症化につながるので、臨床的に疑う場合は、検査結果を待たずに治療を開始します。第1選択薬はテトラサイクリン系抗菌薬です。

ミノサイクリン100mg 1回1錠 1日2回、またはドキシサイクリン 100mg 1回1錠 1日2回を服用します。

大半の症例では、治療開始後2-3日で速やかに解熱し、症状が改善します。

症状や検査所見が軽快しても、再燃を防ぐため 7~10日間は投与を続ける必要があります。

2-1-7 治療(抗菌薬・抗生物質)についての補足。重症熱性血小板減少症候群の原因となる、SFTSウィルスには効かない

なお、ミノサイクリンは抗生物質ですので、リケッチアと同様にマダニから感染するSFTSウィルスには無効です。

SFTSウィルス感染は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因となります。

治療には、抗ウィルス剤が検討されていますが、中国の報告からリバビリンに効果はないと考えられています。

ファビピラビル(商品名:アビガン)は動物実験で治療効果があることが示されていますが、現時点ではSFTS患者に対する治療効果は証明されていません。

SFTSの致死率は6-30%に昇ると報告されています。さらに、血液を介してヒトーヒト感染する事が分かっています。

対症療法のみで特効薬が無いため、マダニに噛まれない予防が重要です。

3 予防(ディートのスプレー含む)について

予防には、マダニに刺されないようにすることが最も重要です。流行時期に流行地に行かないことです。

やむを得ず行く場合には、長袖長ズボンなどダニに刺されない服装をすることや地面に直接座らないようにしましょう。

ディートやイカリジンを成分とするダニ忌避剤も一定の効果があるとされています。

ディートは医薬品に区分される濃度12%以上のものがお勧めです。

12%と30%では忌避効果に差はなく、持続時間の差となります。前者で6時間、後者で8時間とされます。

本格的なアウトドアを楽しみたい場合には、最大濃度の30%をお勧めします。

4 まとめ

マダニはリケッチアを保菌するため、咬まれた場合、日本紅斑熱を発症する事がある事が分かりました。

そして、検査には時間がかかるため、山野に入った等、疑わしい場合は、確定診断を待たずに適切な抗生物質で治療を受ける事が重要と分かりました。

体調不良があり、山野に入ってマダニに噛まれた可能性がある場合は、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。

参考文献

亀田感染症ガイドライン リケッチア感染症 version 2
ラジオNIKKEI 感染症TODAY つつが虫病と日本紅斑熱
厚生労働省 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A

ディートについて

厚生労働省が推奨している虫よけ剤の成分は、ディート(DEET)、ユーカリ油(レモンユーカリ油)、ピカリジンの3つです(ピカリジンは日本未発売)。

これらは、アメリカ疾病対策センター(CDC)による科学的検証により有効性が証明され、皮膚や衣服に使用することをアメリカ環境保護庁(EPA)により認可された成分です。

概して、有効成分の濃度が高いほど、効果が長く持続します。ただし、ユーカリ油のような植物精油は、効き目が弱いと考える専門家も存在し、ディート成分が有効とされています。

いずれの製品も、必ず添付されている説明書の注意書きに従って使ってください。また小児に虫よけ剤を使う場合は、大人がつけるようにしましょう。

ディートの使用に際しては、アメリカ疾病予防管理センター (CDC) では、次のことを推奨しています。

・飲んだり吸入したりしないよう注意が必要。
・特に乳幼児に対し使用する場合は手のひら、顔(特に目、口)を避ける。
・乳児は、大人の手のひらで薄く延ばし、これを塗る。
・子供同士で虫よけ剤を塗ったり、スプレーしたりさせない。
・衣服へ塗る場合、内側(皮膚に直接触れる部分)へ塗布しない。
・長時間塗ったままにしない。子供で約4時間、大人で約8時間程度を目安とする。さらに長時間の使用が考えられる場合は、濃度の低いものを使用するか、薄く塗る方法をとる。
・帰宅後など、昆虫に接触する機会から離れた場合は、速やかに石鹸などを使い、洗い落とす。
・虫よけ剤は、子供の手の届かないところへ保管する。
・夏場など、日焼け止めと併用する場合は、日焼け止めを最初に塗り、その上に虫よけ剤を塗る。

ディートの濃度5%では約90分、10%で2時間、30%で8時間、100%では10時間虫よけ効果が持続します。

従って濃度の低いものは、繰り返し塗る必要があります。

日本で製剤中のディート濃度は、第二類医薬品が12%、防除用医薬部外品では10%以下となっていました。

厚生労働省は2016年(平成28年)6月15日に、濃度30%まで高めた虫よけ製品の製造販売の申請があった場合、早期審査の対象にすると通知し、高濃度虫よけ剤の流通を促しています。

濃度30%製品は、ネット通販でも入手する事が出来ます。夏休みに山野に入る場合は使用をお勧めします。

使用するのが小さなお子さんなら、天然素材のレモンユーカリを使用した虫除けもあります。

関連記事

マダニに噛まれた場合、重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)を発症するリスクがあります。特効薬はなく、致死率6-30%。ディート等のダニ忌避剤を使用しましょう。

ペットの犬・猫に嚙まれたら病院に行かないといけない。


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