肺炎球菌による市中肺炎で、腎機能中等度低下している場合は、ニューキノロンをどのように使用したらよいか。

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要点:肺炎球菌の関与を疑う市中肺炎で患者が腎機能中程度低下している場合、レボフロキサシンは減量せず使用する、若しくはガレノキサシンを用いると治療失敗が少なくなると考えられる。ただしレボフロキサシンの中枢系副作用リスクは増加する。

薬物動態/薬力学(PK/PD)は、PKとPDの兼ね合いで決まります。例えばAUC120μg・h/mLの場合、MIC=0.5μg/mLならば、AUC/MIC目標値100を達成出来ますが、MIC=2μg/mLならば、目標値100を達成出来ません。この場合、有効な治療の為には、MICを低下させる(薬剤の感受性に基づいて、他薬に変更する)か、AUCを増大させる(その抗菌薬を増量投与する)かの対処が必要になります1)。

具体的な例を考えると、市中肺炎でペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の関与が疑われ、ガイドラインに従ってニューキノロンを選択したとします2)。更に患者は高齢で腎機能が中等度低下(クレアチニンクリアランス50mL/min)していたとします。この場合、レボフロキサシンを添付文書に従って減量すると、どうなるでしょうか。感染臓器である肺組織中の濃度ではなく、血漿中遊離濃度と言う代理濃度の検討ではありますが、モンテカルロシュミレーションにより、ターゲット値達成率が6割に減少したと言う報告があります。これより治療失敗の確率が高くなることが予想されます3)。

ここで、PK/PDデータを確認してみましょう。レボフロキサシン500mg単回投与時のCmax8.04±1.98μg/mL, AUC0-72h 50.86±6.46μg・hr/mLです。肺炎球菌に対して治療効果を得るためのターゲット値は、f・AUC/MIC≧30です(f:抗菌薬の血漿中遊離分率)。1995年のデータでは肺炎球菌(S.pneumoniae)に対するMIC80 1.56μg/mLです4)。最後に血漿蛋白結合率は30%です。

また、ガレノキサシン400mg単回投与時のAUCは118.1μg/mL・hr/mLであり、感受性の異なる菌株を含む肺炎球菌に対するMIC90は0.10μg/mLとする報告があります5)。血漿蛋白結合率は75%です。

ここで冒頭の話に戻ると、この場合、有効な治療のためには、MICを低下させる(薬剤の感受性に基づいて、他薬に変更する)、すなわち、ガレノキサシンを選択する、と言う方法がひとつ。もしくは、AUCを増大させる(その抗菌薬を増量投与する)、すなわちレボフロキサシンを減量せずに使用する、と言う方法がひとつです。

ただし、レボフロキサシンを減量せずに使用するのであれば、用量依存的な中枢神経系の副作用リスクを勘案する必要があると考えられます6)。

小柄な女性であれば、分布容積が小さく、最高血中濃度も高くなりますので、レボフロキサシンを減量しないで使用するより、ガレノキサシンを選択する方がbetterかと思います。

参考文献
1)AMR対策につながる抗菌薬の使い方実践ガイド 月間薬事1月臨時増刊号 2018 Vol.60 No.2 じほう
2)JAID/JSC感染症治療ガイド2014
3)臨床分離株におけるレスピラトリーキノロンの薬剤感受性調査とモンテカルロシミュレーションによる有効性の評価 小阪直史ほか Feb. 2016 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 69-127 (27)
4)クラビット錠500mg 添付文書・インタビューフォーム
5)ジェニナック錠200mg インタビューフォーム
6)Yachi T et al. Impact of levofloxacin dose adjustments by dispensing pharmacists on adverse reactions and costs in the treatment of elderly patients. Pharmazie 68: 977–982 (2013)  PMID:24400446