「処方箋のなぜを病態から推論する」を中堅以上の薬剤師にも勧める理由 その2

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「処方箋のなぜを病態から推論する」を中堅以上の薬剤師にも勧める理由 その2

はじめに

「処方箋のなぜを病態から推論する」は話題の新刊です。新人向けと思っている方が多いのではないかと思いますが、中堅以上の薬剤師にもお勧めします。その理由を書きます。

中堅の一人薬剤師は知識の再確認ができる

一人薬剤師の場合、相談できる先輩や同僚がなく、書籍で独習したり、インターネットで調べたりして日々の業務の疑問を解消している人が多いと思います。わたしも7年くらい一人薬剤師で働いていたので、そうしていました。

「処方箋のなぜを病態から推論する」を読むと、自分のしてきた仕事の答えあわせをすることが出来ます。具体例を書きます。

「u-Alb値、Alb/Cre比って?シルニジピンが追加された理由は?」と言う章を読んでいて、わたしは以前書いた薬歴のことを思い出していました。

わたしが過去に書いた薬歴:糖尿病で尿蛋白が+1だったけれど、腎症になっている?

Aさんは糖尿病の薬を飲み始めて9年になる、45歳の男性です。薬は、メトホルミン750mg/日、グリメピリド2mg/日、ロサルタン50mg/日です。HbA1C6.4、血圧は診察時132/81と良好との事。

尿蛋白1+の意味について

糖尿病手帳を出しながら、「今日は尿蛋白が1+だったけど、大丈夫かな」と言われました。尿蛋白+1は、どんな意味を持っているのでしょうか。

尿蛋白定性1+は、おおよそ尿中蛋白30mg/dLに相当します。一般の人においては、水分をあまり摂らずに濃くなった尿、すなわち濃縮尿において尿蛋白1+は珍しいことでなく、病的な意味がない事もよくあります。1) 逆に病的な蛋白尿が希釈により±になることもあります。

腎症に関するエビデンス

このように尿蛋白定性の意義は尿の濃縮度(尿比重)により異なりますが、尿蛋白1+であれば、46%の確率で0.5g/日(≒g/gCr)以上の顕性蛋白尿と言う報告があります。2)

日本の疫学研究である、JDDM(Japan Diabetes Clinical Data Management Study)によると、日本人2型糖尿病患者の31.6%が微量アルブミン尿であり、10.5%が顕性腎症でした。一般的には、糖尿病を発症して血糖コントロールが不良なままであると、10~15年後には顕性蛋白尿が出現するとされています。

腎症の病期については、300mg/gCrの尿中アルブミン3)、または0.5g/gCrの持続蛋白尿があれば顕性蛋白尿と見なされます。

Aさんはどのような病期にいると考えられるか

Aさんは血糖コントロールは良い方ですが、糖尿病罹病が9年以上あるので、糖尿病に伴う早期腎症~顕性腎症の可能性があるかも知れません。尿中蛋白量が少なくても、アルブミン尿が増加している事もありますので、今後尿中微量アルブミンの検査があればチェックが必要です。4)

また、腎機能の指標であるeGFRが100を超えていれば、早期腎症期に特徴的な糸球体過ろ過が起こっている可能性もあります。

今後Aさんにはどのようなことに留意して生活指導すればよいか

Aさんは既に腎保護作用のあるRAS阻害薬ロサルタン5)を服用しているので、薬物治療の外では減塩が好ましいと考えられます。具体的には、塩分1日量を7~8g程度に減らす事が推奨されています。治療では、今後もHbA1C7.0未満の良好なコントロール、診察時の血圧を130/80未満を目標にコントロールして行くことも課題です。

脚注

1)30歳以下の若い人では体位性蛋白尿と言って体動によって軽度の蛋白尿が出現する場合がありますが、これは生命予後や腎機能には影響がありません。安静時に蛋白尿が消失するので、早朝第一尿で鑑別が可能です。早朝尿の検査が難しければ、来院時の検体と、その後2時間以上安静にしてもらって取った検体を比較することで、体動による尿蛋白と確認出来ます。

2)Am J Kidney Dis. 2005 May;45(5):833-41

3)尿中アルブミン量(mg/L)を尿クレアチニン(g/L)で割った、アルブミン指数[mg/gCr]は、随時尿でも24時間蓄尿によく相関する数値です。尿中蛋白1+を対象に、3回中2回が30~299mg/gCrであれば、微量アルブミン尿が出ている、早期腎症と判定されます。

4)1日尿蛋白量の推定には随時尿による尿蛋白/クレアチニン比が有効です。尿クレアチニン排泄量を1gと仮定すると、次式が成り立ちます。

尿蛋白排泄量(g/日)≒随時尿蛋白濃度/尿クレアチニン濃度x尿クレアチニン排泄量
=随時尿蛋白濃度/尿クレアチニン濃度[g/gCr]

ただし、この式から分かるように、筋肉量が少ない場合や末期腎不全ではクレアチニン排泄量が低下(尿クレアチニン排泄量<1)し、過大評価しやすくなります。

反対に、筋肉量が多い場合はクレアチニン排泄量が多く(尿クレアチニン排泄量>1)、過小評価しやすくなりますので、解釈には注意が必要になります。

尿蛋白/クレアチニン比が0.2g/gCr未満の場合は正常範囲、3回続けてチェックしてこの基準以下なら有意な蛋白尿がないと判断出来ますが、糖尿病患者の場合は早期腎症を見逃してしまうので、微量アルブミン定量を測定します。

5)RENAALに組み込まれた顕性腎症のある2型糖尿病患者のうち、日本人96症例に対する事後(post hoc)のサブグループ解析では、ロサルタン投与群はプラセボ投与群に比して血清クレアチニンの倍化、末期腎不全、死亡と言った複合エンドポイントの相対リスクを45%減少させ、有意な蛋白尿の減少も認められました。

「処方箋のなぜを病態から推論する」は中堅以上の薬剤師にもお勧め

ここまでが、わたしの調べた内容です。「処方箋のなぜを病態から推論する」と読み比べても、及第点がつけられるかなと思います。

独習で学んだ知識を、再確認するのにうってつけの書籍と思います。

まとめ

若手薬剤師にも中堅薬剤師にもお勧めの一冊

ベテランの皆さま、ページをめくれば、「あったあった、こんな処方・・・」と思うものがきっとあると思います。ぜひ、本書を手に取ってご覧頂けたらと思います。

コラム

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