PRSPによる市中肺炎では、ニューキノロンの筆頭はガレノキサシンだか、MSW仮説から有効性の説明を試みる。

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以前の記事で、肺炎球菌に対してレボフロキサシン(LVFX)が有効であると書きました。JAID/JSC感染症ガイド2014では、ペニシリン感受性肺炎球菌の第二選択であるキノロン群の筆頭に、またペニシリン耐性肺炎球菌の第一選択として筆頭に挙げられているのは、ガレノキサシン(GRNX)です1)。この理由は何でしょうか。

以前の記事で、MPCやMSWと言った概念から耐性菌が選択的に生き残る機序の説明をしましたが、これが今回の鍵となります。

キノロン耐性のParC変異のある肺炎球菌に対する、GRNXとLVFXの単回経口投与時のMIC、MPCは、GRNXでMPC:1 MIC:0.1、LVFXでMPC30 MIC:2とする報告があります。ここで補足したい情報ですが、ペニシリン耐性のある場合、他の抗菌薬にも耐性がある場合が非常に多く、抗菌薬耐性肺炎球菌や、多剤耐性肺炎球菌と呼ぶ方が臨床的意味があると成書にあります2)。

GRNXはCmaxがMIC、MPCを越え、24時間経過しても血中濃度がMSWまで落ちることがありません。一方LVFXのCmaxは、この菌株に対してのMICは超えるもののMPCに達することはなく、血中濃度はMSW内にとどまり、耐性菌出現の可能性が予測されます。 また、経口投与から8時間を経過すると血中濃度はMIC以下に低下し、治療効果が不十分になる可能性もあります3,4)。

従来、肺炎球菌に対してAUC/MIC>25で効果が期待出来るとされましたが、より近年の報告では耐性菌を出さない為にはAUC/MIC>125が必要とされます3,5)。また文献では、キノロン耐性株でもGRNX400mgを投与した場合の遊離AUC/MIC=26.3であったと報告されています5)。

肺炎球菌のMICが低くLVFXで治療可能に見えても、目視出来ないけれど小数存在する薬剤耐性肺炎球菌を選択してしまうかも知れません。GRNXであれば、それを避ける事が出来るでしょう。

菌に対するMPCが低く、かつMSWが狭い薬物ほど耐性菌の発現するリスクが低いと考えられ、LVFXと比較すると、GRNXがペニシリン感受性肺炎球菌の第二選択のキノロン群の筆頭に、またペニシリン耐性(或いは薬剤耐性)肺炎球菌の第一選択薬に選ばれる理由が分かると思います。

参考文献
1)JAID/JSC感染症ガイド2014 ライフサイエンス出版 2015
2)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 医学書院 2008
3)渡辺彰 藤村茂編集 抗菌薬PK-PD実践テクニック 南江堂 2015
4)高畑正裕ほか:Garenoxacinのin vitro抗菌活性 日化療会誌55:1-20.2007
5)宮崎修一ほか :日常診療に役立つ抗菌薬のPK/PD ユニオンエース 2006

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