この記事を読むのに必要な時間は約 4 分です。
Aさんは63歳男性です。脳梗塞/TIAの既往があり、以前から脳梗塞の再発予防の為に、抗血小板薬のシロスタゾール100mを服用していました。
今回、心房細動が指摘され、シロスタゾール100mgは中止となり、リバーロキサバン15mgが新規に処方になりました。併用薬はオルメサルタン10mgとレボチロキシンS100μgの2剤のみです。この処方変更について考察します。
Aさんは心房細動による心原性脳梗塞の1次予防目的で、新規抗凝固薬(NOAC)が開始されました。心房細動が原因で起こる心原性脳卒中のリスクはCHADS2スコアによって推定し、評価されます。
AさんのCHADS2スコアは、高血圧と脳卒中/TIAの既往がある事から3点で、脳卒中リスクは5.9%/年と推定され、高リスクに分類されます。2点(4.0%/年)以上でワーファリン(WF)による抗凝固治療が勧められます。
WF服用による脳卒中リスクの相対リスク低下は、メタ分析1)から60%と報告されています。従って、CHADS2スコア3点では、WFにより3.6%/年の脳卒中を予防出来ることが予測されます。
1)Meta-analysis: antithrombotic therapy to prevent stroke in patients who have nonvalvular atrial fibrillation.
一方、JAST試験(低用量アスピリンvsプラセボ)、ACTIVE-W(DAPTvsWF)試験において、アスピリンやチエノピリジンと言った抗血小板薬には、心房細動に伴う脳梗塞の予防効果はないことが示されています2)。
また、WASID 試験の結果において、頭蓋内血管狭窄がある非心原性の脳梗塞の脳卒中予防効果において、WFと抗血小板薬は効果が同等であり、WF内服患者に出血が多くみられました。
2)Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial.(JAST) PMID: 16385088
3)ACTIVE Writing Group of the ACTIVE Investigators. Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomised controlled trial. PMID:16765759
更に、BAT試験は、脳血管障害や心臓血管病にWFと抗血小板薬を投与する前向き観察研究で、重篤・重症な出血の年間発症率は、抗血小板薬単独で1.21%、抗血小板薬併用2.00%、WF単独2.06%、WFと抗血小板薬併用で3.56%であり、WFと抗血小板薬の併用がWF単剤治療に比べ出血イベントを1.5%/年増加させました。(NNH67)
4)Bleeding with Antithrombotic Therapy.(BAT)
これらの知見から、心房細動のために抗凝固薬が不可欠な患者では、 効果と出血リスクを勘案して、アテローム血栓性脳塞に関しても抗凝固薬単剤での再発予防を図るのが先決との見解があります。
NOACに関しては、WFに比して頭蓋内出血は少ないとされますが、アテローム血栓性脳梗塞への有効性の報告がないため、今回のような患者にNOACの単剤使用がどこまで有効かは厳密には不明です。
患者のAさん固有の条件としては、高血圧で脳梗塞/TIAの既往があり、喫煙・飲酒習慣はありますが、糖尿病・脂質異常症がなく、比較的若年で(<65歳)、心筋梗塞の既往がない等、リスク因子は有るものも無いものもあります。出血リスクを評価するHAS-BLEDスコアは3~4点で高リスクであり、NOACであるアピキサバン単剤療法を考慮しても良いかも知れません。
以上を総合して、NOAC単剤で慎重に経過を観察しつつ、脳梗塞/TIAの再発があれば抗血小板薬を追加するような方針となるでしょうか。リスク要因である血圧のコントロールや過度の飲酒を避ける事等は今後も重要です。禁煙も望ましいでしょう。
参考文献『CORE JOURNAL 循環器 no2 2012 秋冬号』ライフサイエンス出版
P54-61「アテローム血栓性脳梗塞の既往がある心房細動に対し、強力な抗血栓治療を行うべきか?」企画 卜部貴夫 協力 名郷直樹
|