ガレノキサシンはデュアルインヒビターでMPC が低く、耐性肺炎球菌に有効かも知れない。

要点:第4世代キノロンのガレノキサシンは、グラム陽性菌に対し、第3世代が主に阻害するトポイソメラーゼIVだけでなく、DNAジャイレースにも同程度の阻害作用を有するデュアルインヒビターであり、トポイソメラーゼIVをコードするParCに変異のある肺炎球菌に対しても耐性菌出現阻止濃度(MPC)が低く、耐性菌出現の選択圧になりにくいと考えられる。

肺炎球菌には、ParC変異によりレボフロキサシンに耐性を示す菌株があり、S. pneumoniae CR-1 、S. pneumoniae D-3197が知られています。ParCはトポイソメラーゼIVを構成する二量体のうち、片方をコードする遺伝子です。グラム陽性菌に対して第3世代キノロンが阻害作用を示す部位は、第一にはトポイソメラーゼIVと考えられています。一方、第4世代キノロンはグラム陽性菌のDNAジャイレースに対する阻害作用が強く、両酵素に対して同レベルで阻害作用を示すデュアルインヒビターとして働くと考えられています1,2)。

キノロン耐性のParC変異のある肺炎球菌に対する、第3世代のレボフロキサシン(LVFX)と第4世代のガレノキサシン(GRNX)を比較するPDのデータが、インタビューフォームに記載されています。それによれば、両薬剤を単回経口投与した時の最小菌発育阻止濃度(MIC)、耐性菌出現阻止濃度(MPC)は、LVFXでMPC:30 MIC:2、GRNXでMPC:1 MIC:0.1でした3)。

ここでPKデータを再確認すると、レボフロキサシン500mg単回投与時のCmax8.04±1.98μg/mL、ガレノキサシン400mg単回投与時のCmaxは8.86±2.36μg/mLです。血漿蛋白結合率は30%、75%で、遊離のCmaxは5.63μg/mL、2.22μg/mL、半減期は7.89±1.04hr、12.41±1.1hrです。腎機能正常の場合、両薬剤の蓄積率は共に1.3程度であり、遊離のCssmaxは7.32μg/mL 、2.89μg/mL程度と推定されます。また、組織移行率は両薬剤ともに良好で、組織中濃度と血漿中濃度の比は>1と考えられます。Time inside MSWが20%を超えると耐性菌が出現すると言う研究がありますが、ガレノキサシンは下気道感染を起こしている肺炎球菌に関し、総じてこの条件をクリアすると思われます4)。

耐性菌の出現確率は約10^-7であり、同時に二つの変異が生じる確率は10^14、すなわち100兆万に1回と、非常に確率的に低いことが分かります。トポイソメラーゼIVを変異させるParC変異はワンポイントミューテーションですが、DNAジャイレースの変異が臨床的に有意となる為には、複数箇所の変異の蓄積が必要になります。生体に感染が成立している際の菌数は10^10個との報告があり、肺炎球菌がParC以外の変異を同時に有する可能性は極めて低いと考えられます4)。

以上から、MPC以上の濃度を達成して、増殖の際に一定の確率で生じるParC変異等の耐性肺炎球菌の残存を無くすには、第4世代キノロンのガレノキサシンを選択する事が、MSW仮説(MSW:mutant selection window hypothesis)から有効と思われます4,5)。

参考文献
1)AMR対策につながる抗菌薬の使い方実践ガイド 月間薬事1月臨時増刊号 2018 Vol.60 No.2 じほう
2)Nakaminami H, et al.  A novel  GryB mutation in meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) confers a high level of resistance to third-generation quinolones. Int J Antimicrob Agents,43: 478-479, 2014  PMID:24656690
3)ジェニナック錠200mg インタビューフォーム
4)耐金光敬  他  耐性菌の抑制とPK/PD   臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 36(4)July 2005  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/36/4/36_4_181/_pdf
5)Dong Y, et al. : Effect of fluoroquinolone concentration on selection of resistant mutants of Mycobacterium bovis BCG and Staphylococcus aureus. Antimicrob Agents Chemother 1999; 43: 1756-1758



肺炎球菌による市中肺炎で、腎機能中等度低下している場合は、ニューキノロンをどのように使用したらよいか。

要点:肺炎球菌の関与を疑う市中肺炎で患者が腎機能中程度低下している場合、レボフロキサシンは減量せず使用する、若しくはガレノキサシンを用いると治療失敗が少なくなると考えられる。ただしレボフロキサシンの中枢系副作用リスクは増加する。

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PRSPによる市中肺炎では、ニューキノロンの筆頭はガレノキサシンだか、MSW仮説から有効性の説明を試みる。

以前の記事で、肺炎球菌に対してレボフロキサシン(LVFX)が有効であると書きました。JAID/JSC感染症ガイド2014では、ペニシリン感受性肺炎球菌の第二選択であるキノロン群の筆頭に、またペニシリン耐性肺炎球菌の第一選択として筆頭に挙げられているのは、ガレノキサシン(GRNX)です1)。この理由は何でしょうか。

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