ガレノキサシンはデュアルインヒビターでMPC が低く、耐性肺炎球菌に有効かも知れない。

要点:第4世代キノロンのガレノキサシンは、グラム陽性菌に対し、第3世代が主に阻害するトポイソメラーゼIVだけでなく、DNAジャイレースにも同程度の阻害作用を有するデュアルインヒビターであり、トポイソメラーゼIVをコードするParCに変異のある肺炎球菌に対しても耐性菌出現阻止濃度(MPC)が低く、耐性菌出現の選択圧になりにくいと考えられる。

肺炎球菌には、ParC変異によりレボフロキサシンに耐性を示す菌株があり、S. pneumoniae CR-1 、S. pneumoniae D-3197が知られています。ParCはトポイソメラーゼIVを構成する二量体のうち、片方をコードする遺伝子です。グラム陽性菌に対して第3世代キノロンが阻害作用を示す部位は、第一にはトポイソメラーゼIVと考えられています。一方、第4世代キノロンはグラム陽性菌のDNAジャイレースに対する阻害作用が強く、両酵素に対して同レベルで阻害作用を示すデュアルインヒビターとして働くと考えられています1,2)。

キノロン耐性のParC変異のある肺炎球菌に対する、第3世代のレボフロキサシン(LVFX)と第4世代のガレノキサシン(GRNX)を比較するPDのデータが、インタビューフォームに記載されています。それによれば、両薬剤を単回経口投与した時の最小菌発育阻止濃度(MIC)、耐性菌出現阻止濃度(MPC)は、LVFXでMPC:30 MIC:2、GRNXでMPC:1 MIC:0.1でした3)。

ここでPKデータを再確認すると、レボフロキサシン500mg単回投与時のCmax8.04±1.98μg/mL、ガレノキサシン400mg単回投与時のCmaxは8.86±2.36μg/mLです。血漿蛋白結合率は30%、75%で、遊離のCmaxは5.63μg/mL、2.22μg/mL、半減期は7.89±1.04hr、12.41±1.1hrです。腎機能正常の場合、両薬剤の蓄積率は共に1.3程度であり、遊離のCssmaxは7.32μg/mL 、2.89μg/mL程度と推定されます。また、組織移行率は両薬剤ともに良好で、組織中濃度と血漿中濃度の比は>1と考えられます。Time inside MSWが20%を超えると耐性菌が出現すると言う研究がありますが、ガレノキサシンは下気道感染を起こしている肺炎球菌に関し、総じてこの条件をクリアすると思われます4)。

耐性菌の出現確率は約10^-7であり、同時に二つの変異が生じる確率は10^14、すなわち100兆万に1回と、非常に確率的に低いことが分かります。トポイソメラーゼIVを変異させるParC変異はワンポイントミューテーションですが、DNAジャイレースの変異が臨床的に有意となる為には、複数箇所の変異の蓄積が必要になります。生体に感染が成立している際の菌数は10^10個との報告があり、肺炎球菌がParC以外の変異を同時に有する可能性は極めて低いと考えられます4)。

以上から、MPC以上の濃度を達成して、増殖の際に一定の確率で生じるParC変異等の耐性肺炎球菌の残存を無くすには、第4世代キノロンのガレノキサシンを選択する事が、MSW仮説(MSW:mutant selection window hypothesis)から有効と思われます4,5)。

参考文献
1)AMR対策につながる抗菌薬の使い方実践ガイド 月間薬事1月臨時増刊号 2018 Vol.60 No.2 じほう
2)Nakaminami H, et al.  A novel  GryB mutation in meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) confers a high level of resistance to third-generation quinolones. Int J Antimicrob Agents,43: 478-479, 2014  PMID:24656690
3)ジェニナック錠200mg インタビューフォーム
4)耐金光敬  他  耐性菌の抑制とPK/PD   臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 36(4)July 2005  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/36/4/36_4_181/_pdf
5)Dong Y, et al. : Effect of fluoroquinolone concentration on selection of resistant mutants of Mycobacterium bovis BCG and Staphylococcus aureus. Antimicrob Agents Chemother 1999; 43: 1756-1758



