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東アジア人の心血管疾患リスクにおける脂質、血圧、糖尿病: メンデルランダム化研究
☑️はじめに
脂質異常症、高血圧、2型糖尿病は心血管疾患のリスク要因とされます。これまでの研究は主にヨーロッパ系の集団で行われてきました。
東アジア系集団での研究は少なく、その結果も限られています。
今回紹介する研究は、メンデルランダム化と呼ばれる手法を用いて、東アジア系集団の心血管疾患とリスク因子の因果関係を調べています。
この手法は、遺伝子の無作為な分配により、治療群への割り当てを模擬し、逆因果のバイアスを排除し、交絡のバイアスを最小化するものです。
論文では、東アジア系集団における心血管リスク因子と疾患の関係をヨーロッパ系集団と比較し、その差異を明らかにしました。
因果関係ですか?関連ではなくて?
メンデルランダム化解析は因果関係を議論できる強みを持つよ。
プロローグ
👧遺伝的に予想される糖尿病とか、表現が難解です…
👩読みこなすうちに慣れてくるよ。ひるまず読み込んでいこう。出典: twitter.com
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☑️CVDエビデンスは主に欧州系
脂質異常症、高血圧、2型糖尿病は、心血管疾患の一般的な修正可能な危険因子として一貫して特定されてきました。しかし、ほとんどのエビデンスはヨーロッパ系の集団から得られたものです[1-3]。
世界人口の少なくとも5分の1を占めるにもかかわらず、東アジア系の被験者から得られたエビデンスは多くありません[4-6]。
さらに、これら少数の観察結果を調査するために東アジア系の集団で行われたランダム化試験もまた、少数です。
☑️メンデルランダム化について
メンデルランダム化は、心血管危険因子と疾患との因果関係を検証することができる研究方法です。個人の表現型の一部は、出生時にランダムに遺伝する遺伝子多型によって決定されます。
表現型を決定する遺伝子多型の無作為割付けは、ランダム化比較試験における治療群への割付けに類似しています(原著図1)。
☑️エビデンス
メンデルランダム化は、遺伝的変異体のランダムで変更不可能な割り付けを利用しています。逆因果によるバイアスのリスクを排除し、交絡によるバイアスを最小化するのに役立ちます。
そこで本研究では、東アジア系の個人において、メンデルランダム化解析を計画しました。
伝統的な心血管危険因子と、一般的な心血管疾患との間の潜在的な因果関係を調査し、その結果をヨーロッパ系の個人で得られた結果と比較しました。
邦題は「東アジア人の心血管疾患リスクにおける脂質、血圧、糖尿病: メンデルランダム化研究」です。
【目的】
血圧上昇、脂質異常症、血糖コントロール障害は、ヨーロッパ人の心血管リスク因子として確立されているが、東アジア人を対象とした研究は比較的少ない。本研究では、2サンプルのメンデルランダム化法によって、東アジア人における伝統的な心血管危険因子と疾患リスクとの潜在的な因果関係を評価した。
【方法】
東アジア人とヨーロッパ人で行われた大規模ゲノムワイド関連研究のメタアナリシスから、血圧パラメータ、脂質サブセット、2型糖尿病の罹患率に関する要約統計量を収集した。これらは虚血性心疾患、虚血性脳卒中、末梢血管疾患、心不全、心房細動の要約統計量と組み合わせられた。
各暴露-結果ペアに対して単変量メンデルランダム化解析を行い、その後、利用可能な脂質サブセットに対して多変量解析を行った。
【結果】
遺伝学的に予測された虚血性心疾患と心房細動の危険因子は東アジア人とヨーロッパ人で類似していた。しかし、東アジア人では遺伝的に予測される血圧上昇のみが虚血性脳卒中(オッズ比1.05、95%信頼区間1.04~1.06、p<0.0001)および心不全(オッズ比1.05、95%信頼区間1.04~1.06、p<0.0001)と有意に関連していたのに対し、ヨーロッパ人では遺伝的に予測されるほぼすべての危険因子が虚血性脳卒中および心不全と有意に関連していた。
【結論】
本研究は、東アジア系とヨーロッパ系の両方の集団において、従来の心血管リスク因子と虚血性心疾患および心房細動との間に同様の因果関係があることを裏付ける証拠を提供する。しかし、特定された虚血性脳卒中と心不全の危険因子は、東アジア人とヨーロッパ人で異なっており、これらの集団の間で異なる病因が浮き彫りになる可能性がある。
【キーワード】
脂質、血圧、糖尿病、虚血性心疾患、心房細動、心不全、末梢血管疾患、脳卒中、メンデルランダム化、遺伝学
Lipids, Blood Pressure, and Diabetes Mellitus on Risk of Cardiovascular Diseases in East Asians: A Mendelian Randomization Study
Jonathan L. Ciofani et al.
