脳卒中の初発を予防するために、高血圧を薬で下げる事は大事ですか?疫学や臨床試験から、どのような知見が得られていますか?

この記事を読むのに必要な時間は約 3 分です。

こんにちは。研修認定薬剤師の奥村です。今日は高血圧で受診されたAさんの話です。

Aさんは58歳の女性です。体格は標準体型、特に既往なし。血圧が160/100と高く、前回から降圧剤が開始となりました。ヘビースモーカーです。

処方薬は、RAS阻害薬のバルサルタン40mgを朝に1錠のみ。さて、Aさんが薬を飲むのは、何のためでしょうか。

血圧が高いと、脳卒中の発症リスクが高い事が、過去の疫学調査から明らかになっています。ですから、治療のゴールは脳卒中の発症を予防する事です。

それでは、Aさんの脳卒中の発症リスクはどれくらいで、薬の服用で発症をどれくらい予防する事が出来るのでしょうか。同程度のリスクを有する方が、10年間で脳卒中を発症するリスクは、日本の疫学研究であるJPHCのスコアリングを利用する事で推定出来ます。

Aさんのスコアを実際に計算すると、
年齢12点+女性0点+喫煙8点+糖尿病なし0点+BMI 0点+血圧11点=31点
これより10年のうちに脳卒中を起こす確率は7~8%と推定されます。血管年齢は85歳です。

服薬によりBP140/90以下に降圧(-1点)して禁煙(-8点)すれば、22点で2~3%、血管年齢67歳となります。相対リスクは70%程度減少しています。絶対リスクは5.0%減少し、治療必要数は20人です。

言い換えれば、同程度のリスクを有する方が100人いるとして、薬を飲まず喫煙を続ければ、10年で脳卒中を発症しないのは92~93人でしょう。一方、降圧剤を服薬して禁煙すれば、発症しないのは97~98人と読み取れます。

ただし、これは観察研究からの考察です。よりエビデンスレベルの高いランダム化試験を参照すると、例えば脳卒中の2次予防効果を検討したPROGRESS試験では、相対リスクを28%(95%信頼区間 17~38%)減らす程度に留まります。従って相対リスク70%低下は良すぎるように思われます。

バルサルタン服用でトレードオフとなる対抗リスクは、血管浮腫や高カリウム血症等があります。

Aさんは前回のバルサルタン開始後に血管浮腫は起きませんでした。今後カリウム値を測定していればチェックが必要です。

また、II度高血圧のため1剤で血圧を良好にコントロールするのは難しいかも知れません。降圧が不十分であれば、今後Ca拮抗薬やチアヂド系利尿剤が併用されるでしょう。高血圧のガイドラインであるJSH2014から、血圧は140/90以下の管理が推奨されます。

今後の生活上のアドバイスとしては、喫煙は独立したリスク因子なので禁煙が望ましいところです。

いかがだったでしょうか。ご家族の健康を守るためのご参考になさって下さい。