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スタチンを服用するかは、医療・社会・経済的視点が必要となる
☑️はじめに
以前、スタチン服用によるコストと、副作用リスクを具体化する方法について話しました。
今回はそれにも関わらず、スタチンを服用した方がいいのかと言う話をしようと思います。
リスクの大きさを考える手法が必要となります。
スタチンを服用するほどにリスクが大きいのか、と言う観点から始めて、最後に横紋筋融解症のリスクは大きいのか、と言う話で終わりたいと思います。
医学的にはどんなに低リスクでもCVD抑制効果ありますけど…
うん、これは医学的観点だけでは答えの出ない問題だと思う。医療経済の視点を得て、社会的に許容できるコストなのか、という考え方を学ぼう。
プロローグ
👧スタチンはCVDの1次予防効果も証明されているんですよね。
👧どんな低リスクでも飲んだ方がいいですか?
👩うん、2つの視点から言えることがある。
👩①医療経済分析して、社会的に許容できるコストであるか。
👩②副作用の発現頻度を考え、リスクベネフィットのバランスがとれているか。出典: twitter.com
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☑️リスクとは何か
まず、リスクについて少し説明しましょう。
リスクは不確実性を有します。木下らは、以下に示すような特性によるとしています。
①将来の出来事であることによる不確実性
②望ましくないと言う表現の価値依存性による不確実性
③結果の大きさの範囲および程度への依存による不確実性
④単一のリスクだけで評価出来ないことによる不確実性1)。
☑️リスク合意の形成
このようにリスクは不確実性を有します。
そのため、医療の場でリスクに対処する為には、リスク合意の形成が必要になると考えられます。
各学会から発表されるガイドラインがそれに当ると考えられます。
ただし、リスク合意には医学的視点だけでなく、社会・経済的視点も必要となって来ます。
近年、医療経済の考えが発達しつつあり、医療政策の意思決定にも採用されると思われます。
☑️医学的視点
まず、医学的視点から見てみましょう。
AMIの疫学調査
国内の疫学調査で、急性心筋梗塞(AMI)予測発症率が調査されています。
リスクに応じたグループ分けをした場合、0.60~64.2/10,000人年と報告されています。
最もリスクの低いグループは、45歳の女性で危険因子のないグループです。
最もリスクの高いグループは、75歳で喫煙者、グレードIIの高血圧があり、糖尿病の既往のあるグループです2)。
AMIリスクは100倍の開きがある
その差は、実に100倍。
スタチンを飲むことで、5年間で1QALY(1人の不都合のない生活1年分)得するために必要なコストは、2011年の推計で、前者が3億2946万円、後者が1269万円と試算されています1)。
LDLは心筋梗塞のリスク因子のひとつであり、スタチンは再発または初発の心筋梗塞を集団として33%予防することが証明されています。
しかしながら、ベースラインでのリスクが小さければ、得られる利益は相対的に小さくなります。
果たして一律にスタチンで治療すべきでしょうか。
ガイドラインの推奨
国内のガイドラインを参照します。
再発予防は全例スタチン服用が推奨されています。
初発予防は基本は食事・運動療法ですが、リスクの高いグループに限り、スタチン服用が推奨されます。
ガイドラインではスクリーニングをすべき対象を次のように定めています。
吹田スコア脂質以外の点数54点以上(10年間の冠動脈疾患(CAD)発症率20%以上、すなわち200/10,000人年と成り得る)、または糖尿病・CKD・ASO既往者です。
発症率が上述の数値より大きくなっていますが、CADの定義により、急性心筋梗塞(AMI)のみならず、発症から24時間以内の心臓突然死、CAGB・血管形成術施行が含まれている為です。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン
☑費用対効果の視点
1QALYの上限値、最大支払い意志は、日本で600~700万円と言われています。
それを下回る費用対効果をもつ医療行為が、おおむね社会として出費に見合うと考えられます。
しかしながら、2011年の時点では、最もリスクの高いグループさえ最大支払い意志の額を越えていました。
結果、スタチンの一次予防はどの集団においても費用対効果の観点からは見合わず、推奨しない、と言うのが2011年の報告書の結論でした2)。
その後、2018年にはプラバスタチンの薬価が1/5に下がり、リスクの高いグループのみ医療経済的に推奨されうるようになりました。
☑副作用の頻度の視点
ここまで見てくれば、服薬するかしないかはベースラインリスクをアセスメントする事が必要、と理解して頂けると思います。
費用対効果を満たすことが要件になると考えます。
それだけでなく、スタチンの副作用の頻度の視点も重要です。
横紋筋融解症による入院の発生率0.44/10,000人年は単独で判断する数値ではなく、心筋梗塞の発症リスクと天秤にかけて判断するものであるとも分かって頂けると思います。
低リスクでは、トレードオフされた横紋筋融解症による入院の頻度が、AMI発症頻度と変わらない、と言うことになります。
リスク・ベネフィットのバランスを取ることが要件になると思います。
Incidence of hospitalized rhabdomyolysis in patients treated with lipid lowering drugs. PMID:15572716
☑️まとめ
脂質異常症と言う同じ診断名であっても、リスクは一様ではありません。
社会・経済的視点を導入することで、スタチンを飲む必要がある程リスクが大きいとする場合のリスク合意の論拠を示しました。
そして横紋筋融解症のリスクが大きいかは、心筋梗塞の発症リスクと天秤にかけて判断する問題と言うことを示しました。
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最終更新日2022年6月18日
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☑️参考文献
1)木下冨雄「不確実性・不安そしてリスク」日本リスク研究学会編「リスク学辞典(増補版)」
2)わが国における高脂血症治療薬の適正使用にかかる経済的評価。内閣府経済社会総合研究所委託事業「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」「公的サービス」研究会報告書。
薬局2018年4月号 所得格差時代の薬物治療
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