吉幾三風に「疑義照会の歌」

「薬局の疑義照会の歌」
ハァ~カルテも無い 検査値無い 処方箋時々間違ってる 患者さん 聞いてみたら お医者様(せんせい)に全てお任せしてます 時として 命に関わる薬の間違い 見つける手段は 標準治療の知識だけ おらこんなシステムいやだ おらこんなシステムいやだ システムの欠陥~ 米国なら薬局からもカルテが見れると言う 早くなれ 米国並み~


肺炎球菌による市中肺炎で、腎機能中等度低下している場合は、ニューキノロンをどのように使用したらよいか。

要点:肺炎球菌の関与を疑う市中肺炎で患者が腎機能中程度低下している場合、レボフロキサシンは減量せず使用する、若しくはガレノキサシンを用いると治療失敗が少なくなると考えられる。ただしレボフロキサシンの中枢系副作用リスクは増加する。

薬物動態/薬力学(PK/PD)は、PKとPDの兼ね合いで決まります。例えばAUC120μg・h/mLの場合、MIC=0.5μg/mLならば、AUC/MIC目標値100を達成出来ますが、MIC=2μg/mLならば、目標値100を達成出来ません。この場合、有効な治療の為には、MICを低下させる(薬剤の感受性に基づいて、他薬に変更する)か、AUCを増大させる(その抗菌薬を増量投与する)かの対処が必要になります1)。

具体的な例を考えると、市中肺炎でペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の関与が疑われ、ガイドラインに従ってニューキノロンを選択したとします2)。更に患者は高齢で腎機能が中等度低下(クレアチニンクリアランス50mL/min)していたとします。この場合、レボフロキサシンを添付文書に従って減量すると、どうなるでしょうか。感染臓器である肺組織中の濃度ではなく、血漿中遊離濃度と言う代理濃度の検討ではありますが、モンテカルロシュミレーションにより、ターゲット値達成率が6割に減少したと言う報告があります。これより治療失敗の確率が高くなることが予想されます3)。

ここで、PK/PDデータを確認してみましょう。レボフロキサシン500mg単回投与時のCmax8.04±1.98μg/mL, AUC0-72h 50.86±6.46μg・hr/mLです。肺炎球菌に対して治療効果を得るためのターゲット値は、f・AUC/MIC≧30です(f:抗菌薬の血漿中遊離分率)。1995年のデータでは肺炎球菌(S.pneumoniae)に対するMIC80 1.56μg/mLです4)。最後に血漿蛋白結合率は30%です。

また、ガレノキサシン400mg単回投与時のAUCは118.1μg/mL・hr/mLであり、感受性の異なる菌株を含む肺炎球菌に対するMIC90は0.10μg/mLとする報告があります5)。血漿蛋白結合率は75%です。

ここで冒頭の話に戻ると、この場合、有効な治療のためには、MICを低下させる(薬剤の感受性に基づいて、他薬に変更する)、すなわち、ガレノキサシンを選択する、と言う方法がひとつ。もしくは、AUCを増大させる(その抗菌薬を増量投与する)、すなわちレボフロキサシンを減量せずに使用する、と言う方法がひとつです。

ただし、レボフロキサシンを減量せずに使用するのであれば、用量依存的な中枢神経系の副作用リスクを勘案する必要があると考えられます6)。

小柄な女性であれば、分布容積が小さく、最高血中濃度も高くなりますので、レボフロキサシンを減量しないで使用するより、ガレノキサシンを選択する方がbetterかと思います。

参考文献
1)AMR対策につながる抗菌薬の使い方実践ガイド 月間薬事1月臨時増刊号 2018 Vol.60 No.2 じほう
2)JAID/JSC感染症治療ガイド2014
3)臨床分離株におけるレスピラトリーキノロンの薬剤感受性調査とモンテカルロシミュレーションによる有効性の評価 小阪直史ほか Feb. 2016 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 69-127 (27)
4)クラビット錠500mg 添付文書・インタビューフォーム
5)ジェニナック錠200mg インタビューフォーム
6)Yachi T et al. Impact of levofloxacin dose adjustments by dispensing pharmacists on adverse reactions and costs in the treatment of elderly patients. Pharmazie 68: 977–982 (2013)  PMID:24400446


