異常行動が心配?10代のインフルエンザ本当にタミフルより麻黄湯が望ましい?

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異常行動が心配?10代のインフルエンザ本当にタミフルより麻黄湯が望ましい?

はじめに

インフルエンザのシーズンになりました。皆さんがインフルエンザにかかったとしたら、どうされますか?

病院で迅速検査を受けて、陽性であればタミフルなどを飲む事が多いと思います。でも、もし10代のあなたのお子さんがインフルエンザだったらどうしますか?

タミフルは最近まで10代には投与禁忌でした。飲んではいけない薬とされていたのです。ご存知の方は多いと思いますが、その理由までご存知でしょうか?

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年齢の理由は、中学生の力は強く死亡事故を制止できない恐れがある為

異常行動による転落事故が大きく報道された事もあり、2007年から実に11年間、タミフルは中学生・高校生など10代の若者への投与禁忌とされました。異常行動が起きた場合、力が強いので飛び降りなどを制止できないと判断された為です。

厚生労働省は異常行動はタミフルなどの薬が原因と明確に言えないと発表

その後の疫学調査でインフルエンザの異常行動とタミフルとの統計的な、つまり偶然に左右されない、真の相関関係は証明されず、厚生労働省は抗インフルエンザ薬の種類や使用の有無に関わらず異常行動は起こりうると発表しました。

2018年にタミフルの10代禁忌は撤回されました。服用して異常行動のリスクは増えるか明確ではない、と現時点では考えられます。けれど、そのように説明しても信じてもらえない、「リスクパラドックス」が生じている様相があります。

過去の報道から、子どもにタミフルを飲ませるのに抵抗感を持つ親御さんがいらっしゃるであろう事は、理解出来ます。

これを簡単に払拭するのは難しく、リスクマネジメントの手法を採用すると、分からない・お任せ、から治療における主体性の回復、そして医療従事者との信頼の構築の2点が必要と考えられます。

参考文献「生活リスクマネジメント―安全・安心を実現する主体として」

この記事では、治療における主体性回復の一助として、抗インフルエンザ薬以外の治療選択肢についてお話させて頂こうと思います。

インフルエンザの治療について

タミフルの効果と副作用

タミフルは、インフルエンザ発症から48時間以内に服用すれば、解熱までの期間を概ね1日短縮するとされます。

インフルエンザの自然経過、すなわち未治療で様子を見た場合、解熱までの期間は平均3日程度です。これが、48時間以内に飲む必要がある理由のひとつと考えられます。

3日以上熱が長引く場合は、細菌による二次感染などないか考える必要があります。

タミフルを飲んでもウィルスは5~7日程度排出されるので、周囲に感染を防ぐ効果はありません。

これらを踏まえて米国では抗インフルエンザ薬ではなくStay home(自宅療養)がインフルエンザ療養の基本とされるようです。

医療の世界的権威であるコクランは、リスクを持たない成人および若年患者においてタミフルを代表とするNA阻害薬にインフルエンザの重症化を予防する効果はないと発表しています。

Jefferson T, Jones MA, Doshi P, Del Mar CB, Hama R, Thompson MJ, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev 2014 Apr 10; (4):CD008965.

その一方でDobsonらはタミフル投与群はプラセボ群に比して気管支炎・肺炎や入院が偶然でなく、統計的に有意に減少したと報告しました。

Dobson J, Whitley RJ, Pocock S, Monto AS. Oseltamivir treatment for influenza in adults: a meta-analysis of randomized controlled trials. Lancet 2015; 385: 1729-37.

タミフルは消化器症状の副作用が多い事が医療従事者の間では知られています。

麻黄湯のみで解熱までの期間、症状治癒期間にタミフルと差がないとの論文

次に、インフルエンザに対して漢方薬の麻黄湯と、タミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害薬の発熱期間・症状持続期間を比較した小規模な研究がありましたので、紹介いたします。

麻黄湯は、3世紀張仲景が原本を著した『傷寒論』と『金匱玉函経』が出典で、2,000年近い使用経験がある方剤です。

日本ではインフルエンザにも保険適応を持ち、タミフルが登場する以前からインフルエンザに用いられて来ました。

この試験はインフルエンザの患者を4つのグループに分けて、それぞれ麻黄湯とタミフルなど抗インフルエンザ薬を服用し、経過を比較しました。

その結果、熱が下がるまでの期間や、インフルエンザの症状が治まるまでの期間に差はありませんでした。

むしろ関節痛に関しては、タミフルより黄麻湯の方が改善までの期間が早いという結果でした。

論文では、麻黄湯はインフルエンザの治療の選択枝のひとつになると結論しています。

The efficacy of ma-huang-tang (maoto) against influenza Mizue Saita,et al.
Department of General Medicine, Juntendo University School of Medicine, Tokyo, Japan

健康な若年者に限定かも知れない

ただし論文の解釈には注意が必要です。小規模の研究であり、肺炎進展への予防効果などは検討されていません。

患者背景もアブストラクトでは分かりませんが、健康な若年者が対象で、幼児や高齢者、合併症のあるリスクの高いグループでの検討はなされていないと思われます。

抗インフルエンザ薬の使用量の少ない米国でも、このようなリスクの高いグループには抗インフルエンザ薬の使用を推奨しています。

ですから、あくまで健康で元気な若年者がインフルエンザにかかった場合、と限定して考えて頂いた方がよいと思います。

合併症を有する方は、タミフルなど抗インフルエンザ薬を使用した方がよい場合もあるでしょう。

かかってから薬を飲むよりワクチンで予防する方がお勧め

そして、インフルエンザにかかってから治療するよりも、毎年ワクチンを打って予防する方を、医療従事者としてはお勧めします。インフルエンザへの感染や重症化を防いでくれるからです。

インフルエンザワクチンの効果の論文情報

ワクチンは流行株に一致すれば70-90%の感染予防効果があります。

また高齢者の研究ですが、インフルエンザワクチンの効果が次のように報告されています。

無作為試験ではインフルエンザ様症状を50%以上減少を証明しています。

またケースコントロール研究では、肺炎による入院を32-45%、呼吸器疾患による入院死亡率を43-50%、全死亡率を27-30%減少させる効果が示唆されています。

Ann Intern Med. 1995 Oct 1;123(7):518-27

研究されたのは高齢者、わたしたちが論じているのは若年者であり、対象とする集団が異なりますので薬剤の効果サイズは一概に比較出来ませんが、ワクチンに予防・重症化を防ぐ効果が確かに在ることは分かって頂けると思います。

まとめ

今回のお話は、いかがでしたでしょうか。

お子さんがインフルエンザになったら、タミフルを飲ませますか?タミフル以外の抗インフルエンザ薬を飲ませますか?麻黄湯?それとも毎年ワクチンを打ちますか?

置かれている状況により、答えはひとつではないと思います。

重要なのは思考停止せず、信頼出来る情報を集めて自分の頭で考え判断する事です。そのための助言をする用意は、わたしたち医療従事者に出来ています。

ぜひ、身近な信頼できる医療従事者と、望ましい治療について話し合って下さい。

今回の記事が、ご家族の健康を守るためのご参考になれば幸いです。

最終更新日:2020年01月25日

参考文献

ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして
上田剛士著 医学書院 2014年

推薦図書

「インフルエンザ なぜ毎年流行するのか」

「ジェネラリストのための内科診断リファレンス」

「生活リスクマネジメント―安全・安心を実現する主体として」

「和漢診療学――あたらしい漢方」

「症例から学ぶ和漢診療学 第3版」

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