Am J Cardiol. 2023 Aug 24; 205: 329–337.
☑️結果の概観
血圧、脂質値および2型糖尿病は、遺伝的因子と生活習慣的因子の両方によって影響される修正可能なリスクであると考えられてきました。本研究では、大規模GWAS(訳注:genome-wide association study:ゲノムワイド関連解析研究。網羅的に遺伝子多型などのゲノム情報と特定の疾患や形質との関連を解析する手法)データを利用しています。
2サンプルのメンデルランダム化アプローチ(訳注:一つのデータセットを用いてSNP-曝露の関連を推定し、別のデータセットを用いてSNP-アウトカムの関連を推定し、それらの結果を用いて曝露とアウトカムの関連を推定する方法)を活用し、東アジア系集団において、従来から知られる心血管リスク因子と疾患との関連を評価しました。
その結果、虚血性心疾患と心房細動のリスク因子プロファイルは、東アジア人とヨーロッパ人の間で類似していることがわかりました。
しかし、東アジア人においては、ヨーロッパ人とは対照的に、遺伝学的に予測された血圧上昇のみが、虚血性脳卒中および心不全と有意に関連していました。
☑️東アジア人のCVD危険因子は高血圧
脂質異常症、高血圧、2型糖尿病のために心血管疾患のリスクが増加することは、大規模な観察試験やランダム化試験[1-3]を通じてヨーロッパ人の集団で確立されており、臨床の場では非ヨーロッパ人に外挿されています。今回の研究は、虚血性心疾患と心房細動に関するこのアプローチを支持するものであり、伝統的な心血管危険因子とこれらの転帰との関連について、東アジア系集団とヨーロッパ系集団との間でほぼ一致した所見を示しました。
しかし、今回の研究は、東アジア人において、虚血性脳卒中と心不全の危険因子は脂質異常症や2型糖尿病ではなく、遺伝的に予測される高血圧であることを証明しました。
☑️先行研究
東アジア人を対象とした先行研究では、脂質異常症や糖尿病と比較して、高血圧が、脳卒中に対する集団寄与リスクを大幅に上昇させることが一貫して証明されています [20] 。既存のエビデンスでは、東アジア人は仮面高血圧と診断される頻度が高いこと、東アジア人はヨーロッパ人と比較して脳卒中リスクを予測する朝の血圧上昇が高い可能性があることが示されています[21] 。
実際、東アジア人が比較的高血圧になりやすいことは、Karioら[22]によって、特にアジア人集団を対象とした高血圧管理に関するコンセンサス・ステートメントの中で認識されています。
東アジア人において、脂質サブセットが虚血性心疾患および末梢血管疾患と有意に関連するものの、虚血性脳卒中、心不全、および心房細動とは関連していなかったという結果は、ヨーロッパ系集団から得られた結果からすると予想外でした。
これは統計的検出力が不十分であったためと考えられますが、同等の結果は以前にも報告されています。
☑️MEGAとJ-STARS
MEGA(Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese)試験は、7,832人の日本人患者をプラバスタチン+食事療法群と食事療法単独群に無作為に割り付けたものです。プラバスタチン群では心筋梗塞および冠動脈性心疾患全体のリスクが有意に低下しましたが、虚血性脳卒中のリスクには有意差がみられませんでした[23]。
より新しいものの、研究規模が小さいJapan Statin Treatment Against Stroke (J-STARS)試験では、非心臓塞栓性脳梗塞の既往がある、高コレステロール血症の日本人患者1,578人がプラバスタチン群と対照群に無作為に割り付けられました。
プラバスタチン群ではアテローム血栓性梗塞の発生率は低い結果でしたが、脳梗塞や一過性脳虚血発作の全発生率は対照群と有意差はありませんでした[24]。
どちらの研究でも、末梢血管疾患、心不全、心房細動の転帰率は報告されていません。
☑️HDL-cと各転帰の逆相関
遺伝学的に予測されるHDL-cとヨーロッパ人のIVW解析におけるほぼすべての転帰との逆相関も、HDL-cと心血管イベントとの因果関係に疑問を呈している最近の研究を考慮すると興味深いものです[25,26]。これは、以前の解析と比較して本研究のサンプルサイズが大きいことを反映している可能性があります。
しかし注目すべきことに、これらの結果は感度分析によって一貫して裏付けられていません。
