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蓄積率とritschel理論で反復投与時の最高血中濃度を予測する。
☑️はじめに
薬剤師あるあるの臨床疑問です。血中濃度が上がるのは予想出来るけど、でも何倍?だれかタスケテ…
疑義照会や処方提案も、具体的な数値を示しながらだと、成る程と思ってもらえるはず。
薬剤師ならマスターしたい蓄積率。反復投与して定常状態になったときの最高血中濃度を予想出来るようになります✨
クラビット®️(レボフロキサシン)を例に取り上げました✨
それでは見て行きましょう✨
プロローグ
👧透析の方にクラビット500mgが1日1回で処方されましたよ~🦋
🐗クラビットは腎排泄型だろ⁉️透析で抜けるのか⁉️
👧週3回透析の平均クリアランスは10mL/分ですね~どうします?🦋🐗疑義照会に決まってるじゃねぇか💢💢
🐗クラビット減量にならなきゃ、調剤しねぇぞ‼️🐗安全性と効果は検証出来るのか⁉️
👧減量しなければ最高血中濃度は蓄積率から2.6倍…
👧中枢性SEのリスクになりますね🦋
👧MIC1ug/mLであれば減量で効果が期待出来ますよ🦋👧薬剤師なら知ってて当然ですけど。知らないならしょうがない😊
🐗今すぐ読んでやるぜ💢💢出典: twitter.com
☑️Ritschel理論、半減期と投与間隔の持つ意味
薬が体から無くなるより早い間隔で薬を飲めば、体内濃度が高くなるのは直感的に分かると思います。
ある薬物を反復投与した場合、投与間隔(τ)を半減期(t1/2)で割ったものが3以下であれば、半減期の5倍の時間で定常状態に達します。
これをRitschel理論と言います。
τ/ t1/2≦ 3
τ : 投与間隔 t1/2 : 半減期
☑️薬学分野の蓄積率とは?公式で求められる、定常状態の最高血中濃度を予測する係数
この時、蓄積率(R)を使用すると、薬物の定常状態における最高血中濃度(Css.max)を簡便に計算することが出来ます。
R=1 / (1-exp (-kel・τ) )
=1 / (1-exp (-0.693 τ/ t1/2) )
Css.max=R・Cmax
kel : 消失速度定数
詳しくは次に掲げる論文を参照下さい。
灘井 雅行 薬物動態の基礎と薬物投与設計への応用 日児腎誌 Vol.19 No.2 111-123
公式を書きましたが、暗記する必要はありません。後で掲げる表を見れば、計算すら不要になります。
後、蓄積率の適応にあたって幾つか留意すべき事があります。
蓄積率の適応にあたって留意すること ①体格の補正
Cmaxが外国人のデータである場合、体格を補正する必要があります。おそらく体重は日本人より大きく、元データの分布容積が大きいので、そのままでは血中濃度を実際より小さく評価する可能性があります。
Cmax=F・S・D / Vd
F : バイオアベイラビリティ S : 塩係数 D : 投与量 Vd : 分布容積
蓄積率の適応にあたって留意すること ②半減期の補正
薬物が腎排泄型で、患者の腎機能が低下している場合、元データに比して半減期が延長している、全身クリアランスが小さくなっているので、そのままでは患者の血中濃度を実際より小さく評価する可能性があります。腎機能に応じた半減期を文献検索すべきです。
CLtot= kel・Vd= 0.693Vd / t1/2
☑️蓄積率は、具体的な薬物動態の求め方ではなく、通常の何倍になるかを求める方法
①②で見てきたように、蓄積率はざっくりした予想です。具体的な血中濃度を予測するよりは、半減期が延長している場合に、定常状態の最高血中濃度が通常の何倍になるか、と言う観点で使用するのが良いです。
☑️実例:表を用いて簡便に最高血中濃度を推定してみる
お待たせしました。いよいよτ/ t1/2と蓄積率の関係を計算した表を利用して、簡便に最高血中濃度を推定してみましょう。
パラメーターは投与間隔と半減期の2つだけです。投与間隔を半減期で割った数値に対応する蓄積率が、次の表から得られます。
τ/ t1/2 | ≧4 | 3.0 | 2.0 | 1.5 | 1.0 | 0.8 | 0.7 |
蓄積率R | 1.0 | 1.1 | 1.3 | 1.5 | 2.0 | 2.4 | 2.6 |
☑️レボフロキサシン(商品名クラビット)は、腎機能が低下して半減期が延長すると、定常状態の最高血中濃度は何倍になる?
