幼児期の便秘は自閉症スペクトラム障害のリスクと関連しますか

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幼児期の便秘は自閉症スペクトラム障害のリスクと関連しますか

☑️はじめに

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的相互作用やコミュニケーションに持続的な問題をもたらす神経発達上の障害です。

男児に比べて女児に高い有病率が認められ、遺伝的要因と環境的要因の相互作用が考えられます。

最近の研究では、自閉症と便秘の関連が注目されており、腸内細菌叢の異常とASDの間に関連性が示唆されています。

しかし、便秘とASDの関連についての詳細なデータは不足しています。

今回紹介する研究では、台湾のデータベースを用いて、小児期の便秘とASDの関連性を調査しています。

便秘とASDの関連、意外な気がしました。

NHIRDを利用した台湾の観察研究だよ。どんな内容なのかな。

プロローグ

👧メディカルトリビューン誌でも紹介されていたよ。

「…Lee氏らは「幼児期の便秘は腸内細菌叢の乱れを招き、ASD発症に関与している可能性が示唆された。便秘を有する乳幼児においては、ASDなどの神経発達障害のリスクに注意すべき」と結論。「腸内細菌叢の変化は、母体の薬物使用や代謝性疾患、遺伝子発現などの他のASD危険因子と比べて治療、分析、予防できる可能性が高い」と付言している。」

出典: medical-tribune.co.jp

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☑️ASDの疫学

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、相互コミュニケーションと社会的相互作用における持続的な障害を特徴とする神経発達上の問題です。

ASDの子どもはしばしば、限られた興味、反復行動、さまざまなレベルの知的障害を示します(1)。

最近のメタアナリシスでは、女児に比べて男児に高い有病率が認められ、男女比は約3対1でした(2)。

2018年の厚生省のデータによると、台湾の13,000人の自閉症患者の男女比は7対1でした(3)。

☑️ASDの危険因子

過去数十年でASDの有病率が増加しているにもかかわらず、根本的な病因は依然として不明であり、遺伝的要因と環境的要因の間には複雑な相互作用があるようです。

これらの要因やその結果生じる多様な症状は、治療標的が複雑であることを意味します。

動物モデルとヒトに共通する遺伝的あるいは病態生理学的経路を見つけ、より良い治療標的を特定するための努力が続けられています(4)。

近年、母体特有の薬物使用、出生前のステロイド曝露、親の高齢、抗生物質の使用などの危険因子への出生前の曝露が自閉症の発症に果たす役割が研究されています(5-7)。

☑️ASDの危険因子(2)

最新の研究では、生物学的分子メカニズムに焦点が当てられています。

例えば、腸内細菌叢と精神疾患との重要な関連と考えられている短鎖脂肪酸(SCFA)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、リポ多糖(LPS)、インドール、その他免疫学的バイオマーカーが、自閉症の生化学的メカニズムに関与しているようです(8-12)。

しかし、幼児、特に幼児や乳児における危険因子への曝露や自閉症のメカニズムについては、まだ十分に研究されていません。

☑️小児と便秘

便秘は小児によくみられる問題です。

便秘が健康に深刻な脅威を及ぼしていないとしても、関連する症状はしばしば、身体的苦痛、感情的苦痛、社会的相互作用、学校生活、活力など、小児の生活の質(QoL)に非常に有害な影響を及ぼします(13)。

治療せずに放置すると、外来(OPD)への継続的な経過観察、緊急の病院受診、健康負担のコスト増が生じる可能性があります(14)。

最近の研究では、便秘は腎機能の悪化、小児夜尿症、パーキンソン病、アレルギー性鼻炎などのリスクを高めることが示されました(15-18)。

便秘の治療としては、現在、プロキネティック剤、浸透圧性または非浸透圧性下剤、プロバイオティクスが便秘の解消や腸内細菌叢の調整に用いられています(19、20)。

☑️危険因子としての便秘

研究者たちは、便秘が体内の複数のシステムに及ぼす影響について調査しています(21)。

ディスバイオーシス(dysbiosis)は、これらの疾患間で共有される経路かもしれません。

さらに、腸内細菌叢の変化という現象が自閉症の顕著な危険因子であることが発見されれば、他の疾患危険因子や曝露(例えば、妊産婦の曝露、母親の代謝状態、新生児の代謝障害、遺伝的発現など)と比較して、治療、分析、予防できる可能性があります。

