横紋筋融解症を起こすリスクを取ってもスタチンを服用するかは、医療・社会・経済的視点が必要となる。

前回、スタチン服用による副作用リスクを具体化する方法について話しました。今回はリスクが大きいのかどうか、と言う話をしようと思います。スタチンを服用するほどにリスクが大きいのか、と言う観点から始めて、最後に横紋筋融解症のリスクは大きいのか、と言う話で終わりたいと思います。

まず、リスクについて少し説明しましょう。リスクは不確実性を有します。木下らは、以下に示すような特性によるとしています。①将来の出来事であることによる不確実性、②望ましくないと言う表現の価値依存性による不確実性、③結果の大きさの範囲および程度への依存による不確実性、④単一のリスクだけで評価出来ないことによる不確実性1)。

このようにリスクは不確実性を有する為、医療の場でリスクに対処する為には、リスク合意の形成が必要になると考えられます。各学会から発表されるガイドラインがそれに当ると考えられます。ただし、リスク合意には医学的視点だけでなく、社会・経済的視点も必要となって来ます。近年、医療経済の考えが発達しつつあり、医療政策の意思決定にも採用されると思われます。

まず、医学的視点から見てみましょう。国内の疫学調査で、急性心筋梗塞(AMI)予測発症率は、リスクに応じたグループ分けをした場合、0.60~64.2/10,000人年と報告されています。最もリスクの低いグループは、45歳の女性で危険因子のないグループです。最もリスクの高いグループは、75歳で喫煙者、グレードIIの高血圧があり、糖尿病の既往のあるグループです2)。

その差は、実に100倍。LDLは心筋梗塞のリスク因子のひとつであり、スタチンは再発または初発の心筋梗塞を集団として33%予防することが証明されていますが、ベースラインでのリスクが小さければ、得られる利益は相対的に小さくなります。果たして一律にスタチンで治療すべきでしょうか。

国内外のガイドラインを参照すると、再発予防は全例スタチン服用が推奨されています。その一方で、初発予防は、費用対効果と言う概念を導入すると、リスクの高いグループに限り、スタチン服用が推奨されます。

リスクの高いグループには、10年間の冠動脈疾患(CAD)発症率20%以上、すなわち200/10,000人年の方、及び糖尿病既往者が該当します。発症率が上述の数値より大きくなっていますが、CADの定義により、急性心筋梗塞(AMI)のみならず、発症から24時間以内の心臓突然死、CAGB・血管形成術施行が含まれている為です。

ここまで見てくれば、服薬するかしないかはベースラインリスクをアセスメントする事が必要、と理解して頂けると思います。また、横紋筋融解症による入院の発生率0.44/10,000人年は単独で判断する数値ではなく、心筋梗塞の発症リスクと天秤にかけて判断するものであるとも分かって頂けると思います。

脂質異常症と言う同じ診断名であっても、リスクは一様でなく、社会・経済的視点を導入することで、スタチンを飲む必要がある程リスクが大きいとする場合のリスク合意の論拠を示しました。そして横紋筋融解症のリスクが大きいかは、心筋梗塞の発症リスクと天秤にかけて判断する問題と言うことを示しました。

1)木下冨雄「不確実性・不安そしてリスク」日本リスク研究学会編「リスク学辞典(増補版)」
2)わが国における高脂血症治療薬の適正使用にかかる経済的評価。内閣府経済社会総合研究所委託事業「サービス・イノベーション政策に関する国際共同研究」「公的サービス」研究会報告書。

参考文献
薬局2018年4月号 所得格差時代の薬物治療
生活リスクマネジメント

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