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こんにちは。研修認定薬剤師の奥村です。今日は耳瘻孔(じろうこう)感染を起こした男の子の話です。
A君は4歳の男の子。耳鼻咽喉科を受診し、痔瘻孔に感染を起こしていると診断されました。以前にも感染を起こしたことがあり、その際に手術を勧められていました。お母さんは、インフルエンザ後で発熱あり、小児科からペニシリン系の抗生物質、アモキシシリン30mg/kg/dayを処方され、3日服用しましたが、痔瘻孔の感染には効き目がなかったので、今回の薬で治るか心配されていました。
処方薬 セフジニル10gmg/kg/day
皆さん、耳瘻孔ってご存知ですか?耳瘻孔とは、生まれつき耳の周囲に小さな穴が開いて、下の方に管または袋があり、先端は耳介軟骨で終わっているものを言います。耳が出来上がる時に生じたもので、かなり頻度の高い病気のひとつです。この小さい穴から細菌が入って感染を繰り返す場合もあります。感染を起こすと、腫れたところを切開して膿を出したり、抗生物質を飲むなどの治療が必要になります。
さて、耳瘻孔の手術は、必要なのでしょうか。一度感染を起こした事があれば、また感染を起こす確率が高いので、手術による摘出が勧められます。手術のタイミングですが、感染を起こしている時には手術は出来ません。感染が完全に治れば、耳瘻孔の摘出が可能です。通常は、感染の治癒が確認されて後、1ヶ月から3ヶ月間間隔をあけるようです。
手術は痛みを伴うため、子供が幼い時は鎮痛・鎮静を目的に、全身麻酔を行います。3日から約1週間の入院が必要です。手術は、耳瘻孔を含めて管や袋を全て取り去ります。まれに耳の後の切開や大きな切開が必要になる場合もあります。抜糸は術後5日前後におこなわれます。
耳の前の皮膚が薄く赤くなっている場合もありますが、耳瘻孔を摘出すると落ち着きます。耳の前に膿瘍がある場合もありますが、耳瘻孔を取り去ると瘢痕になって落ち着きます。従って、膿瘍を無理に切除する必要はありません。1)
抗生物質の選択は、どうすればよいのでしょう。感染耳瘻孔の起因菌は過去のサーベイでは嫌気性菌が検出率が多く、黄色ブドウ球菌は17%程度とのこと。トイレの後に手を洗わない事が感染の原因になっているかも知れません。第一選択は嫌気性菌にも効果のあるセフメタゾールまたはクリンダマイシンとのことです。推奨の順序も文献に報告されていました(CMZ≧CLDM>AMPC>CEX)。 2)
今回処方になったセフジニルは、第3世代のセフェム系抗生物質です。嫌気性菌のpeptostreptococciにも強い抗菌力あり(MIC80 0.05μg/mL)と報告されている。3)また、黄色ブドウ球菌が作る、抗生物質を破壊する酵素(βラクタマーゼ)にも安定です。
お母さんには、手術のあらましと、セフジニルで効果が見込めると言う話をしました。また、感染の再発予防のため、トイレの後よく手を洗うようにとアドバイスをしました。
いかがだったでしょうか。ご家族の健康を守るために、ご参考になさって下さい。
1)日本形成外科学会ホームページ
http://www.jsprs.or.jp/member/disease/congenital_anomaly/congenital_anomaly_07.html
2)感染耳瘻孔28例の検出菌の特徴と保存的治療の抗生物質選択について 耳鼻臨床 77:7;1421~1428, 1984 1421
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/77/7/77_7_1421/_pdf
3)新薬紹介 歯薬療法 67 Vo.12 No.1 1993
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsotp1982/12/1/12_1_67/_pdf