コレステロールの薬を飲んでいるけれど、名前は正確に覚えていない人が、風邪で病院を受診する時にお薬手帳を持参した方がよい、たったひとつの理由。

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こんばんは。アロマ薬剤師のゆきです。娘がおもちゃに指を入れたら抜けなくなり、救急外来のお世話になりました。先生、親の不注意ですみませんでした…。

さて、今日は薬の飲み合わせの話です。薬局で患者さんに、「他に飲んでいる薬はありませんか?」と必ず尋ねるのですが、返ってくる答えで多いのは、「血圧の赤い玉の薬」とか、「コレステロールの白い玉の薬」とかです。薬局あるあるでしょうか😅

赤い玉の薬も、白い玉の薬も、沢山あります…。でも、血圧の薬とか、コレステロールの薬とか分かったら、飲み合わせは分かるんじゃない?って思ってます?😏実際はどうなのでしょう。今日は、そういうお話をします。

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風邪でC耳鼻咽喉科を受診したAさんは、「お薬手帳を持って来ていないけれど、コレステロールの薬を飲んでいます」、とカウンターでおっしゃいました。

皆さんはこれで飲み合わせなどのリスク回避が十分出来ると思います?答えはイエスであり、ノーです😰その理由を一緒に見て行きましょう。

Aさんは、数年前、B内科医院からコレステロールの薬、シンバスタチンを飲んでいた事が、薬局の電子薬歴に記録されていました。体重はデータなし、腎機能もデータなし、シンバスタチンの規格(ミリ数)も不明です。シンバスタチンのまま現在も継続しているかも確実には分かりません。

現在の日本で、コレステロールの薬のスタチンは、5種類が発売されています。飲み合わせは薬ごとに特徴があり、注意の必要な度合いも異なります。

同時に飲むと若干吸収率が下がって効き目が落ちる程度の飲み合わせから、時間を空けて飲んでも、重篤な副作用である横紋筋融解症が起きるリスクが高まるケースまで様々です1)。

そのため、最適な処方設計をするためには、薬剤名、規格、飲み方の正確な情報が必要になります。

Aさんの飲んでいたシンバスタチンは、100%肝臓の酵素で代謝されるタイプのスタチンです。薬物代謝酵素「CYP3A4(シップスリーエーフォー)」で代謝されます。

この酵素の働きを邪魔する薬を飲むと、てきめんにシンバスタチンの体内濃度が上昇し、薬を何錠も一度に飲んだのと同じような状況が起こります。その結果、副作用が起こりやすくなるのです2)。

この相互作用は時間をあけて飲んでも避けることが出来ません。CYP3A4の働きを邪魔する薬で有名なのが、日本で風邪の時に頻繁に処方される抗生物質、クラリスロマイシンです。

Aさんが受診したC耳鼻咽喉科の先生は、クラリスロマイシンを処方されませんでした。コレステロールの薬が特定出来ないのであれば、最もリスクが高い場合を想定して、その薬を避けようと考えられたのかも知れません。

リスク回避は出来ましたが、もしAさんが飲んでいる薬がシンバスタチンでないとはっきり分かっていれば、C医師はクラリスロマイシンを処方されたかも知れません。

飲んでいる薬の正確な情報を伝えられなかった為に、Aさんが自ら治療の選択肢の幅を狭めてしまったことは確かでしょう。

風邪薬程度でしたので、今回は深刻な問題にならなかったのが幸いですが、お読みになって、いかがでしたか。これがイエスであり、ノーである、とわたしが最初に書いた理由です。

タイトルでは、コレステロールを飲んでいる人の風邪薬に限定しましたが、基本、複数の薬を飲むのであれば、飲み合わせの問題は常に起こり得ます。

薬を安全に、効果的に使用できるよう、病院や薬局、ドラッグストアに行く際はお薬手帳を持参されることを、薬剤師として、わたしは心からお勧めします。

脚注
1)Statin toxicity from macrolide antibiotic coprescription: a population-based cohort study.PMID: 2377890

472,591人を対象としたカナダのコホート研究です。CYP3A4で代謝されるアトルバスタチン、シンバスタチン服用患者にエリスロマイシン、クラリスロマイシンを投与した場合の安全性の検討をしています。

アジスロマイシンと比較して、30日以内の横紋筋融解症による入院は絶対リスクで0.02%(95%CI;0.01-0.03)上昇しました。

急性腎傷害は絶対リスクで1.26%(95%CI0.58-1.95%)、総死亡は絶対リスクで0.25%(95%CI0.17-0.33%)上昇しました。

2)これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの理論と実践  大野能之・樋坂章博 編著 じほう

併用によるAUCの上昇率のデータは次のようになります。シンバスタチン   基質の寄与率 CR(CYP3A4):1.00
クラリスロマイシン 阻害率IR(CYP3A4):0.88  PISCS予測値のAUC8.33倍 実測値のAUC11.9倍

エリスロマイシン  阻害率IR(CYP3A4):0.81     PISCS予測値のAUC5.26倍 実測値のAUC6.2倍

AUCが5~10倍、すなわち薬を5~10錠いっぺんに飲んだ時のような状況が起きる事が予想されます。

パキシル(一般名パロキセチン)を飲んでいる人が、眼科を含めて他の病院を受診するときにしなければいけない、たったひとつのこと。

かかりつけ医院に黙ってほかの病院を受診し、同効薬のオメプラゾールとタケキャブが重複して処方されていた話。

皮膚科と耳鼻咽喉科を掛け持ち受診して、持ち込まれた2枚の処方箋で抗生物質が重複した話。

耐性菌の話。どこか遠い国の話ではなく、日本の日常診療でも耐性菌は溢れています。

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シンバスタチンとフルコナゾールは安全に併用出来ますか?

シンバスタチン服用中にイトラコナゾールのパルス療法を受けて横紋筋融解症を来たした例。