☑️ディスバイオーシス

腸管内の微生物種の構成または機能の不均衡として知られるディスバイオーシスは、便秘の結果または悪化因子のひとつであると考えられています(19)。

腸内細菌は体内で変化を引き起こし、全身経路に影響を及ぼし、ひいては中枢神経系(CNS)にも影響を及ぼすことが示されています(22, 23)。

「マイクロバイオーム(微生物)-腸-脳軸」(the microbiome-gut-brain axis)は、ASDのような神経発達疾患の発症に重要な役割を果たすことが知られています(24)。

☑️便秘とASD

興味深いことに、ASD児において、便秘は臨床的に重要な消化器症状であることが知られており、便秘の重症度は自閉症症状と相関していることが示されています(25-27)。

この相関関係は、便秘が特定の種類の細菌の量を著しく増加させ、細菌の多様性を低下させ、短鎖脂肪酸の異常レベルを誘導することによって腸内微小環境を変化させる可能性があることを思い出させるものです。

これらの現象はASDとの関連が証明されています(28-32)。

☑️エビデンス

マイクロバイオーム-腸-脳軸とそのメカニズム、および関連治療を含む危険因子と疾患との関係は広く研究されています。

しかし、早期小児便秘とその後のASD診断リスクとの関連に焦点を当てたデータはありません。

そこで著者らは、小児期の便秘がマイクロバイオーム-腸-脳軸を介してASDリスクの上昇につながる可能性があるという仮説を立てました。

そして、台湾のNational Health Institute Research Database(NHIRD)の集団ベースのレトロスペクティブな全国コホートを評価することで、小児期の便秘とASDの関連を調査しました。

邦題は「台湾における幼児期の便秘と自閉症スペクトラム障害のリスクとの関連: 全国的な人口ベースのコホート研究から得られた実際のエビデンス」です。

【背景】

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、限られた興味、反復行動、相互コミュニケーションや社会的相互作用の障害を示す神経発達上の問題である。

腸脳軸を介して、腸内細菌叢のアンバランスが自閉症に関与していることを示す証拠が増えている。

便秘は腸内細菌叢の変化をもたらす可能性がある。

便秘がASDに及ぼす臨床的影響については、十分な研究がなされていない。

そこで本研究では、全国規模の集団ベースのコホート研究を用いて、幼児期の便秘がASD発症リスクに影響するかどうかを評価することを目的とした。

【方法】

1997年から2013年にかけて、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)から3歳以下の便秘児12,935人を同定した。

便秘でない小児もデータベースから抽出し、年齢、性別、基礎疾患の傾向スコアマッチングを1:1の割合で行った。

Kaplan-Meier分析を適用し、便秘の重症度と自閉症の累積発生率のレベルを決定した。

本研究ではサブグループ解析も適用した。

【結果】

ASDの発症率は、便秘群では10万人月あたり12.36人月であり、便秘でない対照群の10万人月あたり7.84人月よりも高かった。

便秘群は非便秘群と比較して自閉症リスクが有意に高かった(粗相対リスク=1.458、95%信頼区間=1.116-1.904、調整ハザード比=1.445、95%信頼区間=1.095-1.907)。

さらに、便秘児では、非便秘群と比較して、下剤の処方回数が多いこと、性別が男性であること、乳児期の便秘、アトピー性皮膚炎がASDの高いリスクと有意に関連していた。

【結論】

幼児期の便秘は、ASDの有意なリスク上昇と相関していた。

臨床医は便秘児のASDの可能性に注意を払うべきである。

この関連の病態生理学的メカニズムの可能性を研究するために、さらなる研究が必要である。

【キーワード】

便秘、自閉症、微生物叢、全国コホート研究、乳児便秘、自閉症スペクトラム、国民健康保険調査データベース、腸脳軸

Association of early childhood constipation with the risk of autism spectrum disorder in Taiwan: Real-world evidence from a nationwide population-based cohort study

Yi-Feng Lee et al. Front Psychiatry. 2023; 14: 1116239.

