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要点:レボフロキサシンは腎機能低下時の投与設計式が成立する為の仮定を満たす。
腎消失型の薬剤の、腎障害時の投与設計関係式の適応範囲についての考察です。
CLtot=CLR+CLeR (全身クリアランスは腎クリアランスと腎外クリアランスの和である。)
CLR=Ae・CLtot (腎クリアランスは全身クリアランスに未変化体尿中排泄率をかけたものである。)
この式が成り立つための仮定は以下の3つです。
仮定1:クレアチニン・クリアランスから見た腎機能の比は薬物の腎クリアランスの比に相当する。
仮定2:腎障害時には腎外(肝)クリアランスは変動しない。
仮定3:分布容積は一定である。
レボフロキサシンにこの仮定が成立するか、考察して行きます。
レボフロキサシン(LVFX)のパラメーターは文献で次のように報告されています。
F 0.9以上 Ae 80% fuB 0.7 CLtot/F 166mL/min Vd/F 113.5L B/P 0.80
(F:バイオアベイラビリティ Ae:未変化体尿中排泄率 fuB:全血中蛋白非結合率 CLtot/F:経口クリアランス Vd/F:経口投与時の分布容積 B/P:全血中薬物濃度/血漿中薬物濃度比)
fuB>0.2であるので、蛋白結合非依存型(binding insensitive)と考えられます。
全身クリアランス中、およそ80%を腎クリアランス、20%を腎外クリアランス(=肝クリアランス)が占め、それぞれ消失能依存型の特徴を有します。(∵腎抽出率ER<0.3、肝抽出率EH<0.3)
消失能依存型であり、主に腎から消失するので、CLtot=CLR=fuB・CLintR(全身クリアランスは腎クリアランスと等しく、全血中蛋白比結合率に腎固有クリアランスをかけたもので表される。)と表現すると、CLpoは次式で表されます。CLpo=CLtot/F=fuB・CLintR/Fa(経口クリアランスは全身クリアランスをバイオアベイラビリティで除したものと等しく、全血中蛋白非結合率に腎固有クリアランスかけたものを、吸収率で除したもので表される。)
Vd>50Lの場合、Vdf=VT/fuTと表現され、分布容積はVT、fuTによって決定されます。(VTは細胞内液の容積、fuTは細胞内液中の遊離型分率。)
体重70kgの細胞内液の容積を27Lとします。∴fuT=(fuB・VT)/Vd=0.7×27÷113.5÷0.9=0.18≒0.2 細胞内でも蛋白結合非依存型とみなします。従って、腎機能が低下しても分布容積は一定である(仮説3)と見なします。
腎機能障害別の薬物動態パラメーターを示します。
Ccr CCrからの AUC実測値からの
mL/min CLR推定変化率 CLtot変化率
正常 120 1 1
軽度 mean82.9 0.69 0.62
中度 mean35.1 0.29 0.33
重度 mean11.4 0.10 0.20
まず、腎固有クリアランスはクレアチニンクリアランスに比例する(仮定1)と言う原理にほぼ従っている事が確認出来ます。
次に、腎外クリアランス(=肝クリアランス)を検討します。
正常時の全身クリアランスの実測値は次のようになります。
CLtot≒CLtot/F=166mL/min (バイオアベイラビリティ良好のため、近似。)
腎外クリアランスをXとおきます。
軽度の場合を考察します。
AUCの実測値からのCLtot変化率が0.62、CLRの実測値が90mL/minであることから、(X+90)/166=0.62 ∴X=12.92mL/min
CLtotの変化率が0.33、CLRの実測値が35mL/minであることから、(X+35)/166=0.33 ∴X= 19.78mL/min
CLtotの変化率が0.20、CLRの実測値11.7mL/minであることから、(X+11.7)/166=0.20 ∴X=21.5mL/min
腎障害時も腎外クリアランスはほぼ一定である(仮定2)と確認出来ます。
以上の検証より、LVFXは腎障害時の投与設計関係式を適応可能と考えます。
参考文献
クラビット インタビューフォーム
第3版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために 緒方宏泰編著 丸善出版
腎機能障害患者におけるlevofloxacin500mg投与時の体内動態 日本化学療法学会雑誌 JULY 2009
薬物動態情報局 臨床薬物動態情報の記載方法 https://sites.com/site/pharmacokineticsinformation/PKparameter/pk-parameter_information