ピロリ菌除菌の薬を飲む人が、他に飲んでいる薬を頓服も含めて全て病院と薬局で伝えたほうがよい、たったひとつの理由。

みなさんの中には、ご家族がピロリ菌の除菌を受けようと考えている方がいらっしゃるかも知れません。ピロリ菌除菌療法は、早期胃癌の方が内視鏡手術後に行うことで、胃癌の再発を抑制した、と言うエビデンスがあります1)。

治療については詳しいリーフレットが用意されていて、わたしの薬局にも常備されています。

手にとって見ると、除菌のリスク・ベネフィットや、除菌の成功率などについて、かなり詳しく書かれているのですが、薬剤師の視点からは重要なのに書いてない、と思うことがあります。

それは、薬の飲み合わせです。今日はピロリ菌除菌の薬の飲み合わせについてお話しようと思います。

ピロリ菌1次除菌のレジメンでは、胃酸分泌抑制薬+ペニシリン系抗生物質+マクロライド系抗生物質の組み合わせを、朝・夕食後に1週間飲んで頂きます。

このうち、マクロライド系抗生物質のクラリスロマイシン(商品名クラリス/クラリシッド)が、飲み合わせに注意が必要な薬です。

クラリスロマイシンは肝臓の酵素である「CYP3A4(シップスリーエーフォー)」で代謝されます。

その際に一部の代謝中間体がCYP3A4と結合して離れなくなり、CYP3A4が酵素として働かなくなってしまいます。結果、この酵素で代謝される全ての薬の体内濃度が高くなってしまいます。

この現象を「酵素が阻害(そがい)される」と言います。酵素阻害はクラリスロマイシンを飲み始めてから3、4日でピークに達し、飲み終わってからも3、4日は続きます。

クラリスロマイシンの阻害作用は、用量依存性があります。つまり、1日に飲む量が多い程、阻害作用が強くなります2)。

クラリスロマイシンは副鼻腔炎などの治療では1日量400mgですが、ピロリ菌除菌療法では、1日量400mgまたは800mgを服用します。800mgのレジメンで、より併用のリスクが高くなると考えられます。

ピロリ菌の除菌レジメンとは飲み合わせの悪い薬の代表として、シンバスタチンを例にとってみましょう。シンバスタチンはコレステロールの薬です。

ほぼ100%肝臓のCYP3A4で代謝されるので、クラリスロマイシンの影響を強く受けます。また、体内濃度が高くなると、横紋筋融解症と言う重篤な副作用を起こすリスクが高くなるので、飲み合わせに特に注意が必要です。

PISCS(ピスクス)と言う理論を用いる事で、仮にクラリスロマイシンとCYP3A4で代謝される薬を一緒に飲んだ場合、どれくらい体内濃度が高くなるのか、予測することが出来ます。

シンバスタチンを服用中に、クラリスロマイシン(1日量500~1,000mg)を服用した場合、AUC(エーユーシー、生体が利用できる薬の総量)が8.33倍と推定されました。

これは、シンバスタチン8倍量を飲んだような状況です。実際に、2剤を併用した結果、シンバスタチンのAUCが11.9倍になったと言う報告があります3)。

そして、実際にこの飲みあわせで横紋筋融解症を起こし、入院に至ったという症例が、複数報告されています4-8)。

リスクを回避するための取り組みが、日々の業務で行われています。シンバスタチンまたは類薬のアトルバスタチンとCYP3A4阻害剤の併用処方に関連するリスクについて、地域の薬剤師から知らされた時に、10人の医師のうち9人が処方を変更、または起こりうる副作用をモニターしました9)。

過去の報告から、一般に2種類以上の薬を処方されている患者の60%に、飲み合わせに問題がある可能性があるとされます10)。そして薬による副作用は、入院に至る原因の6.5%を占めていて、そのうちの17%は薬の飲み合わせが原因でした11)。

ですから、皆さんは薬局で必ずお薬手帳を作って下さい。そして病院と薬局の両方で提出し、薬の飲み合わせについてダブルチェックを受けて下さい。

使い方を誤れば諸刃の刃となる薬を、安全に、そして効果的に使用するための必須のツールとなるはずです。

参考文献

1)Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial. Lancet. 2008 Aug 2;372(9636):392-7. doi: 10.1016/S0140-6736(08)61159-9.

2)Dose-dependent inhibition of CYP3A activity by clarithromycin during Helicobactre pylori eradication therapy assessed by changes in plasma lansoprazole levels and partial cortisol clearance to 6β-hydroxycortisol Clin Pharmacol Ther. 72. 33-43 (2002)

3)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの理論と実践  大野能之・樋坂章博 編著 じほう

4)Wagner J, Suessmair C, Pfister HW. Rhabdomyolysis caused by co-medication with simvastatin and clarithromycin. J Neurol. 2009;256(7):1182–1183. [PubMed]

5)Molden E, Andersson KS, Jacobsen D. Interactions between statins and macrolide antibiotics. [Article in Norwegian] Tidsskr Nor Laegeforen. 2007;127(12):1660–1661. [PubMed]

6)Kahri AJ, Valkonen MM, Vuoristo MK, Pentikainen PJ (2004) Rhabdomyolysis associated with concomitant use of simvastatin and clarithromycin. Ann Pharmacother 38:719 [PubMed][Google Scholar]

7)Lee AJ, Maddix DS (2001) Rhabdomyolysis secondary to a drug interaction between simvastatin and clarithromycin. Ann Pharmacother 35:26–31[PubMed][CrossRef][Google Scholar]

8)Molden E, Andersson KS (2007) Simvastatin-associated rhabdomyolysis after coadministration of macrolide antibiotics in two patients. Pharmacotherapy 27:603–607[PubMed] [CrossRef] [Google Scholar]

9) Molden E, Skovlund E, Braathen P. Risk management of simvastatin or atorvastatin interactions with CYP3A4 inhibitors. Drug Saf. 2008;31(7):587–596. [PubMed]

10)Potential drug-drug interactions in the medication of medical patients at hospital discharge.
Egger SS, et al. Eur J Clin Pharmacol 58, 773-8 (2003)

11)Adverse drug reactions as cause of admission to hospital: prospective analysis of 18 820 patients. Pirmohamed M, et al. BMJ 329, 15-9 (2004)

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