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要点:シンバスタチンを高用量で服用している小柄な女性は、クラリスロマイシン800mg/dayを含むピロリ菌除菌レジメンで横紋筋融解症を起こしやすい。
スタチンとマクロライドの相互作用は、CYP3A4を介する薬物代謝阻害作用と、OATPsを介する薬物トランスポーター阻害作用が知られていますが、今回は薬物代謝阻害作用の面から考察をします。
72,591人を対象としたカナダのコホート研究で、CYP3A4で代謝されるアトルバスタチン、シンバスタチン服用患者にエリスロマイシン、クラリスロマイシンを投与した、安全性の検討があります。アジスロマイシンと比較して、30日以内の横紋筋融解症による入院は絶対リスクで0.02%(95%CI;0.01-0.03)上昇しました。急性腎傷害は絶対リスクで1.26%(95%CI0.58-1.95%)、総死亡は絶対リスクで0.25%(95%CI0.17-0.33%)上昇しました1)。
この論文の結果を日本の臨床に応用することは可能でしょうか。外的妥当性の解釈を試みます。
まず、国内の添付文書上、アトルバスタチンはクラリスロマイシンと併用注意であり、併用により血漿中薬物濃度の有意な上昇(Cmax+55.9%、AUC+81.8%)が見られたと記載されています。エリスロマイシンは具体的な数値はありませんが、併用注意であり、危険因子-横紋筋融解症のと思われますが-、腎機能障害と記載されています。また、シンバスタチンは、添付文書上エリスロマイシン・クラリスロマシンと併用注意であり、具体的な数値はありませんが、急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症が現れやすい。腎障害のある患者には特に注意すること、と記載されています。
インタビューフォームを参照すると、アトルバスタチン:本剤10mgを1日1回、8日間経口投与し、その投与開始後6日目にクラリスロマイシン500mgを1日2回、3日間経口投与、併用による本剤の血漿中活性体濃度の上昇(Cmax:+55.9%、AUC0-Tlast:+81.8%)が認められた。相互作用発現機序として、クラリスロマイシンによる代謝阻害が示唆された。 また、エリスロマイシン500mgを1日4回、11日間経口投与し、その投与開始後8日目に本剤10mgを1日1回、4日間経口投与結果:併用による本剤の血漿中HMG-CoA還元酵素阻害活性体濃度の上昇(Cmax:+37.9%、AUC0-∞:+32.5%)が認められた。相互作用発現機序として、エリスロマイシンによる代謝阻害が示唆された、とあります。
同様にシンバスタチンは1.5g/日のエリスロマイシンまたはプラセボを2日間投与し、2日目に40mg/日のシンバスタチンを経口投与した後の血清中のシンバスタチン、シンバスタチンのオープンアシド体、エリスロマイシンの濃度を24時間後まで測定した。エリスロマイシンは、シンバスタチンの最高血清濃度(Cmax)を3.4倍上昇させ、0~24時間後までの血清シンバスタチンのAUC(0~24)を6.2倍増大させた。エリスロマイシンはシンバスタチンのオープンアシド体のCmaxを5倍上昇させ、AUC(0~24)を3.9倍増大させた、とあります。
また、PISCS理論からは、次のまとめ表が参考になります2)。
リポバス リピトール
CR(CYP3A4):1.00 CR(CYP3A4):0.68
クラリスロマイシン IR(CYP3A4):0.88 AUC11.9倍 AUC1.8~4.4倍 (実測値)
エリスロマイシン IR(CYP3A4):0.81 AUC6.2倍 AUC1.3倍 (実測値)
上述のコホート研究の結果を日本に外挿することは出来るかですが、注意が必要なのは、薬剤の用量です。
クラリスロマイシンの国内用量は400mg/dayですが、海外用量は1,000mg/dayです。クラリスロマイシンのCYP3A4阻害作用はMBIかつ用量依存性が指摘されていますので、通常の400mg/dayでの相互作用は相対的に少ないと考えられます。CAM400mg/day、800mg/day 1週間の投与により、内因性コルチゾールのクリアランスは各々30%、60%低下したと言う報告があります3)。CLtot=Dose/AUCと言う関係式から、AUCは各々1.43倍、2.5倍に上昇すると推定されます。
また、スタチンの用量にも注意が必要です。
シンバスタチンの国内用量は~20mg/dayですが、海外用量は~80mg/dayです。リポバスのインタビューフォームには、米国の添付文書が掲載されていて、「治療開始1年間は、横紋筋融解症を含むミオパチーのリスクが上昇するため、80mgの投与は、筋毒性の形跡がなく、慢性的(例えば、12ヶ月もしくは以上)に服用している患者に制限すること。すでに80mgを服用して禁忌もしくは、シンバスタチンの上限用量に関係している相互作用のある薬剤を服用する必要のある患者は、相互作用の可能性の少ないスタチン製剤に切り替えること。横紋筋融解症を含むミオパチーのリスクは、80mgの用量に関連して上昇するため、40mgでLDL-Cの目標達成できない患者には、80mgを投与するのではなく、LDL-C低下がより効果のあるその他のLDL-C低下薬を選択すること」とあります。
以上の知見から、スタチンとマクロライドの併用について考える場合、リスクは一様でなく、薬剤によって異なり、また使用する用量によっても異なります。患者背景によっても異なります。国内で遭遇する可能性がある処方で注意が必要なのは、シンバスタチンを10~20mgの用量で用い、腎機能が低下していて、体格が小柄であり、ピロリの除菌をクラリスロマイシン800mg/dayのレジメンで使用する場合、また感染症の治療にエリスロマイシン1,200mg/dayで使用する場合。これらは特にリスクが高く、注意が必要と考えられます。
参考文献
1)Statin toxicity from macrolide antibiotic coprescription: a population-based cohort study.PMID: 23778904
2)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの理論と実践 大野能之・樋坂章博 編著 じほう
3)”Dose-dependent inhibition of CYP3A activity by clarithromycin during Helicobactre pylori eradication therapy assessed by changes in plasma lansoprazole levels and partial cortisol clearance to 6β-hydroxycortisol”Clin Pharmacol Ther. 72. 33-43 (2002)
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