PRSPによる市中肺炎では、ニューキノロンの筆頭はガレノキサシンだか、MSW仮説から有効性の説明を試みる。




以前の記事で、肺炎球菌に対してレボフロキサシン(LVFX)が有効であると書きました。JAID/JSC感染症ガイド2014では、ペニシリン感受性肺炎球菌の第二選択であるキノロン群の筆頭に、またペニシリン耐性肺炎球菌の第一選択として筆頭に挙げられているのは、ガレノキサシン(GRNX)です1)。この理由は何でしょうか。

以前の記事で、MPCやMSWと言った概念から耐性菌が選択的に生き残る機序の説明をしましたが、これが今回の鍵となります。

キノロン耐性のParC変異のある肺炎球菌に対する、GRNXとLVFXの単回経口投与時のMIC、MPCは、GRNXでMPC:1 MIC:0.1、LVFXでMPC30 MIC:2とする報告があります。ここで補足したい情報ですが、ペニシリン耐性のある場合、他の抗菌薬にも耐性がある場合が非常に多く、抗菌薬耐性肺炎球菌や、多剤耐性肺炎球菌と呼ぶ方が臨床的意味があると成書にあります2)。

GRNXはCmaxがMIC、MPCを越え、24時間経過しても血中濃度がMSWまで落ちることがありません。一方LVFXのCmaxは、この菌株に対してのMICは超えるもののMPCに達することはなく、血中濃度はMSW内にとどまり、耐性菌出現の可能性が予測されます。 また、経口投与から8時間を経過すると血中濃度はMIC以下に低下し、治療効果が不十分になる可能性もあります3,4)。

従来、肺炎球菌に対してAUC/MIC>25で効果が期待出来るとされましたが、より近年の報告では耐性菌を出さない為にはAUC/MIC>125が必要とされます3,5)。また文献では、キノロン耐性株でもGRNX400mgを投与した場合の遊離AUC/MIC=26.3であったと報告されています5)。

肺炎球菌のMICが低くLVFXで治療可能に見えても、目視出来ないけれど小数存在する薬剤耐性肺炎球菌を選択してしまうかも知れません。GRNXであれば、それを避ける事が出来るでしょう。

菌に対するMPCが低く、かつMSWが狭い薬物ほど耐性菌の発現するリスクが低いと考えられ、LVFXと比較すると、GRNXがペニシリン感受性肺炎球菌の第二選択のキノロン群の筆頭に、またペニシリン耐性(或いは薬剤耐性)肺炎球菌の第一選択薬に選ばれる理由が分かると思います。

参考文献
1)JAID/JSC感染症ガイド2014 ライフサイエンス出版 2015
2)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 医学書院 2008
3)渡辺彰 藤村茂編集 抗菌薬PK-PD実践テクニック 南江堂 2015
4)高畑正裕ほか:Garenoxacinのin vitro抗菌活性 日化療会誌55:1-20.2007
5)宮崎修一ほか :日常診療に役立つ抗菌薬のPK/PD ユニオンエース 2006

ニューキノロンの耐性に関するMSW仮説について




ニューキノロンの耐性を防ぐ為に、PK/PD理論から提唱されている仮説を紹介します。

まず、感染症領域の指標となるパラメーターが幾つかありますので、再確認しておきましょう。
最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)。 細菌の視認出来る発育を阻止できる抗生物質の最小濃度。
耐性菌発育阻止濃度(mutant prevention concentration:MPC)。薬剤耐性変異株の増殖を抑制する抗生物質の濃度。
耐性変異株選択濃度域(mutant selection window:MSW)。MICとMPCの間。
耐性変異株選択濃度域通過時間(time inside MSW:TMSW)。MSWを通過するのに要する時間。

抗菌薬濃度がMICに達すると、薬剤に感受性のある菌株の発育は阻止されますが、MPC以下であれば、肉眼で培地に確認出来ない位僅かに存在する薬剤耐性変異株だけは増殖し得ます。この濃度幅がMSWで、この幅が広いと、容易に耐性化すると考えられます。

