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べプリジルの洞調律維持効果は他のI群より劣り、突然死のリスクが高い可能性がある。
☑️はじめに
J-BAF試験は医師主導で行われた臨床試験です。
それまで国内で経験的に行われたぺプリジル少量投与による持続性心房細動を洞調律に戻す効果を検証したものです。
試験の結果、用量依存的に洞調律に戻す効果が確認されました。
しかし心房細動の再発は多く、洞調律を維持できたのは少数でした。
さらに催不整脈効果があり、試験中に1例の突然死がありました。
適応追加されましたが、試験に携わった医師からは、新規に持続性心房細動の治療としてべプリジルを処方しないと言わしめています。
これはCAST試験に匹敵するインパクトのある論文と思います。
プロローグ
👨⚕️💭
👩🎓どうしたの?👨⚕️ベプリジル服用の方の薬歴見直してたら、一度動悸が無くなってもAF再発が多いような…
👩🎓鋭い
J-BAFの時点で100mg/日で同調律が3ヵ月維持出来たのは8%と分かっていました
効果は用量依存ですが、200mg/日では1%以上で突然死のリスクが
👨⚕️諸刃と言うには…
出典: twitter.com
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☑️イオンチャンネルと心電図による心房細動治療の仮説
まず、従来の心房細動治療の仮説について確認していきます。
成書の記述も、より知識があれば深く理解できるようになります。
☑️持続性心房細動や基礎疾患を伴う心房細動について
まず、持続性心房細動について、成書の記述を見てみましょう。
Naチャンネル遮断薬が効果がでづらくなる理由、Kチャンネル遮断薬が効果が出る理由について、次のように説明しています。
心房細動の持続により心房筋のリモデリングが進行し、心房細動が持続しやすくかつ除細動効果を示しにくくなる。
また、器質性心疾患のある症例では心房の繊維化が進行するため、随所で心房のリエントリーが形成される。このため特定部位の伝導途絶を起こすナトリウムチャンネル遮断薬よりも、機能的リエントリー形成を困難とするカリウムチャンネル遮断薬(III群)であるアミオダロンやソタコールと、カルシウムチャンネル遮断薬(IV群)であるべプリジルが有効である。
わが国の持続性心房細動への保険適応はべプリジルと、心不全ないし心肥大型心筋症に対するアミオダロンしか認められていない点に留意する。
引用文献:「慢性疾患治療薬の使い分けと患者モニタリング」 じほう 2020年
☑️カリウムチャンネル阻害薬について
選択肢は3つあるものの、主としてアミオダロンを使用すると説明されています。
べプリジルについても触れてありますが、副作用が多く使いづらい印象があります。
主にアミオダロンが用いられる。(中略)
血清カリウム値の低下により催不整脈作用が増強する恐れがあるため注意する。(中略)
べプリジルはVaughan Williams分類ではIV群(カルシウムチャンネル遮断薬)に分類されるが、カリウムチャンネルを含む多チャンネル遮断作用を有し、7日以上の持続性心房細動や頻脈性不整脈(心室性)に適応をもっている。
アミオダロンと同様に、過度のQT延長や間質性肺炎、血清カリウム低下に注意が必要である。
引用文献:「慢性疾患治療薬の使い分けと患者モニタリング」 じほう 2020年
☑️イオンチャンネルリモデリングと発作性心房細動から慢性心房細動への移行
ガイドラインにあるべプリジルの適応が7日以上持続の心房細動の根拠を探してみました。
基礎研究ですが、イヌ心房高頻度刺激モデルにおいてNaチャンネル電流は7日後に有意に減少したとあります。
心房細動におけるイオンチャネルリモデリングの亜急性効果は、発作性心房細動から慢性心房細動に移行する過程での最も重要な時期に相当する変化である。(中略)
カルシウムチャネル以外の内向き電流系イオンチャネルとしてナトリウムチャネルがあげられるが、このチャネル電流密度もイヌ心房高頻度刺激モデルで減少することが報告されている。時闘経過はL型カルシウムチャネル電流の減少よりやや遅れ、刺激後7日目より有意に減少し、42日目には刺激前の約50%まで進行性減少することが報告されている。
不整脈発現がもたらすチャネルのリモデリング ―心房細動を例として―
心臓Vol.30No.11 (1998)
☑️心房筋のリモデリングとリエントリー回路の形成について
抄録
心房細動(AF)が持続すると、AFの発症と持続はさらに容易になる。
この病態は、「Atrial fibrillation begets atrial fibrillation」という言葉で理解される。