レボフロキサシンは添付文書を参照すると、腎機能正常であれば半減期9.17時間ですが、中等度低下で15.88時間に、高度低下で33.67時間に延長しています。
クラビット錠500mg 添付文書
国内においてクレアチニン・クリアランス値(Ccr)により群分けし、レボフロキサシン500mgを空腹時単回経口投与した場合、腎機能の低下に伴い血漿中濃度の生物学的半減期の延長、尿中濃度の低下及び尿中排泄率の低下が認められた。
腎機能に応じた減量基準に従わず、常用量500mgを24時間おきに投与した場合、τ/ t1/2は、各々2.6、1.51、0.71なので、蓄積率Rは、各々1.1~1.3、1.5、2.6と推定され、定常状態の最高血中濃度は、単回投与時のCmaxのR倍と予測されます。
☑️蓄積率と言う概念で、腎機能低下時のリスクを可視化出来る
レボフロキサシンの中枢神経系への副作用は用量依存性があるとIFに記載されていますから、蓄積率と言う概念を使用することにより、減量しない処方の有するリスクが可視化されると考えます。
クラビット錠500mg インタビューフォーム
腎機能低下患者(Ccr<50mL/min)において、添付文書に示されている用法・用量で調節した場合、用量依存的と考えられる中枢神経系副作用は認められなかったが、用法・用量を調節せず、500mg、1日1回連日投与されていた症例に、痙攣等の中枢神経系副作用が認められたことから、腎機能が低下している症例では添付文書の記載に従い、腎機能に応じて用法・用量を調節し投与すべきと考えられた。
☑️まとめ
蓄積率の求め方が分かって頂けたと思います。簡単なので、ぜひマスターして薬局の日常業務に取り入れましょう。
処方提案でもスムーズに行くかと思います。
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☑️参考文献
1)灘井 雅行 薬物動態の基礎と薬物投与設計への応用 日児腎誌 Vol.19 No.2 111-123
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☑️後書き
わたしが蓄積率を調べるきっかけとなる出来事がありました。
ある時、透析患者さんにクラビット®️500mgが連日で処方になりました。
一般に週3日、1日4時間の血液透析を行った場合の平均透析クリアランスは10mL/分程度です。
(参考「透析患者における薬物動態の考え方について教えてください」薬事 2017.10臨時増刊号(Vol.59 No.14) 168-172)
メーカーサイトではクレアチニンクリアランス20以下に準じた用法用量を推奨していたので、病院に疑義照会したのです。
第一三共ホームページ
クラビット経口剤の透析患者さんへの投与方法は確立されておりません。高度の腎機能障害のある患者さんは、高い血中濃度の持続が認められているため慎重に投与してください。
下記の用法・用量を目安として、必要に応じて投与量を減じ、投与間隔をあけて投与することが望ましいとしております。
20mL/min≦Ccr<50mL/minの患者には、初日500mgを1回、2日目以降250mgを1日に1回投与する。
Ccr<20mL/minの患者には、初日500mgを1回、3日目以降250mgを2日に1回投与する。
疑義照会の結果は「高い血中濃度を維持したいので処方通りでお願いします。」
高い血中濃度ってどれくらい高くなるんだろう?この疑問を解消するために得た知識が今回の記事になりました。
治療の有効性・安全性の兼ね合いはどうなのでしょう。治療失敗を避けるために敢えて減量しない選択をする場合もあると言う声も聞きます。
白鷺病院のデータベースを参照したところ、週3日の透析では、細菌MIC1μg/mL以下であれば、CCr20mL/分以下に準じた用法用量で十分なCmax/MIC比を得られる、との論文が引用されていました。
( Sowinski KM: Am J Kidney Dis 42: 342, 2003; PMID :12900817)
また、次のような報告もあります。
「血液透析患者への経口レボフロキサシンの至適投与法の検討」
第30回日本TDM学会学術大会 優秀論文賞受賞者からの寄稿「本研究より、HD症例に対してLVFXを初回500 mg、維持量250 mgをHD後に経口投与する方法は、有効性、耐性化防止、安全性において期待できる投与法であると示唆されました。」
出典: jstdm.umin.jp
“Levofloxacin-Associated Neurotoxicity in a Patient with a High Concentration of Levofloxacin in the Blood and Cerebrospinal Fluid”
Antibiotics (Basel). 2019 Jun;8(2):78.
Published online 2019 Jun 12.
PMID: 31212864レボフロキサシンの血中濃度が15μg/mLを超えて数日間存在することが、レボフロキサシンによる神経毒性の発現に関係しているのではないかと考えられた。
添付文書から、レボフロキサシン500mgを健康成人に単回投与した時の最高血中濃度は8μg/mLです。
症例報告も参考になります。
全日本民医連
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
副作用モニター情報
〈342〉クラビット®高用量1回服用の副作用
〈298〉クラビット錠®高齢者に多い中枢神経系副作用
〈212〉タリビッドおよびクラビット投与時の投与量チェック
薬剤師の介入の経済評価を行った研究もあります。
腎機能低下患者におけるレボフロキサシン調剤時の処方提案に対する経済評価
薬学雑誌
2013年 133巻 11号 p.1223-1233
もちろん診断は医師にしか出来ないので、患者固有のリスクベネフィットを天秤にかけて最終的に判断するのは医師です。
しかし薬剤師にも処方設計のサポートが出来ると思います。
「半減期の延長により蓄積性が生じます。中等度低下であれば1.5倍程度にとどまりますが、高度低下では7日間の反復投与により最高血中濃度は2.6倍に上昇します。」
「中枢神経系SEは用量依存的に発生すると考えられています。単回投与では8μg/mLの最高血中濃度ですが、連続投与により15μg/mLを超える血中濃度が数日間続くと中枢系の副作用が惹起される可能性があります。」
「MIC1μg/mL以下であれば、CCr20mL/分以下に準じた用法用量で十分なCmax/MIC比を得られるとの報告もあります。」
このような情報提供は、より洗練された薬物療法の実施に繋がるのではないか、とわたしは考えます。
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最終更新日:2021年1月31日
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