費用対効果を満たす冠動脈疾患一次予防のスタチン療法。糖尿病・脂質異常症合併の疫学とスタチンのエビデンス。

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冠動脈疾患の一次予防目的のスタチン療法において、1日薬価112円で計算した場合、すべての群において費用対効果の面からは推奨されない、と言う記事を書きました。

ただし、これは2012年時点でのプラバスタチン10mgの薬価での評価であり、現在最も安価なジェネリックがその1/5の薬価である事から、糖尿病を含めた一部の群では一次予防が推奨される、という経済分析が新たに報告されています1)。

そこで、脂質異常症の既往のある患者の、冠動脈疾患の一次予防目的のスタチン療法について、疫学、スタチンのエビデンスを紹介します。

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日本の疫学研究であるJDCS(Japan Diabetes Complication Study) 2)の9年次中間報告によると、2型糖尿病患者の冠動脈疾患・脳卒中の発症率は10年リスクに換算して9.6%、7.6%であり、一般住民 3)の各々3倍、2倍です。

年齢・性別の影響を除いた冠動脈疾患のリスク因子は、LDL、年齢、TG、HbA1c、Cペプチド、性別、喫煙、また脳卒中のリスク因子はsBP、年齢、性別でした。糖尿病の治療においては、HbA1cだけでなく、コレステロール値や中性脂肪にも注意が必要です。

コレステロール管理に関して、スタチンは非糖尿病患者と同等の相対リスク低減効果が報告されています。むしろベースラインリスクが高いので、治療効果は相対的に大きくなります。

英国のCARDSスタディは、糖尿病で心血管リスクを有する脂質異常症の患者にアトルバスタチンを投与した介入試験です。心血管イベントはプラセボに比して有意に低く(37%減少)、全死亡も低下傾向(27%減少)だった為、試験は早期終了されました。4)

ただ、経済分析されているプラバスタチンはレギュラースタチンです。LDL低下率は20%程度であり、治療前の患者のLDL値が150以上であればTreat to targetの目標値LDL<120を達成できないかも知れません。薬だけで目標値を達成するためにLDL低下率が40%程度のストロングスタチンを使用した場合、1日薬価はリピトール10mgで113.6円、最も安価なジェネリックでも76.5円ですので、費用対効果を満たさない治療と評価される可能性があります。

肥満など生活習慣の改善の余地があれば、食事・運動療法で更に15%のLDL低下5)を目指し、それでも目標値を達成出来ない場合に限り、アトルバスタチンなどストロングスタチンの使用を考慮、もしくはアトルバスタチン等を開始後、生活習慣の改善でLDLが十分低値となった場合にプラバスタチンに切替る方法は、治療効果と経済性を両立できるのではと考えます。

1)薬局2018年4月号 所得格差時代の薬物療法

2)Japan Diabetes Complication Study(1996-):日本人の2型糖尿病患者2250人を対象にした生活習慣の効果を検討した前向き研究。開始時の平均年齢59.4歳、平均罹病期間11.9年、平均HbA1C7.74%でした。

3)久山町研究第3集団(約30%の糖尿病・耐糖能異常者を含む)において、10年リスクは冠動脈疾患で男3.5%/女1.8%、脳卒中で男5.3%/女3.9%でした。

4)Primary prevention of cardiovascular disease with atorvastatin in type 2 diabetes in the Collaborative Atorvastatin Diabetes Study (CARDS): multicentre randomised placebo-controlled trial.PMID:15325833
5)NCEP-ATP IIIのTherapeutic Lifestyle Change Dietを適応すれば、LDLを5~15%下げることが可能とされています。