これが菌の耐性化を巡る「MSW仮説」です。細菌の感受性に遺伝的な異質性heterogeneityがある事に基づく理論で、例えば、ある抗菌薬に対して測定されたMICが1μg/mLの菌株があったとして、そこに含まれる菌株の全てが1μg/mLのMICを持つように見えますが、あくまで試料中の大多数の菌株のMIC値を反映したものに過ぎず、実際はより低いMICから、より高いMICを示すものまで、様々な感受性を持つ菌株が、ごく少数ながら混在していると考えられます。
上記のMSWは、耐性株だけを選択して生き残らせてしまう、抗菌薬の血中濃度の範囲と言えます。

参考文献
抗菌薬PKPD実践テクニック 編集 渡辺彰 藤村茂 南江堂

論文紹介:「臨床分離株におけるレスピラトリーキノロンの薬剤感受性調査とモンテカルロシミュレーションによる有効性の評価」




論文紹介:「臨床分離株におけるレスピラトリーキノロンの薬剤感受性調査とモンテカルロシミュレーションによる有効性の評価」
小阪直史ほか Feb. 2016 THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 69-127 (27)
http://jja-contents.wdc-jp.com/pdf/JJA69/69-1/69-1_27-40.pdf

要点:論文から、肺炎球菌に対するレボフロキサシン、ガレノキサシンの有効性(モンテカルロシュミレーションによるPK/PDターゲット値達成率)に関する記述を抜き出した。LVFX、GRNXのターゲット値達成率は、それぞれS. pneumoniae(86.9%,100%)だった。腎機能障害時に用いられる投与量について検討したところ、LVFXのターゲット値達成率低下は著しく、特にCLcrが50mL/min付近での達成率は減量前の6割程度まで低下した。一方で、GRNXはPK/PDターゲット値達成率への影響はほとんど認められなかった。

キロノンは処方頻度の増加に伴い、様々な菌で耐性化が進んでいます。肺炎球菌も同様で、2014年の厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)では、分離された肺炎球菌(髄液検体外)の3.4%にキノロン耐性が報告されています1)。本論文では肺炎球菌に対するLVFX,GRNXの有効性を、モンテカルロシュミレーションによるターゲット値達成率を見ることで検討しています。

Craigの理論として有名ですが、キノロンのPK-PDパラメーターとしてf・AUC/MIC、f・Cmax/MICがあり、臨床効果や耐性菌選択との相関が報告されています。有効性の指標となるPK/PDターゲット値としてf・AUC/MIC値が用いられ、肺炎球菌などの連鎖球菌では30以上が必要とされます2)。

肥満と分布容積に関連する事項ですが、PAIら3)は病的肥満患者68例(BMI≧40kg/m2)に対してLVFXの血中濃度測定を行い、ベイジアン法を用いてPKパラメーターを算出した結果、LVFX投与量は実体重に基づき用量設定を行うのでは無く、理想体重を用いた推定CLcrに基づき設定されるべきであると報告しています。また、LUQUEら4)は病的肥満患者(179kg, BMI: 56.2kg/m2, CLcr:78mL/min)に対してLVFXを1日2回750mgを点滴静注で投与したケースレポートにおいて、LVFXに対する用量調節は不要と報告しています。また、GRNXの検討においても、体重60kgと100kgの患者比較においてCmaxとAUCは0.86倍の低下を認めたとしていますが、その程度は少ないとして1日1回400mgの用量変更は不要としています5)。これらの報告より、患者体重に基づくレスピラトリーキノロンの用量調節の必要性は少ないものと推察されます。

各薬剤の効果は、血漿中の遊離薬物濃度に依存するものとして、LVFX、GRNXの血漿蛋白結合率をそれぞれ30% 6)、75% 7)からf(非血漿蛋白結合率:%)を算出してPK-PD解析に用いています。各薬剤の用法用量は、本邦の添付文書に準じて、LVFXは500mgを1日1回投与、GRNXは400mgを1日1回投与としました。PK/
PDパラメーターはf・AUC0–24h/MIC (f×dose/CLcr/MIC)により各菌種におけるターゲット値の達成率を算出し、有効性を検討しました。ターゲット値はグラム陽性菌に対して30以上としました2)。

結果ですが、常用量を用いた場合、モンテカルロシュミレーションにより算出したLVFX、GRNXのターゲット値達成率は、それぞれS.pneumoniae(86.9%,100%)でした。