出典: www.ncbi.nlm.nih.gov

☑️結果の概観

現在までのところ、また著者らの知る限りでは、この調査は、便秘の若年小児患者における自閉性障害のリスクを評価した初めての、大規模な集団ベースの全国規模のコホート研究です。

ASDのリスクは、便秘症児、特に下剤処方を多く受けている重度の便秘症児において高いことが観察されました。

その他の危険因子は、男性、乳児期の便秘、先天奇形、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、抗ヒスタミン薬の使用でした。

臨床医は、重度の便秘症児では腸管の開存が極めて重要であり、ASDのような神経発達障害のリスクが高いことを念頭に置くべきです。

☑️今回の研究の位置づけ

過去数十年にわたり、複数の遺伝的・環境的要因が腸内細菌叢に悪影響を及ぼし、それが自閉症リスクの上昇に関係することが示されてきました(31、32、34-48)。

これまでの研究で、小児の腸内細菌叢はまだ発達途上であり、比較的不安定であることが示されています。

マイクロバイオームの確立は出生時から始まり、様々なライフイベントが腸内マイクロバイオームの破壊的変化を引き起こします。

さらに、以前の研究では、初期の脳構造発達に異常がある子どもではASDリスクが増加すると述べられています(39)。

さらに、脳の構造的・機能的な発達は、主に出生から2~3歳までの間に起こります(49)。

このように腸内細菌叢の確立と主脳容積の発達の時期が重なっていることから、便秘と自閉症との間に関係がある可能性が示唆されました。

そこで、この年齢層の便秘児における自閉症について今回調査することになりました。

☑️1歳未満のリスクが最も高かった

本研究では、年長児と比較して、1歳未満の便秘児のASD発症リスクが最も高い結果でした。

この所見は、少なくとも部分的には、乳児の腸内細菌叢と免疫系が未熟であることによって説明できるのではないかと、著者らは推測しています。

便秘の発症が早ければ早いほど、腸内細菌叢異常と将来のASDリスクへの影響が大きくなることが考えられます。

☑️先行する臨床研究

乳幼児の便秘は、腸内細菌叢の変化、短鎖脂肪酸(SCFA)レベルの変化、神経伝達物質の異常レベル、腸の運動不良、腸透過性の亢進を引き起こします。

そして、腸-免疫軸と腸-脳軸を通じて、免疫機能、炎症プロセス、アレルギー、代謝状態に影響を及ぼし、ASDのリスクを高める脳の発達の変化につながる可能性があります(22, 50-52)。

例えば、VuongとHsiaoは、便秘がSCFAレベルの異常を引き起こし、それが免疫細胞や神経の増殖と分化に密接に関係していることを指摘しました。

この知見はStakenborgらやいくつかの動物モデルで報告された知見と一致しています(53-55)。

さらに、MarlerらやDinanとCryanの研究では、セロトニンやGABAといった腸内細菌に関連した神経伝達物質の異常値が便秘や自閉症児で観察されています(56, 57)。

☑️リーキーガットについて

便秘ASD患者(51)では、経口投与後の下剤の血中濃度(58)、糞便中の乳酸菌量(27)、腸粘膜のタイトジャンクションのタンパク質(40)の測定から、運動不良と腸管透過性の亢進が観察されました。

腸管透過性が亢進してリーキーガットになると、腸内細菌の代謝産物、例えばリポ多糖(LPS)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、インドールなどが粘膜関門を通過してサイトカインレベルの変化を引き起こします。

そして。そのことが幼児では腸-脳軸を介して脳に影響を及ぼす可能性があります(8-12, 52)。

さらにKangらは、自閉症児への微生物叢移植療法で一定の成功を収めました(59)。

☑️アレルギーはASDリスク

最近の研究では、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアトピー性疾患の患者において、便秘が既存のディスバイオーシスを悪化させることが示されました(14, 18)。

これらの知見と一致するように、著者らの研究でも、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹を持つ便秘症児は、その後ASDになりやすいようでした。

