慢性心不全でジゴキシンを飲むと入院が減らせるが、腎機能が低下しているなら用量に注意。

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こんにちは。研修認定薬剤師の奥村です。今日は、心不全でジギタリスを飲んでいるAさんのお話です。ジギタリスは古くからヨーロッパで使われている強心剤です。今日の科学的根拠はどのようなものでしょうか。

Aさんは86歳の女性です。心臓が弱っていると言われ、半年程ジゴキシンを含めた薬物療法を受けています。当初は下肢の浮腫があり、心不全から来る前負荷と診断されたのでしょう、ループ利尿剤のアゾセミド30mgの処方もありました。アゾセミドはその後、口渇の訴えがあった時に中止になっています。家の中の事で忙しくしていて、外に出る機会は少なく、外出も車で連れて行ってもらうので、息が上がるような事はないそうです。

現在の処方は、バルサルタン80mg ヒドロクロロチアジド12.5mg ジゴキシン0.125mgです。

処方内容をもう少し詳しく見て行きましょう。

RAS阻害薬(ACE阻害薬/ARBほぼ同等の薬)のバルサルタンは、降圧と心保護作用を期待して、チアジド系利尿剤のヒドロクロロチアジドは降圧作用を期待しての処方と考えられます。ジギタリスは、強心作用を期待しての処方でしょうか。

この処方内容と身体活動の程度から、ACC/AHAステージB~C、NYHA分類II度程度の軽度の慢性心不全と推測されます。

ジゴキシンの科学的根拠ですが、DIGスタディと言う臨床研究があります。左室駆出率45%以下の慢性心不全患者に対して、ACE阻害薬とループ利尿薬に追加した場合、総死亡率は変えないが入院を相対リスクで28%(95%CI, 21-34%)減少させたと言う報告があります。1)

添付文書に記載のジゴキシンの治療濃度域は0.8-2.0ng/mLですが、DIGスタディの事後解析(post hoc)のサブグループ解析では、用量が増えるに従って死亡率が増加した為、唯一プラセボより統計的有意に死亡率の低かった(調整ハザード比0.80, 95%CI, 0.68-0.94)0.8ng/mL以下(0.5-0.8ng/mL)でのコントロールが現在のコンセンサスとなっています。2)

1)The effect of digoxin on mortality and morbidity in patients with heart failure. PMID: 9036306
2)Association of serum digoxin concentration and outcomes in patients with heart failure. PMID: 12588271

血中濃度が重要だと分かりました。Aさんの現在の処方設計でのジゴキシン濃度を推定してみます。

年齢からクレアチニンクリアランス(CCr)40mL/分程度の腎機能の低下が予想されます。体重は48kgと仮定します。
ジゴキシンの消失速度定数kel=(0.151+0.00256x CCr )/24=0.0105h^-1
F:バイオアベイラビリティ0.746 S:塩係数1 Vd:分布容積9.51L/kg
Css.ave=F・S・D/Tau・CLtot=0.56ng/mL
FSD/2Vd=0.102ng/mL

以上から定常状態のジゴキシン濃度推定値は0.56±0.10ng/mLで、最適化された治療濃度であると推定されます。ただし推定値なので誤差は想定されます。ジゴキシンは個体差が大きい薬剤ですので、濃度の測定(Therapeutic Drug monitoring : TDM)が望ましいです。

TDMを施行する場合は血中濃度が最低となるトラフ値を得るために、ジゴキシン服用直前に、または二相性の薬物濃度曲線を示すジゴキシンの分布相が終了している服用から6時間以降に、採血をする必要があります。施行しない場合は、徐脈や嘔気、黄視などジギタリス中毒の初期症状に注意が必要なので、Aさんにはこの辺りを伝えておいた方が良いでしょう。

いかがだったでしょうか。ご家族の健康を守るためのご参考になさって下さい。
(架空の症例です。)