更に、腎機能によるPK/PDターゲット値達成率の影響を検討するため、CLcrを20から140mL/minまで変動させ、各レスピラトリーキノロンにおけるターゲット値達成率をMCSより算出しました。腎機能障害時(CLcr<50mL/min)に用いられる投与量(LVFX(250mg/日)、GRNX(200mg/日))について検討したところ、LVFXのPK/PDターゲット値達成率低下は著しく、特にCLcrが50mL/min付近でのS.pneumoniaeに対する達成率は減量前の6割程度まで低下しました。一方で、GRNXはPK/PDターゲット値達成率への影響はほとんど認められませんでした。

1) 厚生労働省院内感染対策サーベイランス (JANIS):http://www.nih-janis.jp/report/open_ report/2014/3/1/ken_Open_Report_201400.pdf
2) ANDERSSON, M. I. & A. P. MACGOWAN: Development of the quinolones. J. Antimicrob. Chemother. 51(S1): 1~11, 2003
3) PAI, M. P.; P. COJUTTI & F. PEA: Levofloxacin dosing regimen in severely morbidly obese patients (BMI ≥40 kg/m2) should be guided by creatinine clearance estimates based on ideal body weight and optimized by therapeutic drug monitoring. Clin. Pharmacokinet. 53: 753~762, 2014
4) LUQUE, S.; S. GRAU, M. VALLE, et al.: Levofloxacin weight-adjusted dosing and pharmacokinetic disposition in a morbidly obese patient. J. Antimicrob. Chemother. 66: 1653~1654, 2011
5) TANIGAWARA, Y.; K. NOZAWA, H. TSUDA, et al.: Optimal dose finding of garenoxacin based on population pharmacokinetics/pharmacodynamics and Monte Carlo simulation. Eur. J. Clin. Pharmacol. 68: 39~53, 2012
6) FREI, C. R.; N. P. WIEDERHOLD & D. S. BURGESS: Antimicrobial breakpoints for Gram-negative aerobic bacteria based on pharmacokineticpharmacodynamic models with Monte Carlo simulation. J. Antimicrob. Chemother. 61:
621~628, 2008
7) VAN WART, S.; L. PHILLIPS, E. A. LUDWIG, et al.: Population pharmacokinetics and pharmacodynamics of garenoxacin in patients with community-acquired respiratory tract infections. Antimicrob. Agents Chemother. 48:4766~4777,2004

腎機能中等度低下時にアテノロールを反復投与すると、最高血中濃度は単回投与時の1.5倍になる。




要点:腎機能が中程度低下した患者にアテノロールを反復投与した場合、最高血中濃度は単回投与時の1.3~1.5倍になる。服用中であればただちに減量迄しなくとも、徐脈や低血圧のアセスメントを慎重に行うことで対応可能かも知れない。

テノーミン錠25/テノーミン錠50の添付文書には、慎重投与の項目に以下の記載があります。
-------------------------
重篤な腎障害のある患者[薬物の排泄が影響をうける可能性があるため、クレアチニンクリアランス値が35mL/分以下、糸球体濾過値が35mL/分以下の場合は投与間隔をのばすなど、慎重に投与する]。
-------------------------
添付文書には腎機能に応じた具体的な減量基準の記載はありません。中程度低下した場合、減量の必要性はあるでしょうか。ここでは、その手がかりとなる情報を得るため、考察しました。

アテノロールは腎消失型の薬剤で、94%は未変化体のまま腎から排泄されます。腎抽出率ER<0.3で消失能依存性(律速段階は腎の排泄能)であり、遊離アテノロールの経口クリアランスは、腎固有クリアランスを吸収率で除したもので表現されます2)。

CLpof=CLintR/Fa

ここで腎固有クリアランスはクレアチニンクリアランスで代用してもよいと考えられます。 テノーミン錠25/テノーミン錠50のインタビューフォームに、腎機能に応じた半減期の延長に関する記載がありました。

I群 血清クレアチニン1.5以上 半減期13.7時間
II群 血清クレアチニン1.5未満 半減期6.7時間

年齢40歳、体重65kgと仮定すると、Cockcroft-Gault式より、血清クレアチニン1.5はクレアチニン・クリアランス60mL/minに相当します。 従って、I群は腎機能中程度低下(CCr≦60)、II群は腎機能正常(CCr>60)と読み替えられます。

