インフルエンザの検査が陰性でもかかっていないと証明出来ない。

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インフルエンザの検査が陰性でもかかってないと証明出来ない。

はじめに

インフルエンザの流行している時に、高熱と咳き込みがあって内科を受診したAくん(18歳)。

迅速検査をした所、結果は陰性でしたが、主治医からはインフルエンザの可能性が高いので、明日もう一度迅速検査をしましょうとの説明がありました。

偽陰性と言う言葉を聞く事もあります。インフルエンザ迅速検査の結果は、どのように解釈したらよいのでしょう?

この記事では、インフルエンザの迅速検査の結果を定性的にではなく定量的に判断する手法を紹介します。

検査の結果を定量的に判断する手法

検査特性について

複数のインフルエンザ迅速検査キットを検討したメタ分析によれば、インフルエンザ検査キットの検査特性は、感度62.3%、特異度98.2%との報告があります。

また、インフルエンザウィルス迅速検査の感度は、発症から検査までの時間で異なります。

発症から12時間までの検査感度は35%、12~24時間後は66%、24~48時間後は92%との報告があります。

(Keitel K. et al : Eur J Pediatr, 170 : 511-517, 2011)

本記事では分かりやすいように、平均値の感度62.3%、特異度98.2%で話を進めます。

除外診断よりも確定診断に適した検査であることが分かります。言い換えれば、インフルエンザであることを証明するのは得意な検査ですが、インフルエンザでない事を証明するのは苦手な検査と言えます。

問診だけでも流行期のインフルエンザの可能性は79%と見積もれる

実例を挙げて、もう少し詳しく見て見ましょう。

インフルエンザ流行期に38度の熱と咳嗽があれば、79%の確率でインフルエンザと言う疫学調査の報告があります。これを検査前確率として検査前オッズに変換すると、3.76です。

迅速検査が陽性ならインフルエンザの可能性は99%

検査陽性の場合、陽性尤度比LR+は34.6です。これを検査前オッズに掛けると130.1、確率に変換すると、検査後確率は99.2%となります。すなわち、99%インフルエンザと解釈されます。

迅速検査が陰性でもインフルエンザの可能性は59%ある

一方、検査陰性の場合の検査後オッズは、陰性尤度比LR-の0.384を検査前オッズに掛けると1.44、確率に変換すると、この時の検査後確率59%です。

つまり、迅速検査が陰性でも、インフルエンザである確率が実に59%もあるので、たとえインフルエンザと診断されなくても、マスク・手洗・うがいなど、周囲への感染対策を怠らない事が必要です。

医師によっては再度受診となってしまう負担を考えて、事前確率が十分高ければ検査しないでタミフル等のノイラミニダーゼ阻害薬を処方される事もあるでしょう。

平成21年の厚生労働省の事務連絡「新型インフルエンザの診断と治療」において、インフルエンザの治療に迅速検査は必須でないとされています。

まとめ

迅速検査の結果の解釈は白か黒かの単純なものではなく、医学知識や統計学的な知識を駆使してグラデーションで解釈していることがお分かり頂けたと思います。

医師は問診などから検査前確率を見積り、迅速検査の結果から検査後確率を計算します。

検査後確率があらかじめ設定した治療閾値を上回ればインフルエンザと診断し、検査閾値を下回ればインフルエンザではないと診断から除外する訳です。

尤度比を使った確率の推定は、ベイズの定理と呼ばれる手法です。インフルエンザの迅速検査だけでなく、あらゆる検査法で利用出来ますので、ご興味のある方は、ぜひ成書をあたって下さい。

今回の記事はいかがだったでしょうか?日常業務のご参考になさって下さい。

最終更新日:2019年12月28日

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参考文献

1)臨床検査値使いこなし完全ガイド
2)病院総合医の臨床能力を鍛える本

推薦図書

記事を書くときに参考にした本と、お勧めの本を紹介します。

「臨床検査値使いこなし完全ガイド」

ベイズの定理の解説があり、インフルエンザ迅速検査を取り上げて検査後確率の計算をしています。

「病院総合医の臨床能力を鍛える本」

ベイズの定理を使った診断プロセスが解説されています。わたしたちはカルテを見る機会がないので、医師の思考方法を知る貴重な書籍です。お勧め。

「その場の1分その日の5分」

クリニカルクエスチョンについて、どのように自分で情報を調べて吟味し、実践して行くかを記した書籍。

薬局薬剤師にも勉強する姿勢が参考になります。

「アンサングシンデレラ」

薬剤師のわたしたちの気持ちを代弁してくれるコミック。家族やお友だち、薬学生や、将来薬剤師を志す中高生にもお勧めです。

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