童話「西の猫と東の猫」




ヨーロッパの猫たちに、動脈硬化の進行を抑える薬を与え、心筋梗塞を予防したと言う研究が発表されました。それを聞いた日本の人たちは、自分たちの飼っている三毛猫たちに、同じ薬をこぞって与えるようになりました。それで飼い猫たちを元気で長生きさせられると思ったのです。

でも、日本の人たちは知りませんでした。薬を与えても、心筋梗塞を予防出来るのは、心筋梗塞になる猫のうちの三匹に一匹だけ。薬を与えていても、全ての猫の心筋梗塞を予防することは出来ません。

そして、三毛猫が心筋梗塞を起こす確率は、ヨーロッパの猫の1/3以下であり、健康な三毛猫にこの薬を与えても、そもそも得になるか分からない、薬代に見あった価値があるか分からない、と言うことも、日本の人たちは知りませんでした。

この事を知っている猫の薬屋は、いつも心の中で悩んでいます。いつか、本当の事を上手く話せて、その上で飼い主が薬を与えるか、与えないか決めることが出来るようになれば良いのですが。

参考文献
1)the West of Scotland Coronary Prevention Study Group. Prevention of coronary heart disease with pravastatin in men with hypercholesterolemia. N Engl J Med. 1995;333:1301-07.
2) MEGA Study Group. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan(MEGA Study):a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006;368(9542):1155-63.
3)所得格差時代の薬物療法 薬局 2018 Vol.69, No.5:42-47 南山堂

童話「野菜保険」




野菜は健康に必要な食べ物ですが、時に高価で、皆がいつでも買えるものではありません。そこで国は、富の再分配を促し、国民の野菜を食べる機会が均等となるように、ある日、野菜保険を作りました。

収入に応じて野菜保険の保険料を納めていれば、定価の1割から3割で野菜が買えるようになりました。またお金に困っている人は、無料で野菜が買えるようになりました。

皆、喜びました。そして、こぞって、国産の無農薬野菜を買うようになりました。値段が手頃で残留農薬の基準を満たしていても、そういう野菜は売れなくなりました。

野菜保険は発足時の保険料では賄えなくなりました。次第に保険料は上がり、そのうちに税金も投入されるようになりました。税金の投入額は、徴収した保険料の総額と同じくらいの金額に膨らんで行きました。野菜保険の自己負担も4割、5割と上がって行きました。そしてある日、とうとう野菜保険は破綻してしまいました。