これは、IVWにおけるHDL-cと冠動脈疾患との間にMR解析では有意な関連が認められたものの、感度解析では有意な関連が認められなかった、BurgessとDavey Smithの報告と同様です。[27]。
☑️2型DMとPADは関連あり
遺伝的家系は2型糖尿病の(訳注:末梢血管疾患などの)合併症リスクに対する影響を調節することが以前に示されています。本研究では、東アジア人において、遺伝的に予測される2型糖尿病と末梢血管疾患リスク上昇との関連が示されました。
また、虚血性心疾患との関連傾向も示されましたが、多重検定のためのBonferroni補正後では有意には至りませんでした。
☑️先行研究で2型DMとCVDの関連は一貫しない
東アジア人における2型糖尿病と心血管疾患との関連に関する先行研究は、その所見に一貫性がありませんでした。北米で行われた62,432人の参加者を対象とした多民族研究では、ヨーロッパ人と比較して、アジア人では心筋梗塞、うっ血性心不全、脳卒中、非外傷性下肢切断の発症リスクが低く、末期腎疾患のリスクが高いことが明らかになりました[28]。
対照的に、Action in Diabetes and Vascular Disease研究では、アジア人の2型糖尿病参加者は、東ヨーロッパ人やオーストラリア人と比較して、脳卒中と腎症の発症率が高く、末梢血管疾患と冠動脈疾患の発症率が低いことが明らかになりました[29]。
注目すべきは、どちらの研究も東アジア人に特化したものではなく、アジア内でも心血管疾患の疫学に関しては異質性があることはよく知られています[4]。
☑️研究の限界(1)
いくつかの重要な限界があります。特に1,456例しかなかったヨーロッパ人の末梢血管疾患転帰データセットでは、検出力が限られており、その結果、信頼区間は驚くほど広いものでした(補足表8)。
さらに、転帰変数のいくつかはバイオバンクのデータから抽出されたものであるため、参加者の症例と対照の帰属に誤りがあった可能性があります。
さらに、東アジアの解析とヨーロッパの解析のアウトカムの定義は同一ではありませんでした。
例えば、虚血性心疾患は東アジア人では心筋梗塞(BBJ)と定義されたのに対し、ヨーロッパのデータセットでは心筋梗塞、急性冠症候群、慢性安定狭心症、50%以上の冠動脈狭窄(CARDIoGRAM-plusC4D)が含まれました。
重要なことは、これは軽度の冠動脈疾患から心筋梗塞に至る虚血性心疾患のスペクトルに共通の病態を仮定していることです。
☑️研究の限界(2)
にもかかわらず、虚血性心疾患のリスクに対する各曝露変数の影響は、東アジア人とヨーロッパ人の間で同等でした。さらに、心不全と虚血性脳卒中は異質な疾患です。
例えば、虚血性脳卒中には異なる病因を持ついくつかの亜型があり、それらは祖先グループ間で異なる可能性があり、このことが祖先グループ間で異なる危険因子プロファイルの一因となっている可能性があります。
☑️研究の限界(3)
また、いくつかの暴露および結果のデータセットには一部重複があります。しかし、暴露に関連するSNPのみを用い、関連するF統計量が高い(Supplementary Table 7を参照)p<5×10^−8であるSNPのみを用いて強力な操作変数を使用することにより、バイアスの潜在的なリスクを軽減することが期待されます。
多くの分析で有意な異質性が見られましたが、Q統計量の評価によって判定されたものであり、主解析であるIVWと感度分析の一致から、結果への影響が著しくある可能性は低いとされています。
☑️まとめ
全体として、本研究は、東アジア人の大規模GWASデータを用いて、世界人口の割合に比べて研究が不十分な集団における従来の心血管危険因子と疾患との関係を評価しました。この解析により、東アジア人とヨーロッパ人の間で虚血性心疾患と心房細動のリスク因子プロファイルが類似していることが示されましたが、東アジア人における虚血性脳卒中と心不全のリスク因子としては、血圧上昇がより適切である可能性が示唆されました。
本研究は、東アジアの集団における集団レベルの心血管疾患予防と治療戦略に関するさらなる調査に役立つ重要な補完的研究アプローチを提示しています。
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最終更新日2024年6月1日
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