AFの持続によって心房筋細胞の電位依存性Na+チャネル、L型Ca2+チャネルおよびItoチャネルの発現が減少し、IK1チャネルの発現が増加する。これをAFに伴うイオンチャネルのリモデリングという。
その結果、心房筋細胞の活動電位持続時間は短縮し、不応期も短くなる。AFによる頻拍は、心房筋細胞内のCa2+濃度の上昇を伴う。
細胞内のCa2+過負荷は、短期的にはtriggered activityによる異常自動能の亢進を惹起するとともに、長期的にはカルモジュリンキナーゼの活性の上昇や転写因子NFATを介した病的遺伝子プログラムの作用によって、イオンチャネルの発現が制御される。
一方、心房筋は線維化されて、心房筋組織ではリエントリー回路の形成が促進される。
これを心房筋の構造的リモデリングという。
心房筋のリモデリングの立場から
☑️J-BAF研究について
ここからは臨床研究を紹介します。
J-BAFは、持続性心房細動に対するベプリジルの心房細動停止効果を3カ月の観察期間の二重盲検ランダム化試験で検討した研究です。
ベプリジル100mg/日で約35%、200mg/日で約70%の心房細動停止効果を示したのですが、以下の2つの新しい事実も浮かび上がりました。
・心房細動停止後の再発率が極めて高い。
・200mg/日投与群29例中1例に、約1カ月後、心室頻拍による突然死を生じた。
催不整脈作用があるべプリジルは、突然死リスクがあることが分かりました。
心房細動の再発率も高く、心房細動の再発を認めなかった症例は、3か月後の試験終了時に100mg群で8%、200mg群で21%に過ぎません。
リスクに見合った治療効果があると言えるか疑問です。
J-BAF
J-BAF
☑️J-RHYTHM研究サブ解析について
べプリジルは持続性心房細動の治療に用いたとして、一度洞調律に戻っても再発の多いことが分かりました。
百歩譲って、持続性心房細動が発作性心房細動になったことを効果と認めたとします。
しかしその後の発作性心房細動に対してべプリジルが有効かどうかを知っておかなければなりません。
この研究はJ-RHYTHM研究のpost-hoc分析で、抗不整脈薬別に外来での洞調律維持率を調査したものですが、予想外の事実が判明しました。
・ベプリジルの洞調律維持効果は、ほかのI群薬の効果に比べ有意に劣る可能性が示唆された。
・この研究でもベプリジル投与28例中1例という高い頻度で早期死亡が観察された。
J-RHYTHMサブ分析
☑️まとめ
基礎研究による仮説は臨床研究によって検証されなければなりません。
べプリジルは持続性心房細動を一時的に洞調律に戻す効果がありますが、催不整脈作用から突然死リスクが他薬より高いことが分かりました。
心房細動の治療として諸刃の刃であることを自覚しなくてはいけません。
ここでJ-BAF試験に携わった山下医師の言葉を引いて、結語とします。
多くの専門医が多施設で前向きに検討したこれら2つの研究(引用注:J-BAF試験、J-RHYTHM研究)が教えてくれていること、それはこれまでの単一施設における観察研究とは異なるもので、学ぶ点が多いと思います(私自身は、だからこそ医療行為を変えたのです)。「多種類のイオンチャネルを抑制することによって他薬とは異なる効果が発揮されているに違いない」という希望的観測を抱かれ続けたベプリジルでしたが、その薬物の真実がこの2つの研究結果に現れています。
ちなみに約30例に1例の早期死亡が観察されるという事態が続発していますが、ベプリジルによる早期死亡率を1%と仮定した場合にこのような現象が二度続く確率はわずか6%しかありませんので、もう少し高い発生率と見積もるべきなのでしょう。
イオンチャネルの発現・機能がそもそもダイナミックな変化を示すこと、そしてこのダイナミックな変化が生命を維持するために必須であり、同時にこの分子が全身の臓器に配備されていることを知っていると、イオンチャネル修飾物質、いわゆる狭義の抗不整脈薬には予想できない患者アウトカムを引き起こしてしまう可能性があることはもっともなことなのです。ベプリジルの持つ致命的な副作用は、「イオンチャネルレベルでものを語る」ことが極めて狭い土俵にすぎないこと教えてくれています。
前回も述べたように、時代は既にイオンチャネルや心電図所見ではなく、患者アウトカムそのものに照準を合わせるものとなっています。私たちは、古い時代を総括した上で、新しい視点を持ちながら今後の心房細動診療の進歩に備えなければならないと思います。
山下武志の心房細動塾 第25回 抗不整脈薬ベプリジルについて考える
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最終更新日2021年11月6日
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