また、非感染性腸炎や大腸炎を持つ子供も自閉症のリスクが高い結果でした。

これらの知見は、ディスバイオーシスにおいて、共有または類似の生物物理学的経路が存在する可能性を示唆しており、自閉症のメカニズムに関与する補因子、傍観者、または決定的な原因が関与しています。

従って、アレルギー性疾患や炎症性疾患を持つ小児は、腸内細菌叢の組成と発達のマイルストーンをモニターするために追跡調査されるべきです。

☑️感度分析で結果が支持された

抗生物質への曝露は、マイクロバイオームの構成に重大な悪影響を及ぼす可能性があることが知られています。

このことが主要転帰を著しく混乱させる可能性があるため、感度分析を行い、指標日以前1年以内に28日以上抗生物質に曝露した被験者を除外しました。

その結果、便秘の早期発症児は将来の自閉症リスクが有意に高いことが示されました。

下剤の処方を受けている群では、便秘でない群と比較して、自閉症発症の重症度関連リスクが有意に高い結果でした。

☑️便秘とASDリスクの関連が示された

著者らの研究結果は、幼児期の便秘が腸内細菌叢異常につながることを示唆しており、分析の結果、便秘と将来のASDリスクとの関連が示されました。

微生物叢が確立される重要な時期に、幼児はしばしば身体的不快感を表現することが困難です。

異常行動は見過ごされやすかったり、幼児疝痛、乳タンパク質アレルギー、幼児食欲不振、軟食への挑戦の失敗などに誤って帰結されることがあります。

したがって、腸内細菌叢異常のリスクを早期に発見し、便秘を注意深く観察し、腸の状態を正確に評価することが、アンバランスな腸内細菌叢を回復させ、腸の開存性と適切な透過性を達成するのに役立つ可能性があります。

便秘のある幼児にASDの前駆症状の証拠がある場合には、家族と小児の教育、発達のマイルストーンの監視、小児神経科医または精神科医への紹介を考慮すべきです(50)。

☑️長所と限界

この研究の主な利点は、全国規模のデータ解析、詳細な医療記録、両コホートの長い追跡期間など、大規模であることです。

したがって、本研究の結果は信頼性が高く、選択バイアスは最小限に抑えられたと考えられます。

とはいえ、言及すべき限界もいくつかありました。

第一に、NHIRDには、食事暴露、学校教育の成績、神経学的検査、家族歴、個人のライフスタイル、遺伝子配列、腸内細菌叢解析に関する情報が含まれておらず、ASDリスクの解析を混乱させた可能性があります。

交絡因子の可能性を減らすために、薬や合併症を考慮し調整し、傾向スコアマッチングを用いましたが、これらの残余変数が結果に偏りを与えた可能性があります。

☑️限界(2)

第二に、ASD、便秘、併存疾患の診断は、このデータベースのICD-9コードに基づいています。

従って、診断の妥当性は個人の医療文書を見直すことで確認することはできず、誤分類が生じた可能性があります。

幸い、これらの誤分類はランダムである可能性があり、関連は過小評価されることが少なくありませんでした。

さらに、台湾では特別委員会が設置され、台湾の薬事管理における請求データを監視し、違反を防止しています。

さらに、これらの診断の正確性を向上させるために、繰り返しコード化された患者のみを対象としました。

最後に、本研究に参加した小児のほぼ全員が台湾生まれであったため、本研究で得られた知見は他の国や民族に一般化できない可能性があります。

著者らは、本研究で示された疫学的観察が、若年小児患者における自閉症と便秘の関係についての医師の認識を高めることを期待しているとしています。

☑️まとめ

幼児期に便秘のある小児は、便秘のない小児に比べてASDのリスクが有意に高い結果でした。

臨床医は、便秘のある幼児におけるASDの前駆症状に注意し、これらの患者における神経発達障害の可能性に注意すべきです。

さらに、小児科医はASD児の開存性や腸内細菌叢を含む腸の状態を評価すべきです。

便秘とASDの関連性の根底にある正確な病態生理学的メカニズムを明らかにするためには、さらなる研究が必要です。

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最終更新日2024年5月18日

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