蓄積率:Rを求めます。R=1/(1-exp(-0.693xTau/T-half))ですが、簡便に表を用います3)。
(Tau/T-half) >4.0  3.0  2.0  1.5  1.0  0.9  0.8  0.7  0.6  0.5 0.4 0.3 0.2
(蓄 積 率:R)1.0  1.1  1.3  1.5  2.0  2.2  2.4  2.6  3.0  3.4 4.13 5.33 7.73

I群はTau/T-half=1.75より、蓄積率R:1.3~1.5
II群はTau/T-half=3.58より、蓄積率R:1.0~1.1

以上より、アテノロールを反復投与した場合、腎機能正常であれば蓄積性は殆どありませんが、中等度低下していれば、最高血中濃度は単回投与時の1.3~1.5倍に上昇することが分かりました。

新規処方であれば低用量から開始した方が安全かも知れませんが、以前から服用している場合は、ただちに減量の必要はないかも知れません。徐脈や低血圧を慎重にアセスメントする事が現実的な対応と言うこともあり得ると思います。

参考文献
1)テノーミン錠25/テノーミン錠50 添付文書・インタビューフォーム
2)第3版 臨床薬物動態顎 薬物治療の適正化のために 緒方宏泰編著 丸善出版
3)薬物動態学の基礎と薬物投与設計への応用    灘井 雅行 日児腎誌 Vol.19 No.2 47(111)-59(123)

レボフロキサシンのPKと用量設定について




レスピラトリーキノロンは、市中肺炎のエンペリックセラピーにおいて、高齢者や肺に基礎疾患を有する患者の場合、使用を積極的に考慮してよいとされます1)。
レボフロキサシン(LVFX)は、ガイドラインでキノロンの筆頭に挙げられています。肺炎の主な起因病原体である肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラに有効ですが、ここでは肺炎球菌に有効である事を、PK/PDの観点から検証してみようと思います。

LVFX500mg単回投与時のCmax8.04±1.98μg/mL, AUC0-72h 50.86±6.46μg・hr/mLです。肺炎球菌に対して治療効果を得るにはAUC/MIC≧30、 耐性菌を出さない為にはCmax/MIC≧5が必要と報告されています。この条件を満たすMIC≦1.6μg/mLです。1995年のデータではS.pneumoniae MIC80 1.56μg/mLです。抗菌薬は遊離型のみ活性を発揮するため、LVFXの血漿蛋白結合率が25%程度ある事を考慮する必要がありますが、腎機能正常でも反復投与による蓄積があり、蓄積率:R=1.1~1.3程度となる事が予想されます。この2点が相殺されることで、PK/PDの観点からは、肺炎球菌に対してLVFX500mg24時間おきでも有効性があるのではないかと考えられます。

文献検索した所、用量設定の根拠として、モンテカルロシュミレーション法により肺炎球菌に対するレボフロキサシンのターゲット値がAUC/MIC≧30、 Cmax/MIC≧5で検討されていた事が確認されました2)。単回投与での検討で、論文には血漿中薬物濃度を使用、MICは国内における薬剤感受性サーベイランスで2004年に収集された臨床分離S. pneumoniae に対するLVFX のMIC 分布を用いている、と記載されています。血漿中濃度との事ですが、Cmax6μg/mLと言う数値を利用しているため、蛋白結合率25%を加味した遊離の薬物濃度と読み替えが出来そうに思えます。

ここまで理論的な考察を重ねて来ましたが、レボフロキサシンのインタビューフォームには2011年に発表された市販後調査報告が収録されています。使用成績調査の項目に原因菌別の有効率・菌消失率と言う一覧があり、肺炎球菌への有効率98.3% ( 170/ 173)、 菌消失率98.5% ( 131/ 133)と記載され、実臨床においてもこの用量設定による効果が証明されているようです3)。

参考文献
1)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症― http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jaidjsc-kansenshochiryo_kokyuki.pdf
2)戸塚恭一ほか 総説「Levofloxacin 500 mg 1 日1回~新用法・用量~」 日本化学療法学会雑誌 SEPT.2009 VOL.57 NO.5 
3)堀 誠治ほか 市販後調査報告 「Levofloxacin 500 mg 1 日1 回投与の安全性・有効性」 日本化学療法学会雑誌 2011;59(6):614-633

