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フェンタニル口腔粘膜製剤は強オピオイド定時投与中の突出痛を有するがん患者のレスキューに用いられる製剤です。
血漿蛋白結合率が高い為、血清アルブミン濃度が低いと効果や副作用が強く出るのではないかと懸念されます。
実際、オピオイドスイッチングで他剤からフェンタニル貼付剤に切り替えた場合、血清アルブミンレベルの層別で効果に差があったとする報告があります1)。
薬物動態理論からはどのように分析されるでしょうか。
フェンタニルの薬物動態パラメーターは以下です。
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バイオアベイラビリティ F: 65%(50%は口腔粘膜から、15%は消化管から)
未変化体尿中排泄率 Ae:10% : 主に肝代謝
分布容積 Vd:420L : 7L/kg
全身クリアランス CLtot= 766.7mL/min
腎クリアランス CLR=Ae・CLtot/D=76.7mL/min
肝クリアランス CLH=CLtot-CLR=690mL/min
血漿蛋白結合率80~86%で、fuP14%(<20%) :binding sensitive
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B/P比は不明ですので、B/P>0.5を用います。
EH’=690(mL/min)/0.5x(1600mL/min)=0.86
EH’は0.86より小さな値ですので、CLH=QH、CLH=CLH、CLH=fuB・CLintHの可能性があります。
フェンタニルは脂溶性なので、血球移行率は高いと予想されます。B/P比が0.6程度あれば、EH’>0.7で肝血流量依存型と判断されます。
実際、文献よりフェンタニルが肝血流量依存型と言う情報を得ました2)。
従って、CLtot=CLH=QHと表現されます。
総濃度はCLtot=QH (CLpo=fuB・CLintH/Fa)
遊離型濃度は CLtotf=QH/fuB (CLpof=CLintH/Fa)
EH’>7で遊離型薬物濃度が増加(fuBが上昇)すると、
持続注入(パッチ剤を想定)を行っている場合、fuBが上昇してもCLtotは変化しないので、定常状態の薬物総濃度は変化しませんが、CLtotfは低下するので遊離型薬物濃度は上昇することが推定されます。
静注繰り返し投与(バッカル剤の口腔粘膜吸収を想定)の場合、fuBが上昇してもCLtotは変化しないので、定常状態の平均薬物総濃度は変化しませんが、CLtotfは低下するので平均遊離型濃度は上昇することが推定されます。
経口繰り返し投与(バッカル剤の消化管吸収を想定)の場合、fuBが上昇するとCLpoは上昇するので、定常状態の平均薬物総濃度は低下し、CLpofは変化しないので遊離薬物濃度は変化しないことが推定されます。
参考文献
第3版 臨床薬物動態学 緒方宏泰編著
1)Influence of Serum Albumin Levels during Opioid Rotation from Morphine or Oxycodone to Fentanyl for Cancer Pain
2)フェンタニル・パッチにおける薬学的ケア 日病薬誌 第46巻5号(647‒649)2010年
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