蓄積率を利用することで、半減期が延長している患者の定常状態の最高血中濃度が何倍になるか予測する。




ある薬物を反復投与した場合、投与間隔を半減期で割ったものが3以下であれば、半減期の5倍の時間で定常状態に達します。これをRitschel理論と言います。
Tau/T-half≦3
Tau:投与間隔 T-half:半減期

この時、蓄積率(R)を使用すると、薬物の定常状態における最高血中濃度(Css.max)を簡便に推定することが出来ます。
R=1/(1-exp(-kel・Tau))=1/(1-exp(-0.693Tau/T-half))
Css.max=R・Cmax
kel:消失速度定数
ただし、適応にあたって幾つか留意すべき事があります。

Cmaxが外国人のデータである場合、体格を補正する必要があります。おそらく体重は日本人より大きく、元データの分布容積が大きいので、そのままでは血中濃度を実際より小さく評価する可能性があります。
Cmax=F・S・D/Vd
F:バイオアベイラビリティ S:塩係数 D:投与量 Vd:分布容積

薬物が腎排泄型で、患者の腎機能が低下している場合、元データに比して半減期が延長している、全身クリアランスが小さくなっているので、そのままでは患者の血中濃度を実際より小さく評価する可能性があります。腎機能に応じた半減期を文献検索すべきです。
Cltot=kel・Vd=0.693Vd/T-half

具体的な血中濃度を予測するよりは、半減期が延長している場合に、定常状態の最高血中濃度が通常の何倍になるか、と言う観点で使用するのが良いかと思います。

最後に、Tau/T-halfと蓄積率の関係を計算した表を利用して、簡便に最高血中濃度を推定してみましょう。

Tau/T-half >4.0 3.0 2.0 1.5 1.0 0.8 0.7
(蓄 積 率 :R) 1.0 1.1 1.3 1.5 2.0 2.4 2.6

レボフロキサシンは添付文書を参照すると、腎機能正常であれば半減期9.17時間ですが、中等度低下で15.88時間に、高度低下で33.67時間に延長しています。

腎機能に応じた減量基準に従わず、常用量500mgを24時間おきに投与した場合、Tau/T-halfは、各々2.6、1.51、0.71なので、蓄積率Rは、各々1.1~1.3、1.5、2.6と推定され、定常状態の最高血中濃度は、単回投与時のCmaxのR倍と予測されます。

レボフロキサシンの中枢神経系への副作用は用量依存性があるとIFに記載されていますから、蓄積率と言う概念を使用することにより、減量しない処方の有するリスクが可視化されると考えます。

参考文献
1)灘井 雅行 薬物動態の基礎と薬物投与設計への応用 日児腎誌 Vol.19 No.2 47-59

童話「西の猫と東の猫」




ヨーロッパの猫たちに、動脈硬化の進行を抑える薬を与え、心筋梗塞を予防したと言う研究が発表されました。それを聞いた日本の人たちは、自分たちの飼っている三毛猫たちに、同じ薬をこぞって与えるようになりました。それで飼い猫たちを元気で長生きさせられると思ったのです。

でも、日本の人たちは知りませんでした。薬を与えても、心筋梗塞を予防出来るのは、心筋梗塞になる猫のうちの三匹に一匹だけ。薬を与えていても、全ての猫の心筋梗塞を予防することは出来ません。

そして、三毛猫が心筋梗塞を起こす確率は、ヨーロッパの猫の1/3以下であり、健康な三毛猫にこの薬を与えても、そもそも得になるか分からない、薬代に見あった価値があるか分からない、と言うことも、日本の人たちは知りませんでした。

この事を知っている猫の薬屋は、いつも心の中で悩んでいます。いつか、本当の事を上手く話せて、その上で飼い主が薬を与えるか、与えないか決めることが出来るようになれば良いのですが。

参考文献
1)the West of Scotland Coronary Prevention Study Group. Prevention of coronary heart disease with pravastatin in men with hypercholesterolemia. N Engl J Med. 1995;333:1301-07.
2) MEGA Study Group. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan(MEGA Study):a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006;368(9542):1155-63.
3)所得格差時代の薬物療法 薬局 2018 Vol.69, No.5:42-47 南山堂